第三章 不気味な海賊たち
第15話「死の臭いがする部屋」
身を低くして、ふたりは暗い部屋を進んだ。
時折、天井に穴が開いており、木製の梯子が下にのびている。上からは、光とともに騒がしい声がもれていた。
闇に身を隠しながら、ふたりは、壁づたいにオーロップデッキの中央部分を移動していく。
いくつかの部屋をまたいで、やがて吹き抜けの出入り口の前までやって来た。
ジェイドは、出入り口の下にしゃがんで膝をついた。慎重に外の様子をうかがう。ベリルも、兄とは反対側に、同様にしゃがみ、顔を半分だけ出して通路を見やった。
配給部屋があった左舷側の通路は、ところどころに壁掛けランプが置かれ灯りがともっていた。
しかし右舷側の通路は、真っ暗で、船のきしむ不気味な音が響くだけだった。
ジェイドが、ランタンをそっとかざす。古びて痛んだ木目が浮かび上がる。
足音を忍ばせ、ふたりは通路へ出た。船にそって緩やかにカーブする通路がつづいている。人の気配は全く感じられない。
「不気味だけど、こっちのほうが安全そうだね」
「ああ」
ランタンを持つジェイドが、先頭に立って歩きはじめる。
少し歩くと、ふたりの前に壁が立ちふさがった。
その壁には、扉があり、金具に横木が渡されている。内側からは開かないように、かんぬきが掛けられていた。
ジェイドが扉に耳をあてる。物音も人の気配も感じられない。
ジェイドは、扉にかけられていたかんぬきを外した。用心深く中へ入る。ベリルも、兄のすぐ後から扉をくぐる。
そこは、左右に奥行きのある部屋だった。
扉をくぐってまず二人を襲ったのは、強烈なにおいだ。獣の肉が腐ったような不快なにおいで部屋がおおい尽くされていた。
「鼻がもげそうだ。こりゃあ、さっきの衣装部屋のほうが百倍マシだな」
「なんだか嫌な気分。早く通り抜けよう」
部屋を満たしている死の臭いを嗅いで、ベリルは、心臓がバクバクと鳴りやまなかった。とても嫌な予感がするのだ。
しんと静まり返った真っ暗なその部屋は、別世界のように感じられる。
ジェイドは、左腕で鼻と口を押えながら、右手に持つランタンを頭上高くかかげた。
「「!!??」」
弱い光に照らされて見えてきた部屋の姿に、ふたりはたじろいだ。
その部屋は、暗いのではなく、黒かった。床にも壁にも、黒いペンキをそこら中にぶちまけたかのような跡があった。
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