第21話「三人の海賊①」
「どうかしたんですかい、船医?」
ランプを手にした海賊の船員が、手術室の扉を叩いた。小さなのぞき窓から中をのぞくが、なんの反応もない。
「おい。扉を開けてみろよ」
すぐ後ろにいたもう一人が、そう言った。左手にランタンを、右手には骨つきのチキンを持っていた。
「嫌だね!開けたきゃお前が開けろ。俺は手足を切られるのはごめんだ」
「どうせ、いつもの禁断症状じゃあないのか?手術がしたくて暴れてたのさ」
「いや。いつもと様子が違っていた。それに、子どもみたいな叫び声も聞こえた」
一番奥にいた三人目の海賊がそう言った。明かりは持っておらず、その代わりに片手に酒瓶を握っている。
前にいるふたりは、この海賊船のほとんどの船員たちと同様に、黄ばんだゆるゆるのシャツと茶色く変色した
「ともかく、開けてみろ」
酒瓶の海賊が、扉の一番近くにいるランプを持った海賊を見る。
彼は、深くため息をもらし、首を横にふると、仕方なくかんぬきを外した。
ぎしりと音を立てて扉が開かれる。部屋中を照らすように、ランプを高くかかげた。
「なんじゃこりゃ!?」
ランプを持つ海賊が床を見て驚きの声を上げる。
恐れていた船医は、人の形の灰になっていた。その近くに手術に使うノコギリが転がっている。
床にはウジ虫が這っていて、船医がこれまでに切断してきた腕や足が散らばり、それをつっこんでいた樽が、いくつも横になって倒れていた。
「こいつは、どうなってんだ……」
骨つきチキンの海賊がぼそりと言った。
「だれにやられたんだ」
ランプ持ちの海賊が灰の山を照らす。三人は、おそるおそるそれをのぞき込んだ。
「暴れ回って、自分で自分の頭でもぶち抜きやがったか?」
骨つきチキンの海賊がそう言って、むしゃりとチキンをほおばった。
「ともかく、幹部たちに知らせんとな」
ランプ持ちの海賊が、ふたりを見る。
「こりゃあ、大工長はうれしがるだろうよ。あいつは、船医の名前が出るだけで真っ青になるくらいだからな」
骨つきチキンの海賊が鼻で笑った。
「大工長って、船大工たちを仕切っているあの幹部か?どうして?」
「知らないのか?切断狂いの船医が、ここに閉じ込められることになった事件さ。ほんのかすり傷程度だったのに、大工長は左足を切断されたんだ」
「それじゃあ、大工長の義足はその時の」
「そうだ。そんでもって、切断手術をする時、ふつうは、麻酔代わりに酒をたらふく飲ませて酔わせてからやるだろう?でもその時、たまたま酒が切れてて、シラフでやったんだ、手術を。そのことがあるもんだから、大工長、船医を恐れて船大工の作業部屋に引きこもるようになってな。今じゃあ、手術ナイフを見ただけでふるえあがるんだよ」
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