第4話「これが私の休暇」
帰ってきて、エリーを起こさないように静かに床に就く。出発前に眠気覚ましを飲んでいたとはいえ、さすがに疲弊している。意識はすぐに落ちていった。
私が夜の仕事に就くようになったのは、1年弱前、まだエリーと一緒に任務に出始める前だ。たまたま任務で奴らと遭遇し、討伐した。そのことを報告書に書いたら、局内で突然拉致されて…というのは嘘だが、こっそりと任務を提示された。危険性の高い任務であることはもちろん、心理的にも誰にでも出来る仕事ではないため、報酬が段違いなのだ。生活に困るほどではなかったものの、貯金を増やしたかったので迷わず受けた。
それからおよそ3時間。エリーが起きて身支度をしている音がする。あのよくできた妹は先に起きた時は朝食まで作ってくれるのだから、兄冥利に尽きるというものだ。
「おはよう、エリー」
「あ、おはよう、お兄ちゃん。朝、目玉焼きでいいよね?」
「あぁ、喜んでいただくとも」
エリーはエプロン姿…ではなく、制服姿でキッチンに立っている。今日はこれから学校だ。
「そういえば、お兄ちゃん、昨日寝る前に私の本、除けといてくれたんだね。ありがとう」
「ああ。じゃないと寝返りもうちにくいだろうしな」
実を言えば夜のことがあったから、直前の些細なことはあまり覚えていなかったが、言われてみればたしかにそうした記憶がある。
「お兄ちゃんは今日はどうするの?」
「俺は局のほうで、新種の報告会でも聞きに行こうかと」
「私のこと、『休まない』~とか、『クソ真面目』~とか言う割には、お兄ちゃんも人のこと言えないよね~」
「そりゃあ、1日家にいたって暇だからな」
たしかに昨晩の疲れもある。中1日や2日で遠征任務が与えられるわけでもないから、1日くらいゆっくりしてもバチは当たらない。しかし、疲れた様子を見せているとエリーに夜のことを悟られてしまう恐れもある。だったら、座っとくだけの報告会くらい、午後から顔を出しておけばいい誤魔化しになるだろう。
「それじゃ、お先に~。いってきまーす」
数十分後、エリーが先に家を出た。行こうと思っている報告会まではまだ3時間ほどある。もう一眠りするか。
午後12:00。
さて、そろそろ局に向かうとしよう。うちは局まで遠いというわけでもないが、歩けば1時間半くらいかかる距離だ。移動には自転車を使うので、およそ30分と見積もっている。
およそ30分、厳密には35分後。局に到着した。入り口の警備員に局員証を見せながら局内に入る。ロビーにある掲示板で報告会を開催する部屋を確認して進む。第2講堂か。
報告会には定員もあるのだが、事前予約などもないので基本早い者勝ちである。し、そもそも定員が埋まるほど参加者が集まることなどそうそうない。
講堂に入り、椅子に座ってしばらく待つ。聴講者は30人ほどか。皆が皆、討伐部の人間というわけでもなく、開発部の人間もいるし、なんなら許可を得て聴講に来る一般人もいる。特に局員を退いた(失礼かもしれないが)老人などは好きである。
さて、そろそろ始まるらしく、制服姿の局員が壇上に立った。各聴講者の手元に数枚のレジュメが配布される。これを見る限り、今回の新種は3種類らしい。
「えー、ではこれより、第4回新種報告会を始めます。まずは中央近域で発見された新種より報告します。レジュメの1枚目をご確認ください。
「こちらはここより10kmほど北に発生した魔物の群れの討伐に出た嘱託局員より発見報告がありました。
「形状は亜獣型。四足歩行。頭部に大きな角を携えた個体です。直進の速度は高く、頭部を振り回しながらの突進攻撃を多用してきたとのこと
と、発見された新種の報告が成される。魔物との戦いは決してここ数十年間だけの話ではないが、今でも新種の発見は続いている。対して、従来の種が見られなくなることもよくあることだ。
魔物の進化は我々人間よりも早い。既存の生物、道具、環境を模して発現、さらにはそれらを組み合わせた形で発現することによって、進化の過程をスキップしている。学者の間ではそんなふうにいわれている。
「本日最後となります3種目は先日正規局員15名のパーティが討伐した大型魔物です」
そういえば聞いていた。15人などという大パーティを派遣して討伐したヤバい個体がいたと。詳しい情報は流れてきていなかったので、今日ここに来たのはラッキーだったかもしれない。
「体長推定8m。準二足歩行型。尻尾を含めない体高も3.5mほどの大型個体で、群れは形成せず単独で活動していたとのことです。
「爬虫類に類似した特徴を持ち、硬質なウロコで皮膚は覆われていた。発達した前足での攻撃、四足歩行での突進、口から魔法炎を吐いての攻撃が見られた。尻尾は器用ではないが、大雑把に振り回しての防御行動が見られたなどの報告が上がっております。
「発見時は周囲に町村や集落のない草原地帯におり、大きな被害はなかったとのこと。
「また、現時点で同型個体の発見例はなく、この単体のみの発生だった可能性もあります。
そんなものとどうやって戦えというのだろうか。という気はするが、実際討伐できているのだ。ここまでの報告で討伐パーティから死者が出たとも言わないあたり、誰一人欠けずに勝ったのだろう。
討伐部の正規局員全員がとんでもない実力者ばかりだというわけでもない。別に私よりも弱い人もいるだろう。しかし、とんでもない化け物のような局員がいるのも事実だ。討伐任務だけでなく、魔術研究においても名を馳せるような者、武と魔術の両方に精通し人間の肉体では成し得ないほどのアーツを使う者、そんなやつらがいる。
「では、以上で第4回新種報告会を終了とします。ご参加の皆様は、お忘れ物のないようにお帰りください。」
3種の報告のあと、簡単な情報共有などがあり、報告会は終了となった。時間にして1時間半ほどか。
カフェでコーヒーでもすすって、食材の買い足しをして帰るとしよう。さて、夕飯は何を作ろうかな。
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