第16話「闇に潜むもの」

 部屋には長方形の木の台が置いてある。ちょうど人が寝そべれるほどの大きさのその台は、どこよりも黒く、あちこちに、ひっかき傷のようなものがたくさん刻まれていた。なにより異様なのは、革ベルトが台に固定されていることだ。


 壁にそって背の低い棚がならび、木枠で固定された汚れた瓶には、なにやらごちゃごちゃと入っている。床には大きな樽がいくつも置いてある。

 樽のひとつに光を向けると、花瓶に乱雑に花を生けたように、ほとんど骨となった手や足が突っ込まれていた。


「海賊船に拷問部屋かよ……。冗談だろ?」


 服で口と鼻を押えたまま、ジェイドは言った。声が引きつっている。


「違うよ。ここは手術室なんだ。あの台は手術台さ」

「手術すんのに、こんなベルトが必要なのか?」

「麻酔がない時代はね。ラム酒で酔わせて手術してみたいだよ。だけど、酔ってたってたかが知れてる。無理やり固定しないと痛みで暴れたんだってさ……」


 それを聞いて、ジェイドは身震いした。


「な、なるほど。部屋中の黒いのは、木に染み込んだ返り血ってわけか」


 黒く変色した血は、天井にまで届いている。


「ねぇ、ジェイド。さっきのやつらの話、どう思う?」


 ベリルが問いかける。


「『下の世界も、俺たちがいた時代に比べてどうのこうの』ってやつか?」

「うん。この船の海賊たちって、一体何者なんだろう?ただの、海賊なのかな?」

「ただの海賊ってことはないんじゃないか?ただの海賊が空飛ぶ船に乗っているかね?」


 ふたりは、まだこの目ではっきりと海賊たちの姿を見たわけではない。商船を襲う姿も、遠目で確認しただけだったし、海賊たちは皆フード付きのマントを身に纏っていた。隠れているときもはっきりとは姿をうかがえなかった。


「だけどさ。話しは、ここを出てからにしないか?立ち話するには最悪の場所だ。だろ?」

「たしかにそうだよね。早くここを出よう」


 ベリルは、自分から口にした話題を切り上げると、前方を指さした。

 ジェイドも、そちらに光を向ける。ちょうど入ってきた扉と真反対に、扉があった。上のほうに小さなのぞき窓が作られていた。


 扉の取っ手を握り、押してみる。ガチャリと金属がぶつかる音がして押し返された。手前に引いても扉は開かない。


「どうやらここも、外からかんぬきが掛けられてるみたいだな」


 ジェイドが舌打ちする。ムキになって、扉を壊さんばかりにガチャガチャやるが無駄だった。


「ああ、やっときたか……」


 それは突然だった。背後から低い声が聞こえ、ふたりは後ろを振り返った。驚きすぎて扉に頭をぶつける。


 木がきしみ、細長い影がふたりに立ちはだかった。


 ジェイドが、声のしたほうにランタンの光を向ける。声の正体を見て、ふたりは、心臓が止まりかけた。

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