第11話「スニーキング」

「上でコック長が作ってるのは、幹部たちと船長の食事だ。あんな厚切りステーキが、俺たちの皿に乗るかよ」


 浮かれたふたりの海賊に、三人目があきれた口調で言った。

 それを聞いて、上機嫌だったふたりの海賊が嘆き声をあげる。どうやらこの部屋には三人いるらしい。


「冗談だろ?それじゃあなにか?俺たちゃいつもの、まずい豆のスープと塩づけ肉でも食ってろっていうのか?」

「今日の襲撃で新鮮な食べ物もたくさん手に入ったんだ。そんなわけはないだろ。なあ?そうだよな?あんな食事にはもう飽き飽きだ。何年もあれしか食ってない」

「まあビールにワイン。骨つきチキンにベーコン。フレッシュなフルーツなんかは、しばらくの間、俺たち下っ端のテーブルに並ぶだろうさ」

「だろ?どっちにしても今宵は宴会だ。仏頂面はやめて、大いに食べて大いに酔おうぜ」

「そうだそうだ。俺は、前に食ったハンバーガーってのを、もう一度食べてみたいね。あれはうまかった」

「下の世界も、俺たちがいた時代に比べて、いろいろと変わってるからな。食い物も美味いものが増えたようだ」

「ビールやワインの味も、昔に比べて格段だからな」

「楽しみだ」


 三人は、笑いながら、必要な食材を手桶に入れると部屋を出て行った。




 人の気配が消えたのを確かめてから、ふたりは、桶を持ち上げて外へ出た。


「危なかった~」


 ジェイドが大きなため息をもらす。

 ベリルは、すぐに出入り口から外をのぞく。船の側面に作られている通路が左右に伸びていた。天井には等間隔にランタンが吊るされて明るい。


 遠くから、小さく話し声が聞こえるが、通路に人はいなかった。ベリルも、安心したように息をついた。


「急に全身の力を入れたもんだから。屁ぇこきそうだったよ」


 ジェイドは笑いながら、もう一度、部屋を見まわした。


 テーブルには、さっきまでなかったビールジョッキが乗っていた。黒く変色した蓋つきのジョッキだ。

 ジェイドは、商船で、大人たちがそれをあおり飲むのを見たことがある。蝿がたかるし、船が揺れるとこぼれるので、それを防ぐために蓋がついているのだ。


 また、テーブルには、肉の塊が半身になって乗っていた。大きななたがそばに置いてある。


「豪華なこって」


 ジェイドは呆れたように言った。

 この船は、古びてはいるが、ふたりがいた商船よりも設備は整っているようだ。それになにより巨大である。

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