第9話「配給部屋」

 船倉の上の層──オーロップデッキとも呼ばれる最下甲板。


 ふたりは今その一室にいた。


 壁や天井に吊るされたランタンで部屋は明るい。暗い船倉から出てきたふたりは、思わず目を細めた。

 格子を元にもどすと、注意深く部屋を見渡した。


 部屋の隅に、真新しい木箱が積み上げられている。すべて、ふたりの商船から奪ったもののようだ。


 部屋の中央には、飾り気のない大きなテーブルがあり、いろんな食材が乱雑に置かれていた。テーブルの奥の棚には、食材を切り分けるための包丁や鉈、鍋やパスタ用の麺棒などが並ぶ。格子状の小さい戸棚には、ワインも寝かされていた。


 ふたりの正面には、扉のない出入り口があり、そばの壁際に木の桶が並んでいる。人が入れるような大きな桶だ。中には、いろいろな食材が同じ種類ごとに入っていた。

 塩漬け肉の桶、乾燥豆の桶、チーズの桶に水の入った桶も並ぶ。

 乾燥豆は、なくなりつつあった。四つの桶に並んで、逆さにして壁にななめに置かれた桶もある。


 これらの様子から、ここがどこなのか、ふたりは一瞬で理解した。配給部屋と呼ばれる場所だ。調理室ギャレーに運ぶ食材を切り分けたり、調理器具を保管したりする部屋である。


「ついてるねぇ」


 ジェイドは、躊躇ちゅうしょなく、水の桶に手持ちの瓶をつっこんだ。そして戸棚のワインボトルからコルク栓も失敬して、自分の瓶に蓋をする。あっという間に飲み水を確保してしまった。


「早くここを抜けよう」


 ベリルは、床にこぼれ落ちるワインを見ながら、少しあせったように言った。ジェイドは、ポーチに瓶を押し込みながらうなずいた。


 ふたりがまさに部屋の外へ出ようとしたその時に、またしても声と足音が近づいてくる。先ほどのやつらが戻ってきたようだ。


「そう言えば、あいつら食材を運び出してたね」


 ベリルは、小声で言うと、ごくりを息をのんだ。


「ついているのか、いねぇのか」


 ジェイドも小さく舌打ちする。

 足音はどんどん近づいてくる。いま部屋から出たら、間違いなく鉢合わせになる。間違いなく、緊急事態のこの状況……。


──さあ。部屋にあるものを使って、どうピンチをしのぐ?

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