022 冒険者登録2

「よし!決まりだね!急ぎの仕事だから直ぐに冒険者協会に登録しに行くよ!」


 そう言ってシオンの先導でタイカ達は城門からではなくスラム街と繋がる通路の方から迷宮都市ラビリンス内へ足を踏み入れ冒険者協会へ向かっていた。


 向かう道すがら街の様子を観察すと迷宮から産出される豊富な資源による豊かな産業があり活気に満ちていた。高い城壁が外からの敵だけでなく情報まで押し返しているのだろうか、領内ではモンスターが暴れ避難民が都市に押し寄せている状況が見えていない様でもあった。


 また、人種もさまざまで異人のような風貌をした者から亜人含めて多種多様だ。これは各国から迷宮産の素材を求めて訪れてくる人が多いためで日波領よりもさらに雑多な印象だ。街の中央付近の広場ではイチョウ並木が鮮やかに黄色づいており、その奥に一際大きな建物が見えてきた。正面の玄関は開放的であり依頼者が気軽に訪れるような工夫がみられ人の出入りも多くみられた。それとは別に少し離れた所にも二つ扉がみえる。その一つに向かって案内されているタイカだ。どうやら冒険者専用の入り口であるらしい。ちなみにもう一つは迷宮ギルドの入り口らしかった。


 そこから中へ入ると荒くれ者然とした者達が掲示板らしき物の前に集まっていたり、テーブルで飲み食いしている様子がみれる。さらに奥の部屋には成果物を鑑定する部屋があるのだろう、大量の荷物を抱えた冒険者が様々な表情で出入りしている。もうすぐ日が暮れる時間帯であるがそういった時間こそ活気があるのだろう、その熱気に圧倒される。そんな中で誰にも注目されることなく入り口近くにある受付に連れられた。


「よう!ソウチョウさん」


「おや、シオンさんが男連れとはめずらしいですね。そういったご趣味でしたか?」


「な、何言ってんのよ!アタシは頼まれてた雇用対策で人を連れてきただけよ。あと実力はまあ結構やるよ。スラムでも暴れていたからね!」


「俺は暴れてませんよ……」


 酷い言いがかりであったが紹介するからには実力面でのインパクトが必要だったのかもしれない。ちなみにクンマーは既に食事処にすっ飛んで行ったのでいない。どうせ俺の持ち物しか飲み食いできないのだから直ぐに戻ってくるだろう。


「ふうむ。まぁ構いませんよ。字は書けますか?」


「はい。問題ありません」


 ソウチョウは紐でまとめられた紙束と用紙を一枚取り出した。


「ではこちらを読んで問題ないようでしたら名前や特技などを記入して下さい」


 さっと目を通すが事前に聞かされていた内容と変わらなかったのでサインをした。


「ありがとう御座います。冒険者カードを発行するまでしばらく掛かりますのであちらでお待ちください」


 そういって職員は書類をもって受付奥に引っ込んでいった。


「そんじゃ飯くって待つかね。依頼の説明も夜の鐘二つぐらいに開始されるみたいだから丁度いいや」


「あ、荷物預けるところってありますか?」


 着替えなどの生活用品が入った風呂敷を背負って任務に行きたくはないが宿もとっていないタイカだ。


 「受付の横にあるよ」


 確かにロッカーのようなものがあった。施錠はないし丸見えだが貴重品は置いていかないのでいかと思い放り込んで食事処へ向かうと同時にクンマーが戻ってきた。


『タイカー……呑めなかった……』


 そんなクンマーに冷ややかな視線を送りつつその先に見知った顔を見つけた。


「あれ、ブンギさんじゃないですか?」


「んんー……ひょっとしてタイカか?なんでここにいるんだよ??」


 丁度一人で食事をとるブンギがいた。一週間前に日波領であったばかりであったのであちらもタイカの事を記憶していたようだ。だが、貴族用の馬車で移動していたブンギである。心底不思議そうな顔を向けている。


「知り合いか?今日ここに来たんじゃなかったのかい?」


「ええ、まあそうなんですけどね。知り合ったのは別の場所です」


 ブンギがぐっと腕をタイカの首に回して小声で話しかける。


『お、おいタイカ!お前シオンさんと知り合いなのか!?』


『え?知り合いというか、冒険者の伝手を貰ったんです』


『じゃあ知り合いなんだな?な?俺に紹介しろよ!』


『……はあ。まぁいいですけど』


 どうやらブンギは前からシオンの事が気になっていた様子で声をかけられずにいたようだ。仕方ないとタイカはシオンにブンギを紹介する。


「えっと、こちらはブンギと言って以前知り合った……知り合いです。まぁ久々ですね?ブンギも一緒にご飯食べますか?」


「お?いいのかい!ならお言葉に甘えようかなあ」


「はあ、まあいいよ。まずは注文してこよう」


 スタスタと食事処へ注文をしに行くシオンからこっそりとブンギに向き直る。


「あ、ブンギ。仲良くなるに最適なツールを教えましょうか?俺との仲を繋いだものがなんだったのか憶えていますよね?」


 にやりと笑いながらブンギに人との潤滑油をせがむタイカとそれを全力で応援するクンマーだった。ブンギはちゃっかりしているなと苦笑した。


 その後久々のきちんとした食事・・・・・・・・を堪能したタイカとクンマーは頬を上気させてご満悦だ。食事中にシオンと偵察任務の話をしていたら、どうやらブンギも参加を決めたらしくタイカ達と一緒に任務説明会に同行することにした。


 参加人数が多いので会議室で任務説明会が行われるらしい。会議室には席が扇状に配置されており既に数人が席に座っていた。その奥には対面するように異人の壮年男性が座っている。その男は頭部前面が禿上がっており近視なのか分厚い眼鏡を掛けていて見た目は非常に地味であるものの仕立てのいい服を着ており冒険者協会のお偉いさんである事がみてとれた。


 座って任務説明を待っていると一人の冒険者が入室してタイカの隣に腰かけた。タイカよりも小柄な体に赤い羽織を着ており同色のイスラムのニカブあるいは大谷刑部頭巾を思わせる被り物で目以外の顔を隠していた。頭巾の隙間から覗く目元は非常に整っており、纏う雰囲気からも良家のご息女を思わせた。

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