015 クンマー1
実家を追い出されたタイカは一先ず帝都に向かって馬車の上にいた。幸いに先日知り合った商人のシゲオが帝都へ出発しようとしていた為、相乗りさせて頂いた。
「いやー!ありがとう御座います!まさかこんなに早くまたご一緒できるとは!でもタダで乗せてもらってよかったんですか?」
商人として金を取れるところで、とらずに良かったのだろうか心配してしまう。
「いいんですよ。タイカ君なら戦力としても期待できますからね。なにかあったら頼みますよ」
そう笑っていうシゲオにまいったなと苦笑するタイカである。とはいえカヨからの刺客を考慮して動かなければいけないタイカだ。むしろ危険に巻き込んでしまうリスクも考えられた。その為このままずっとシゲオと移動するわけにも行かなかった。月模家からタイカ追放の確認をとるために監視者が近くにいる事も分かっていた為、馬車にのって帝都方面へ移動したことを報告してもらう事が目的である。
そこからピジョン国を横断しているレアドゥリア山脈を挟んだ反対側にある赤森領の
「ははは!そうはいっても今日限りですけどね」
「……本当に今日だけでいいんですか?よければ帝都までは一緒に来てもらってもいいんですよ?」
「いえ、それは出来ません。ご迷惑をかける可能性がありますので。自分はこのまま馬塚領の港に向かいます。昔剣のお師匠にさんざん世界の広さを自慢されたんですよ。だから自分で確かめてやろうって決めたんです」
まさか本当は
宿場町に着くまでタイカは商人達の馬車を追い越す者がいないか注意していた。もし見かけたらそいつが追手の可能性が高いからだ。事前に街に潜伏している可能性についても考えたが、タイカの追放が決まったのは検査結果提出後でその翌日に実行されているので準備は間に合わなかったであろう事と、月模領都からは複数の移動先があり、すべての宿場町へ人員を配置しておくのは非効率なのでないだろうと判断している。
幸いにも追跡者とおぼしき者は見当たらなかった。宿場町についたらシゲオから生活用魔導具や厚手のマント、薬や保存食の甘納豆やお酒などの商品を仕入れて直ぐに移動を開始した。宿場町に泊まってしまえばせっかく道中に監視していた事が無駄になってしまう。万全を期すためにもタイカは薄暗くなった街並みに溶け込むようにして街から抜け出していった。
。
◆
タイカが魔力検査から帰ってきた当日の夜、カヨは月模家に使える家臣の一人と密談をしていた。
「暗殺者を雇うのですか?既に追放が決まったんですよね?」
「それだけで済まして良しとするのですか?」
魔力も持たない、外に伝手もない十五才の子供が一人外へほっぽり出されて生きていけるほど温い世界ではなかった。仮に生きられたとしてもスラム街などに身を寄せる以外にはないだろう。そこはひどく排他的で暴力や不潔が常に付きまとう。何も知らない身なりのいい子供が足を踏み込めばすぐに殺されるだろう。生き抜けたとしても直ぐに病気でなくなる確率も非常に高かった。ある意味では生きている方が辛いのではないかと思われたため良しとしていいんじゃないかと家臣は考えた。
そもそも家臣は魔力量が少ないだけの長男、タイカに対して
「一人で生きていけるほどお強い子供ではないでしょう。直ぐに死ぬなら依頼するだけ無駄ではないですか?カヨ様も暗殺依頼を出したというリスクを負ってしまいます」
「それでもじゃッ!!」
鬼気迫る表情で机を叩いた。
すでに理屈ではないのだろう。どれほど正論で語って見せた所で理解を得られそうになかった。正論とはまっとうな相手を説得する為の理論である。今のカヨに必要なのは正論ではなく追従であった。
「……分かりました。ではこちらで内密に処理しておきましょう。ただですね、この街の暗殺ギルドに依頼をだせば我々の弱みを握られてしまいましょう。そうなるとカヨ様の立場もまずくなってしまいます。なので次の町まで部下に後を追わせますので、その後にチンピラなりを雇う事に致しましょう」
