第18話「初戦闘 切断狂いの船医戦②」

 ギラギラと輝く目で、船医がノコギリの刃を見つめている。


「あいにく麻酔用のラム酒は切らしている。麻酔なしですまんな。まあ、どのみち、みんな、手術がはじまればすぐに気絶するから関係はないがな」


 そう言って、左腕でベリルの腕を押さえた。

 ベリルは、死に物狂いで逃れようとするが動けない。そして、その腕にノコギリの刃が迫ってきた。


 全身の汗が噴き出す。


「うむ。柔らかないい筋肉だ。それにこの細さならば、手術ナイフで肉や神経を裂かずに、そのままノコギリでイッてもいいな」

「ぐぅぅぅっ!!」


 抵抗するベリルの腕に、ノコギリの刃が触れる。

 船医にとって、待ち焦がれた手術の時間だった。彼は、狂気じみた吐息をもらしながら、身をかがめて、ぐっと台に顔を近づけた。


 とんとん──


 だれかが船医の肩をたたく。


「ん?」


 船医が顔を向けると、船医の真横にジェイドがいた。

 ジェイドは、すっと手をのばすと、船医のマスクを下へずらした。


 間髪入れずに、露わになったその目と鼻に、口からなにかを噴射する。それは、霧のように、船医の顔にかかった。


「ぬぐ……。なにしやがる」


 驚いて、船医は目を丸くする。だが、一瞬身を固めたかと思うと、急に苦しみだした。


「あぁっ!目がっ!なにをしやがった!くそったれのガキがっ!」


 船医の目を強烈な痛みが襲っていた。鼻の奥にも激痛が走る。涙があふれて止まらない。たまらずノコギリを床に落とし、両手で目をおおった。


 船医が苦しんでいる隙に、ジェイドは、ベリルの胴を縛っている革ベルトを外した。ベリルの服を引っ張って、弟をたぐりよせる。


「逃げたのかと思ったよ」


 猿轡をずらして、ベリルはそう言った。大きく息をする。


「バ、カ、言う、な……!ゴホッ!ゲホッ!」


 なぜだか、ジェイドも、苦しそうに咳きこみはじめる。

 ポーチから瓶を取りだすと、コルク栓を開け、水を口に含んで、すぐに床に吐き捨てる。


「どうしたっての?」


 涙を流す兄を見て、ベリルは、よくわからずにまばたきをした。

 ジェイドが無言で左手をつきだす。トウガラシの破片が乗っていた。配給部屋から持って来ていたものだった。


「トウガラシスプレー、お見舞いしてやった。ま、自爆技だったけどな。お~辛っ!ゲホ」


 咳払いしながら、ジェイドは笑った。


「ゆる、さんぞ」


 苦しみに悶えていた船医が、低い声で唸った。棚に手をつき、よろめきながら立ちあがる。

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