第19話「初戦闘 切断狂いの船医戦③」

「ふたりとも手足をちょん切ってやる!樽に湧くウジ虫と同じように這いずる以外できんようになあ!!それとも切り刻んで豚どものエサにしてくれようか!?」


 船医は、涙が止まらない目を手で押さえながら、もう片方の手で、棚の引き出しを開けると、なにかを取りだした。


 ガチャガチャと金属音がする。手術道具をおさめた布のケースだった。中に入っていた細長いナイフを取りだす。


 ナイフを握ると、ところかまわず振り回しはじめた。


 ジェイドとベリルは、急いで手術台の下に身を隠す。

 ジェイドが、手術台の脚のあいだから、船医の足首を思いっきり蹴りつける。船医が短い悲鳴をあげて、がくっと床に転んだ。


「終わりだっ!」


 ジェイドは、すばやく台の下から這い出すと、ボールを蹴り飛ばすように、船医の頭をつま先で蹴ろうとした。

 右足を思い切り振りあげて、船医の顔を撃ち抜く。


──ばしっ!!


 つま先が船医の顔に届く前に、ジェイドは足首をつかまれてしまった。


 怒った船医は、立ちあがりざまに、ジェイドの足を思いきり引っ張る。

 今度はジェイドがすっ転んだ。逆さ吊りにされたような状態だ。後頭部を床で強く打ってしまった。

 目の裏でバチリと火花が飛んで、一瞬気を失いかける。


 船医は、両腕でジェイドの身体を頭上まで持ちあげると、力まかせに放り投げた。ジェイドの身体が、手術室の隅まで飛んでいく。壁際の樽に思いっきりぶつかった。


 はずみで樽が、盛大な音を立てて横倒しに転がる。切断された手足が床にぶちまけられる。

 一緒に白くて丸っこいものがたくさん転がり出てきた。コロコロ転がると、うにうにと動きはじめる。丸々と太った大きなウジ虫だった。


「いい子になる手術が必要だな」


 ナイフを持ちなおし、船医が、倒れているジェイドに迫る。


「俺は十分いい子だよ」


 痛みで立ちあがれないジェイドは、そばに転がっている足やら手やらを船医に向かって投げつける。


 船医は構わずジェイドに迫って来る。手術用のナイフをもったいぶって見せつけた。

 その飾り気のない片刃のナイフは、細かいギザギザが入っていて、冷たく光っていた。


「これはな、骨を切断する前に使う手術ナイフだ。肉と神経を裂くときに使う。ステーキナイフよりもよく切れるんだぜ?痛いぞぉ」


 そう言って笑うと、ナイフを振り下ろす。


「うわーーーーっ!!」


 船医の背後から、絶叫が聞こえた。その大声は、手術室に響きわたる。


「!?」


 船医が振り返ると、手術台の上にベリルが立っていた。

 両手になにかを握り、大きく身をよじって振りかぶっている。さっき船医が手から落としたノコギリだ。


 ドチャ────ッ!!


 ベリルが、船医のあごを大ノコギリで撃ち打ち抜く。肉がえぐれる何とも嫌な音がした。


──バイィィィィイン。


 ノコギリがベリルの手からすっぽ抜け、なんともふざけた音を立てながら飛んでいく。

 船医のほうは、その場で膝から崩れ落ち、動かなくなった。

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