046 魔石掘り

 冒険者協会に隣接する迷宮ギルドに足を運んで足を運んで魔石を採掘できるポイントを調べるも需要が高いためかギルド職員に聞いたら直ぐに判明した。そのままヨグス迷宮へ向かいながら軽食を買って腹を満たしていく。気力は十分にあった。


 既に何度か迷宮には入っていた為スムーズに手続きを済ませるとタイカは歪んだ空間に身を投じて侵入していった。


 ヨグス迷宮の内部に入ると相変わらず広い洞窟にしか見えない景色だがその分ルートは既に確立しており事前に調べたルートにそって進んでいく。タイカが迷宮に侵入した時間が既に日暮れ近かっただけに他の冒険者パーティは一様に帰還についており幾人かとすれ違った。


 迷宮の中はある意味で無法地帯だ。外界とは隔絶しており国も無限に広がる迷宮内に警備などは置いていない。当然ながら冒険者のモラルに委ねられているため怪異と同じくらいに人も警戒しなければならない。


 以前は緊急依頼で集団での移動だったから気にならなかったが今回は冒険者とすれ違う際には互いにかなりの緊張が見られた。洞窟とはいっても通路の幅は短くても10メートル程はあるのでお互いに端を歩いて慎重にすれ違う。相手が怪異であるなら先制攻撃できるが冒険者相手にはそうはいかずむしろ精神をすり減らす結果となった。


(この時間に突入するとこういうデメリットもあるのか……<鳥瞰>ちょうかんで事前に察知は出来ても逃げ隠れする場所が少ないのは辛いな……)


 迷宮内に昼も夜もなく常に一定の明るさが保たれている。そのため日暮れに突入してもいいと思っていたがすれ違う冒険者の数に辟易としてくる。それでもインビジブルジャイアントによって大分数を減らした冒険者達ではあるのだが……。


 しばらく進むと二股に別れた通路の先から気配を察知する。不用心にもペタペタと足音を鳴らしているところからも恐らく怪異だろう。丁度岩陰に隠れられる場所があったので身を顰めるとカエルを擬人化したような見た目をした怪異が姿を現した。大人と変わらない大きさに赤黒くブヨブヨとした肉体をしており斬りずらく皮膚には毒もある。


(ウォーキングトードか……こいつは目が悪い。やり過ごそう)


 今日の目的は魔石採掘なので無駄な戦闘は避けたかった。ウォーキングトードからは毒腺などいくつか貴重な素材を採取出来るものの怪我のリスクや採掘時間を考えればメリットは少ない。


ペタリ ペタリ


 既に互いの距離は10メートル程まで迫るもタイカはじっと息を殺して身を顰める。ウォーキングトードは周囲を警戒する様子もなくゆっくりと歩いてそのまま通り過ぎていった。足音が聞こえなくなるまで待機してさらに一分じっと待つ。そこでようやく大丈夫だろうと息を大きく吐いた。


(ふぅ。進むか)


 それから四時間ほど進んだ頃だろうか、大きな広場にでた。幅100メートル、奥行200メートル程だろうかそこで奥の方に人の気配を感じて眉を顰める。今までの冒険者達と明らかに異なっていて気配を消して潜んでいた。


 まっさきに頭に浮かんだのは盗賊の類だ。まっとうな冒険者達ならば敵意がない事を知らしめるためにすれ違う直前にはあえて気配を漏らして移動する。今までの冒険者たちはいずれもそうであった。わざわざ気配を消して隠れるのはやましい事に手を染めようとしているかよほど臆病であるか、そのどちらかだ。


『二人……かな。うーん魔力が低くてよく分からないな。なあクンマーちょっと確認してくれないか?』


『ほーい』


 クンマーが魔力源にすっと向かって消えるが直ぐに戻ってきた。


『なんかちっこいおっさんが二人隠れてたよー』


 余りにふわっとした情報に戸惑う。せめてどんな武装なのか、敵意を向けているのかそういった情報が欲しかった。


『……武器は抜いてたか?』


『いやー怯えてたよー』


 それならこちらを警戒していただけなのだろうと胸をなでおろしさっさと通り過ぎようとする。だが--<鳥瞰>ちょうかんで警戒していたタイカよりも先んじて身を隠す事が出来たということ自体が異常であった。それに気付き緊張が走る。


(ッ……!もしかして他に襲撃者がいてそいつらから隠れているのか……?)


 広場の奥にある通路から数十メートルはずれた物陰に小さなおっさんが二人隠れている。それが分かるだけに相手との距離が迫っていく毎に緊張が高まっていく。その緊張は相手も同じようで武器に手を添えているのが視えてしまう。


(いや、大丈夫なはずだ……!最初から襲う気ならあらかじめ武器は抜いておく。こいつらは逃げて隠れていたんだ……。それも位置取りから広場の奥くから来るはずの人間から隠れている。俺を襲う気はないはずだ)


 だが、タイカを警戒しているのは確かだった。不測の事態を恐れて不意打ちをしてくる可能性は排除できない。ならば--


「待て。何を勘違いしているか知らないが俺から襲う気はない」


 タイカは相手の方に身体を向けてながらわずかに膝を曲げてどのような攻撃がきても対処できるように身構える。相手からの動揺が見て取れた。ガサゴソと音がする辺り戦闘なれはしていないのだろう、しばらくすると岩陰からひょっこりと出てきた。


「す、すまん。襲われて逃げていたんじゃ!お主も仲間かと思うての……」


「ゴメ……なさい」


 そういって出てきたのはドワーフとゴブリンの二人組だった。

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