第37話「海兵隊長の推理」
「こっちです」
さきほども手術室へ来ていた酒瓶の海賊が、海賊の幹部を連れて、また手術室へと戻っていた。
「…………」
手術室に入ると、一番背の高い鋭い眼差しの男が、無言で部屋を見渡す。幹部のひとりで海兵隊長をしている男だった。
「反乱ではあるまいな? 船医は、みなに煙たがられていたからな」
海兵隊長の横に立つ太った男がそう訊く。頭に黒い三角帽をかぶり、膝丈のジャケットを着て、斜めに革の肩帯をかけていた。
いで立ちから、ただの船員とは違った。海賊大尉とよばれる幹部である。
「どうも、そういう感じではないかと」
酒瓶の海賊は、海賊大尉に向かってそう答えた。
「では、だれにやられたというのだ? 捕虜牢の子どもが逃げ出したわけでもないのだろう?」
海賊大尉がたずねる。
「はい。全員、牢の中にいました。今も大工長とその部下が見張りをしています」
それを聞いて、大尉はうなった。無言のままの海兵隊長を見やる。
海兵隊長は、棚の上に置かれた布のケースを手に取った。メスとして使う手術ナイフが一本抜きとられている。床にも、そのナイフは見当たらない。
彼は、床にひざまずくとランタンを近づけた。船医のなれの果ての灰の山は、陶器の壺に入れられ、すでに運び出され、もうここにはなかった。
「反乱だと思うか?」
海兵隊長の様子を見て、大尉が訊く。
「若返りの儀式のあとに、船医殿本人に訊けばわかるでしょう。……しかし、臭いませんか?」
海兵隊長はそう言った。
「臭う? なにがだ? 血と肉の腐った臭いしかしないが」
大尉はそう言うと鼻をつまむ。
「かすかに甘い……。そして、スッと鼻に抜ける。ハーブのような」
「ハーブ?」
海兵隊長は、床に顔をつけるようにして、香りのもとを探った。手術台の下に、なにかを見つける。指でつまみ、拾いあげた。
それは、くしゃくしゃに丸まった紙片のようだった。立ちあがると大尉と酒瓶の海賊に見せる。
「これは?」
酒瓶の海賊が鼻を近づけると甘いミントの香りがした。
「どうやら、今宵の襲撃で、密航者が紛れこんだようですね」
海兵隊長の言葉を聞いて、大尉と酒瓶の海賊は互いを見合った。
「「ほ~う」」
不気味に笑う。
「見張りの連中に伝えろ。久しぶりに、楽しい
大尉は酒瓶の海賊にそう告げた。
「捕まえたものに褒賞は出るんでしょうな?」
酒瓶の海賊もうれしそうに笑い返す。そして部屋を出て行った。
「しかし、痕跡を残すとは、間の抜けたやつだ」
大尉は、海兵隊長がつまんでいる包み紙を手に取ってそう言った。
「あるいは、やつらかもしれませんが……」
単独ではない可能性も考え、海兵隊長は冷静にそう答えた。
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