「よい。そのようにいたせ」
気分を良くしてして部屋から出ていくカヨの背中を見ながらため息を吐いた。
後日にタイカの追跡を命じた部下三名から行方を見失い、恐らくは港から国外へでただろうという報告を受けた家臣は頭を悩ませた。結局はどうせ野垂れ死んでいるだろうと結論をだす。仮に生きていたとしてもカヨに知られなければ問題はないと思いチンピラに金を握らせて襲わせたと嘘の報告をあげた。
◆
タイカは宿場町を出たあと森に入っていき仮眠をとった。日が昇ってからは遠くにレアドゥリア山脈が見える。その中でも比較的低い山が連なっている方向を目指して歩いていた。鬱蒼と繁る草木をオメガオから貰った名刀で斬り分けながら人の手が入っていない森はこんなにも歩きづらいのかと辟易する。
(予想より移動が遅れてるな)
水や食料は準備していたもののある程度は現地調達する前提だったので手持ちは少し心もとない。しかしリュックなどはなく風呂敷を抱えての移動となるため多くは持てなかった。その分、商人から購入した魔導コンロがタイカの生命線だ。
川の生水などは寄生虫が怖いのでそのまま飲む考えはない。一見きれいなようでも上流で鳥や動物が糞をたれていればそこから混入している可能性があるからだ。また、野生の動植物も食べる時にはそれらのリスクを考えないといけない。腹を下す程度のものなら商人から購入した薬で十分だろう。しかし生前の知識では寄生虫の場合、エキノコックスなど潜伏期間が十年単位と長いものがあり発症すれば非常にたかい致死率を叩き出すおそろしいものまであった。間違っても生では飲み食いしたくないタイカである。
(お、カエルかぁ。これなら俺でも捌いて食べられそうだな)
ひょいと掴んで革袋につっこみ確保する。また食用になる山菜なども採取して進んでいくと小川が見えた。
(カエルがいっぱいいたってことはそれを食べる天敵が少ないんだろうな。ならこの辺りは割と安全なのかもしれない)
そう思い暗くなってきていたのも相まってここでキャンプするかと荷物をおろす。タイカは袋からカエルを取り出すと足を握ってそのまま河原の石に叩きつけた。あとは内臓をとりだして頭を落とし、皮をはいでから川の水でよく洗う。あとは山菜と一緒に鍋にいれて塩をふって川の水で煮立たせればスープの完成である。生前に親しんでいたキャンプ動画の知識が生きた形である。
鍋をコトコトと煮込んでいる間体育座りしてマントに包まる。季節は夏が終わり肌寒くなっていたが、川辺ということもあり一層寒く感じる。
「飲んじゃおうかな」
スキットルに入ったウイスキーを取り出す。レアドゥリア山脈越えをするため荷物を絞っての移動だ。たいした量は持ち運べないし、もしも山頂付近でビバークする事態になった場合は必要になるだろうとの配慮から購入にいたった。
フタを開けて御猪口にそそぐとほんのわずかな蜜柑のような甘い香りが鼻孔をくすぐった。そのままキュッと呷ると蜂蜜のような甘さと穀物の香ばしい香味が口中に広がる。しばらくその余韻を楽しみながらやっぱり買って正解だったなと確信する。
そんな時だった。
目の前に薄く光る羽虫が目の前を飛び回っていた。羽虫にしては大きく手の平ほどの大きさがあった。一瞬蛾と勘違いし根源的な恐怖に支配される。
「ひッ……!!」
だがよく見ればその羽虫には人間の頭がついており、また胴体や手足もついていた。それはまるで御伽噺に出てくる妖精のようであった。エーテル体と呼ばれる霊的な存在で稀に人間を助けたりするが大抵の場合はイタズラ好きで害悪である。と、そんなエピソードの多い存在だ。
そんな目の前にいる妖精仮は中性的な顔立ちとショートヘアをしており体には突起も何もない。
(エーテル体であるなら交尾で繁殖はしないだろうし、おそらく性別なんていう概念もないのかもしれないな。とはいえ御伽噺を信じるなら基本は害虫……か)
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