032 ハバラキの仕事

 岩山に向かったハバラキは身体強化をギリギリまで高めて高速移動をしている。道中に偵察本隊メンバーの死体があればそこから通信機を得られる可能性があったので明るいうち距離を稼ぎたかった。そんな狙い通りに一時間ほど移動した辺りで人とケレンケンの死体を発見した。


 軍馬にも利用されるケレンケンの健脚はハバラキも当然知っており、魔獣の特性を生かした身体強化で馬より遥かに高い機動力とスタミナを持っていた。


(随分と岩山に近いな。ケレンケンでもこの程度しか逃げられなかったのか。しかも進行方向に向かって潰されてやがるって事は確実にケレンケンより大分速い……)


 死体を漁っていると直ぐに通信機が見つかったのですぐさま連絡をいれる。


「こちら偵察隊のハバラキだ。中継地から岩山に向かっている途中で偵察本隊の死体を発見した。状況を教えてくれ」


 どうやら直前までメンバー間で通信していたらしく応答を返したのは本部ではなく同じ偵察本隊のメンバーだった。


『こちら3番だ。インビジブルジャイアントは今岩山の山頂に戻ってきている。どうやらそこがお気に入りのようだ。こっちに来れるか?』


「大丈夫だが見つかったりしないか?安全な距離を知りたい」


『山頂に登っていかなければ大丈夫だ。他の奴らはそれで見つかった』


 3番はケレンケンをモエハに貸してしまった為、山頂付近での調査から外されていた。七合辺りまで登った辺りでインビジブルジャイアントに発見された偵察本隊は直ぐに倒されてしまった。また山頂への偵察から外された他のメンバーもモンスターが暴れている気配を敏感に感じ取ったケレンケンが暴れだし次々と発見され襲われて行ってしまった。結果的に隠れてやり過ごすことが出来てたのは3番だけだった。


「……そうか。すぐに向かう」


 通信を切って小さな声でつぶやく。


「はぁー。安請け合いするんじゃなかったぜ。こんなきつい仕事になるなんてよお。……まぁやるか」


 実はハバラキは密かに異常事態が発生した際の予備兵力として動く依頼を請け負っていた。調査隊メンバーの中で頭一つどころかそれ以上に飛び抜けている実力とランクを持っていたのはその為だ。だが対象モンスターの脅威度が予想以上に高く割に合わないと嘆いた。



 ブンギ達はハバラキに手渡されたメモ紙をまだ未帰還のメンバーの為にキャンプ地に去った。二人は急いで帰還するも迷宮都市ラビリンスに到着したのは翌日の日が沈んだ頃になってしまった。そのまま報告の為に冒険者協会へ行くと既に帰還していたソウチョウが受付にいた。


「おかえりなさい。まずはご無事で何よりです」


 心底安堵した表情でソウチョウはブンギ達の無事を喜んだ。状況的に仕方なかったとはいえ彼ら偵察隊メンバーを置いて中継地のキャンプから帰還していた為ずっと気がかりでいた。


「ああ、そっちもな。……で、状況はどうなってんだ?」


「メモはご覧になられていますか?」


「ああ」


「今は赤い布で姿を隠せるか確認するために調査隊を送っています。並行して迷宮内の赤壁地区から辰砂の確保を緊急依頼にしています。お二人にも明日からは緊急依頼をお願いしたいです」


「任せときな!どの程度の量が必要なんだ?」


 任務から帰還したばかりで二人はひどく疲れていたがシオンの方はまだやる気に満ちているようで直ぐにでも採掘しに行きそうな勢いを見せている。迷宮内は異次元になっているようで外の時間とは連動していない。その為、日が暮れてからも迷宮に入る冒険者はそれなりにいるのだが疲労困憊の二人をそのまま向かわせるのは危険だろう。


「ははは。今日でかなりの量が集まっていますので今日は休んでください。先ほどタイカさんも採掘から帰ってきて今は迷宮ギルドの方にいってますよ」


「お?そうなのか。意外と元気そうだな!」


 メモには重症と書かれていたがどうやら迷宮に入れる位に回復しているようで随分と大げさに書いたものだとソウチョウに向かってイタズラに引っかかった子供の様な顔を向ける。


「……幸いモエさんが治療薬を持っていたので何とか……。あとは中継地で造血薬を打ったので何とか持ち直しました」


 実際には瀕死の状態であったらしくそれを聞いてシオンも驚く。ソウチョウに詳しく聞くとかなりの大立ち回りをしていたらしくその過程で弱点の発見に至ったようだ。この任務に声をかけた時にはそこまでの期待はしていなかったシオンだが想像以上の成果とまた怪我に複雑な表情を浮かべる。


「そんな酷かったのか……」


「ですからお二人も--」


 ソウチョウが言いかけるも何かを発見したようで視線を他所へ向ける。それに気付いて視線を追うとこちらへ向かって歩いてくるタイカがいた。

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