第14話「右舷通路へ」
ジェイドは、テーブルの上のトウガラシをひっつかみポケットにしまった。
「早く行こう」
「ああ」
ふたりは、木箱に隠れていた出入り口から奥の部屋へ進んだ。
「ひどいにおいだな」
その部屋は、ランプもなく真っ暗だった。
配給部屋から漏れてくる光で、かろうじて見えるのは、床に、足の踏み場もないほどなにかが散乱しているということ。それと足もとに硬いものがあり、足を取られそうになる。
ランタンの光で照らすと、それは古びた木の箱だった。配給部屋にある木箱とは違い、平べったくてしっかりした作りになっている。
「入ってるのは服みたいだ」
ベリルが、一枚つまみ上げる。手でほこりを払いながら、ケホケホとせきこんだ。どうやらここは衣装部屋で、床に置かれているのは衣装ケースのようだ。
「下着もある。どれも虫食いとカビだらけだ」
ジェイドも、ランタン片手に服を引っ張りだしながら言った。
「しかしまぁ、臭いはひどいけど、身を隠すなら都合がいいな」
ジェイドがニヤリと笑って弟を見ると、ベリルは短く悲鳴を上げた。
「冗談じゃないよ。全身がかゆくなって死んじゃうよ」
神経質なベリルだ。こんなほこりだらけの衣装ケースに身を隠すなど無理なことを、兄はよく知っていた。それでからかったのだ。
ベリルの様子に、ジェイドは笑った。
「なら、先に進もう。それに思うんだが、今もそれなりに移動のチャンスだと思うんだ」
「なんで?」
「今やつらは、襲撃後でご機嫌だ。気もゆるんでる」
ジェイドの言葉を証明するように、天井から笑い声が響いてきた。
「な?」と、ジェイドは得意げな顔をベリルに向ける。ベリルは、少しイラッとした。
「いつも船の底でロープや帆の修繕をしているやつらも、今は上にいるってことさ。船倉やこのオーロップデッキに人は少ない。船尾に向かうにはチャンスだと思わないか?」
「まあ、たしかに」
「なら、今のうちに船尾部分まで進むとしようや」
「わかったよ。でも分かってると思うけど、船の天井や床にはいろんな場所に、梯子や階段がある。ひょっこり頭を出した先で海賊と鉢合わせなんてことにならないようにしないとね」
「ああ。気を抜くなよ」
「そっちもね」
扉のない出入り口から奥に進むと、天井にぽっかりと穴が開いていて光がもれていた。
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