第20話「海賊の正体」

 静まり返った部屋。手術台の上で大股に立ったベリルの荒い息づかいだけが聞こえる。


「へえ……。やるじゃん」


 ベリルの行動に驚きながらも、ジェイドはそう言った。「痛テテテ」と立ちあがる。


 台の上のベリルはひざが震えていた。パン!と、ジェイドがそのひざをたたいた。


「イテ」

「お怪我はございませんか?」


 ジェイドが、まるでお姫様に手を差しのべるように、優しくベリルに手をのばす。

 パシリとその手をはたいて、ベリルは台から飛び降りた。ふたりして、のびた船医をのぞき込む。


 落ち着いてその顔を見ると、なんとも奇妙だ。


 船医のこの顔はどうだろう?まるでミイラになりかけのような灰色の顔をしているのだ。身体から水分が抜けたような、とても生きている人間とは思えない姿だった。生気と言うか、生きている感じが抜けているのだ。


「なんなんだよ?こいつは」

「ほかの海賊たちも、みんなこうなのかな?」


 ふたりとも頭が混乱している。

 するとどうだろう。今度は、船医の身体が、少しずつ炭のように黒くなりひび割れてきたではいか。


「「!?」」


 ふたりの目の前で、全身が炭化すると、次は、熱を持った木炭のようにひび割れる。そのひび割れから火の粉が噴き出して、身体が崩れはじめた。


 恐怖に、ふたりは、声もなく後ずさりした。


 火の粉が消ると、船医の身体は、人の形をした灰の山になった。


「おい。どうなってるんだよ!?なんなんだ、こいつらは?」

「どうでもいいさ。それよりも、今は、早くここから逃げたほうがいいよ」


 だが、すでに手遅れだった。


 ふたりの耳に、遠くのほうから足音と話し声が聞こえてきたからだ。鍵がかかっている通路の方から聞こえてくる。


 足音を立てないように、でも素早く、ふたりは、扉に近づくと、小さな格子窓から通路を見やった。明かりが揺れながら近づいてくる。

 足音も声も少しずつ大きくなってくる。その気配からして、二人以上はいるようだった。


「ちょっと派手に暴れすぎたかな」


 小さくため息をもらすと、ジェイドは、暗い手術室をきょろきょろと見回した。


「早く逃げよう。そうだ。衣装部屋にあった箱の中だったら、見つからないかもしれない」


 ベリルは、ジェイドの服を引っ張って、急いで手術室を出ようとした。


「かゆくて死ぬんじゃなかったか?」


 そう言って、ジェイドは弟を止めた。


「バカなの!?冗談言ってる場合かよ!早く!」

「いや。ここはイチかバチか、俺のバカな案に乗ってみないか?」


 ジェイドが、親指を立てて部屋のすみを指さした。大きな樽が転がっている。

 それを見て、ベリルはしかめっ面をした。

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