第45話「心理戦 ジェイドVS海兵隊長」

「ハハハ! そりゃあ、残念だったな。お前は、とんでもない貧乏くじを引いたぞ。あのまま元の船に乗っているか海に飛び込んでいた方がマシだったな」


 海賊のひとりがそう言って笑う。


「おい。やめろ」


 甲板長が低い声でそう言った。軽口を叩いた海賊は、ハッとして黙ってしまった。


「こいつ、どうする? 捕虜牢にぶち込むか?」


 甲板長が海兵隊長にたずねる。すると、別の海賊が口をはさむ。


「歳は少し食っちゃあいるが、ガキはガキですからね。生贄は、ひとりでも多い方がいい」

「そうだ。地獄の門まで、もうすぐだ。ちょうどいい」


 別の海賊もそう言って笑う。


「それはいい! 儀式の生贄に捧げろ!」

「そうだ! 生贄はひとりでも多い方がいい!」


 手下の海賊どもが、口々にそう言って、手を叩いてわめき立てる。


 地獄の門に、生贄……か。だんだんとわかってきたぞ。それに、ベリルのことを聞いてこないってことは、やっぱりコイツら、俺がひとりだと思っているらしい。


 ジェイドは、心の中でそう思った。


「捕虜牢に連れていくぞ。いいな?」


 黙ったままの海兵隊長を見かねて、甲板長はそう告げた。


「待て」


 海兵隊長が止める。


「船医をやったのは、お前か?」


 ジェイドを見てそう訊いた。


「船医? ああ、あの血まみれの部屋にいたやばいのか。いきなり襲ってきたからな」

「そのとき、ナイフを盗んだだろう? 船医の手術ナイフだ」

「ナイフ? いや、どっかに転がってんだろ? あいつ、派手にブンブン振り回してたからな」


 平然と嘘をつく。


「ほぅ。切断狂いの船医をやったのか」


 海賊のひとりが、少し感心したようにつぶやいた。


「なにもしてねぇのに、いきなり襲ってきて。足を切らせろだ、手を切らせろだとうるさかったよ。ノコギリやらナイフやら振り回して。ものを盗む暇なんかなかったね」

「…………」

「なんだい? まだ武器を持っているとでも? そんなに心配なら、裸にでもなりましょうか、海兵隊長殿。イテッ!」


 甲板長が、ジェイドの頭にげんこつを喰らわす。


「口の減らないガキだ。オイ、お前ら。捕虜牢にぶち込んどけ。ヘマするんじゃないぞ」


 甲板長は、そう言って、ほかの海賊に、ジェイドの手首を縛ったロープを渡す。


「待て」


 連れていかれるジェイドを、またもや海兵隊長が止める。


「まだなにか? それとも俺とお別れするのが寂しいんでしょうか?」

「お前……、本当に一人か?」


 海兵隊長は最後にこう訊いた。


「……ああ」

「……俺を見ろ」


 海兵隊長が、無言でジェイドに顔を近づける。ジェイドの顔をまっすぐに見つめる。ジェイドの言葉が真実か嘘か見破ろうとしているようだった。


 チッ……! やっぱり、コイツだけは油断できねぇ。


 ジェイドが、ごくりとつばを飲み込む。思わず海兵隊長から目をそらそうとした時だった。木が軋むような音が聞こえてきた。

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