026 偵察任務4
ゴアァァアッッ--
インビジブルジャイアントの足元に潜り込むように飛び込んだタイカはものすごい風圧に吹き飛ばされそうになるのをぐっ堪える。
「ぐぅう……」
すぐ様起き上がりインビジブルジャイアントに対して刀を中段に構える。
なんとか凌いだタイカだったが、モエハの方はすれ違いざまに吹き飛ばされた時だろう、頭をぶつけたのか気を失っていた。直接攻撃を受けたわけではなかった様なので怪我の程は大丈夫だろうが今狙われたらどうしようも無い。それでもタイカがモエハに駈け寄らないでいるのはインビジブルジャイアントがタイカだけを標的にするように睨みを利かせていたからだ。
『やっぱりコイツおかしくないか!?俺しか見えてないみたいに執拗だぞ!』
『な、なんでなんだ?タイカ何かしたのか?!』
『し、してない!いやっ反撃はしたけど!!』
何度も違和感を感じていた。ほんの些細なものだがタイカと同じようにかぎ爪を狙ったモエハはまったく敵視されていないように見える。何が違うのか分からず、だが動けないモエハが狙われるよりかは好都合であった為戦闘に集中しようとする。だが、やはり疑問が頭に残り集中しきれないタイカはこの状況を打破する糸口をこのインビジブルジャイアントの挙動に求めた。
飛翔して突っ込んできた場合にモエハを巻き込まない位置にずれていく。
『ま、まさかコイツっ!モエが見えていないのか!?』
『えっ?えっ?なんで??』
生き物によって視覚から得られる情報量は大きく異なる。見える色の数もその一つだ。
『そうとなれば……やりようはあるのか?』
クンマーに説明している時間はなかった。急いで遠距離魔法の符術媒体を取り出す。じりじりと後ずさるようにしてモエハの方に近づいていく。危険な賭けであったがこのままでは二人とも死ぬのは避けられない。やるしかないと覚悟する。
一歩、二歩……あと少しでモエハに手が届く所まで来たが--インビジブルジャイアントが足を折り曲げた。
(今だっ!!)
インビジブルジャイアントが攻撃に移るその意識の切り替え時の一瞬を狙って符術媒体を向ける。
--
月模家固有の符術の一つである。寄り親である日波家になぞらえて媚びるように名付けたその符術は、確かに日波家を満足させるだけの威力を秘めていた。目の前から大きな波のようにうねりながら炎が出現して前方を飲み込んでいく。
ギャッギャギャウッ
飛翔の事前動作だった足を折り曲げて前のめりに構えた所を狙われた為に火波を頭からまともに被弾するはめになったインビジブルジャイアントは悲鳴をあげて炎から逃れようとする。だが世界の理をまげて出現したその炎はインビジブルジャイアントの体にネットリと絡みついて離さなかった。
ギャギャゥガァアアガッッ--ー
だが……広範囲への魔法攻撃を主眼に置いた火波では強固な一個体に対してはそこまで効果的ではなく、多少ダメージは通っているのだろうが致命傷にはなっていない。地面に炎を擦り付けて消そうとしているインビジブルジャイアントの姿があったがそれは嫌がっているだけなのだろう。
だがタイカはそんな様子には目もくれずにモエハを背負い始めた。意識のない相手を背負うのは時間も掛かりもたついている。また背負って走るも安定感に掛けるのは目に見えていた。それなのに抱えずに背負ったのである。
『えっ?逃げるなら早く逃げようよ!』
そこからは更にクンマーにとっては意味が分からなかった。背負った後はモエハが落ちないように気を付けながらモタモタと無策に背を向けてまっすぐと走り出したのだ。
『た、タイカー!大丈夫なのー?!』
『はぁはぁ……ああ、これでいいんだ……』
タイカは傷口も開いてきて辛そうであるが、それでも足を止めずに逃げ続ける。背後からは怒りの咆哮を上げているインビジブルジャイアントがいた。しかし、なぜかタイカ達を見失ったようでキョロキョロとしながら喚くばかりだった。
そんな様子をクンマーは信じられない様子で眺めている。
『ま?ま?なんでー??』
目を丸くして不思議がるもタイカは答えられない。山降りのためモエハを背負っていても自然と速度が上がってしまい体力がゴリゴリと削られていく。しばらくしたらインビジブルジャイアントは諦めたのか山頂の方へと飛び立っていった。
体力の限界まで背負って走り続けたタイカは適当な岩陰を見つけて駆け込んだ。そして背中のモエハを傷つけないように壁にそっと押し付けながらゆっくりと下ろしていく。そこが限界だったのか倒れ込んだ。
『だ、だめだ……もう限界無理歩けない』
『おつー!それで何でモンスターに襲われなかったんだ?』
『……ちょっと待って、はあはぁ』
胸の傷口も開いて出血しており、止血しながらしばらく息を整えていた。ようやく体を起こしモエハの隣に腰かけてゆっくりと答える。
『言っただろ。アイツにはモエが見えてなかったんだ。正確には赤い色かな。モエの着ている赤い羽織と頭巾がアイツには見えないんだ。だからモエを背負って俺の姿ごと見失ってもらったんだよ……まぁ半分は賭けだったけどな』
『赤?赤が見えないの??』
生前の知識でタイカは生物ごとに見える色の範囲が違う事をしっていた。色とは光であり、光は電磁波だ。電磁波は波長の長さで呼び名が異なっていた。波長の短い方からガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波……といった感じだ。その中で人間に見える光を可視光線と呼んでいた。そして人間にはその可視光線は波長毎に色が異なって見える。可視光線のなかで波長の短い色が紫、波長の長い色が赤だ。だからこそその波長の範囲外の電磁波をひねりもなくまんま紫外線や赤外線と読んでいた。
もしもあのインビジブルジャイアントが人とは目に見える電磁波の波長が異なっていれば……そう思ったのだ。そう説明するも--
『ふ、ふーん。なるほどねッ?!』
『まぁ分からなくても仕方ないさ』
『わわわかってるんだっ』
『……別に理解できなくても馬鹿にしたりしないぞ?俺だって魔法とかはさっぱりだしさ』
妙なところでバレバレの嘘をついて強がって見せるクンマーを
「んっ……んん」
まだ意識がはっきりとしていないのかキョロキョロとしながら--そしてタイカと目が合った。
「……えっ!きゃっ!?」
反射的にギュっとタイカの腕に抱きつく力がきつくなる。残念な事にまだ成長しきっていないのであろうその感触に柔らかさは感じなかった。……あるいは出血によりその感覚を失っていたのかもしれない。
「よかった、気が付いたか。怪我は、大丈夫か……?」
「……えっと、ちょっと待ってくださいね」
顔を赤らめながらタイカに抱きついていた腕を離して体を確認していく。
「だ、大丈夫なようです……」
俯きながら答えるもチラリチラリとタイカの方に視線を向けていた。そして--腕はだらりと力なく下がり、胸からは開い傷口から出血して辛そうにしているタイカにようやく気付いた。
「た、タイカさんの方こそひどい怪我じゃないですか!」
恐らくは気を失っていた自分を連れて逃げるのにだいぶ無茶をしたのだろう。そう思い慌てて薬を取り出して傷口に振りかける。迷宮産の素材から作られた割と貴重な治療薬だ。符術による治療には及ばないもののその効果は高く、タイカの胸の傷口からは既に出血は止まっていた。だが流した血は戻らない。朦朧とする中でタイカは意識を手放した。
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