とおとやっつめのかたり「村の童ども、相撲取りにまつわりつくさま いとおかしげなり」

「ああ、相撲取りさんですか。それならこの辺りの畑の大根を順番に運んでもらってますから、もうすぐ来る・・・ああ!来た来た!」

 夫の方が強張った腰を叩きながら立ち上がると朋彦へと返事をし、言い終わらない内にタリョウゴがやって来た様で、朋彦の背後を指差した。

 朋彦とナオヨシが老人の示す方を振り向くと、空の荷車を曳いたタリョウゴが何人かの子供達を引き連れてやって来るのが見えた。

 タリョウゴの傍らで歩いている子供達の中にツルオの姿もあった。

「孫の守りまでしてくれて本当にすまんねえ。」

 畑の側までやって来たタリョウゴに老婆が汗を拭いながら頭を下げた。

 どうやらタリョウゴが畑の作物を運ぶ際に、ついでに子供達を連れ回す事で子守も兼ねている様でもあった。

「あれ? サダロウはどうした?」

 偉そうにぴいぴいと囀る小雀の姿が無い事に気付き、朋彦はツルオに尋ねた。

「今日は姉ちゃんの方。」

「そっか。まあ静かでいいな。」

 また偉そうに踏ん反り返って優れたマジナイ師がどうとかと言われるのも煩わしかったので、朋彦は内心ほっとした。

「――あ、えーとそれで、タリョウゴ殿、良かったら自分達も何か村の仕事を手伝いたいと思って。」

 正確には村の仕事をするタリョウゴの姿を堪能したい、だったが。

「そンな!! そこまでは・・・。村のお客人だし・・・。」

 タリョウゴもシモアサダ村の住人ではない為、歯切れの悪い言葉でしか遠慮する事が出来なかった。

 だが、辺境の田舎村に安くて良い品物を沢山もたらしてくれた商人をこれ以上働かせる事は、村長もきっと遠慮するに違いなかった。

 しかし、タリョウゴの手伝いをする――自分達と一緒に歩き回ってくれると解釈したらしい子供達の内、人懐っこい何人かが早速朋彦とナオヨシの周りへと駆け寄って来た。

「あたし知ってる! ゆうべものすごい明るい提灯持ってタリョウゴさんと荷物運んでた商人様でしょ!!」

 おかっぱの女の子が得意気にそう言って、他の子供達を見回した。

 昨夜の電気ランタンの明るい光は、村人達にはやはり強い衝撃を与えていた様だった。

「何か売ってよ!」

「何処で商売してるの?」

 二、三人のやや年上の女の子達がませた口調で朋彦に問い掛けると、他の子供達もわいわいと口々に騒ぎ立てた。

 ツルオもすっかり元気を取り戻した様で、彼等に混じって賑やかに騒いでいた。

「ほら! 静かにしないか! 室地様も困ってるだろ!」

 子供達の勢いに圧倒されて苦笑いしながら立ち尽くす朋彦とナオヨシを庇う様に、タリョウゴが子供達を諌めるものの、多少静かになった程度で余り効果は無かった。

「すンませン二人共・・・。」

「いやいや、全然。」

 申し訳無さそうに頭を下げるタリョウゴに、朋彦とナオヨシは笑って応えた。 

 取り敢えずタリョウゴの曳いて来た荷車にここの畑で取れた大根を積み込むと、村の共同作業場に持って行く事にした。

 基本的には村の土地の大部分は各人の所有で、その土地で採れた収穫物も個人の物ではあったが、一部を供出し村全体の為の保存食にする決まりがシモアサダ村にはあった。

 何とか皆で食べ物の少ない冬を生き延びようとする村人達の知恵だった。

「なんだー。もうお商売終わっちゃったの?」

「うちのお母ちゃん、何買ったのかしら?」

 大根を沢山積んだ荷車はそれなりの重量だったが、日頃鍛錬しているタリョウゴにとっては何の苦も無い様だった。

 朋彦とナオヨシは荷車の周囲をはしゃぎながら歩く子供達の後を付いて行くだけだった。

 浴衣の裾をからげ、袖をまくったタリョウゴの筋肉質な腕やふくらはぎが膨れたり震えたりしながら荷車を曳いていく様子を朋彦はちらちらと盗み見ていた。

「朋彦さん・・・。」

 朋彦が盗み見る様子をナオヨシは溜息をつきながらそっと諌めた。

 子供達に気付かれる事を恐れての事だったが、そんなナオヨシの背中を朋彦は笑いながら軽く叩いた。

「まあまあ。ナオヨシだって・・・だろ?」

「・・・そう・・・だけど・・・。」

 自分も朋彦の事は言えずタリョウゴの後ろ姿をちらちらと見ていたのを、ナオヨシも頬を少し赤くしながら認めた。

 そうする内に朋彦達は村長の家の二軒隣にある広場へとやって来た。

 広場には物干し竿や作業台が並び、少し入った所には板葺きの物置小屋の様な建物があった。

「ここは?」

 朋彦が尋ねると、広場の中へと荷車を進めながらタリョウゴは少し振り返った。

「村の共同作業場です。薬草や野菜を干したり袋詰めにしたりするのに使ってます。」

 タリョウゴが荷車を曳いて小屋へ向かうのに付いていくと、中では村の中年女性達を中心に慌ただしく作業が行われていた。

 切り干し大根用に刻んだり、漬物用に樽に突っ込んだりと狭い小屋の中で女性達が押し合う様にしていた。

「昨日まではアキノヒラガ草の擦り潰しや袋詰めをしてたンですけど、今日からは大根の漬物と切り干し大根を作るンです。」

 慣れているのか女性達の様子に動じる事も無くタリョウゴは朋彦とナオヨシに作業の説明をしてくれた。

 小屋の中は既に薬草らしい香りは無く、大根や糠味噌の匂いで溢れ返っていた。

「ああ、タリョウゴさん、行商人さん達も! 大根はこっちの台の上に積み重ねといて下さい!」

 一人が糠味噌に塗れた手で入り口近くの作業台を指し示しながら、ばたばたと奥へと小走りで駆けていった。

 殆どの女性が先刻の駐在所に買い物に来ていた様で、何人も朋彦とナオヨシの見覚えのある顔が居た。

「は、はい。」

 彼女等の様子に圧倒されながら、朋彦とナオヨシもせっせと荷車から大根を下ろしていった。

 朋彦達が作業台の上に積み終わった所で、近くで初老の女性が漬け終わった樽に蓋をしながら声を掛けてきた。

「次はハツエさんトコの畑かね!?」

「そうです!」

 タリョウゴが空になった荷車を外へと向けながら答えると、すぐ近くで樽を運ぶ二、三人が笑顔を向けて来た。

「じゃあ、そこの大根で最後だ! 相撲取りさんのお蔭で今年も野菜運びがだいぶ楽だったわ!ありがとうね!行商人様達も!」

「ほんと! ありがとうね!」

「ハツエさんトコ終わったら、後は子供らよろしくね!」

 朗らかに笑いながら口々に言いたい事を言うと、彼女達は次の作業へと移っていった。

 彼女達の様子に圧倒され、苦笑しながらタリョウゴは子供達と一緒に荷車を曳いて外へと出た。

 朋彦とナオヨシも逃げる様にしてタリョウゴの後を追ったのだった。



「何か・・・すごかったね・・・。おばさん達。」

 朋彦の隣を歩きながらナオヨシは大きな溜息をついた。

 作業場の女性達の騒がしく逞しい空気にナオヨシはすっかり圧倒されていた。

「まあ、どの村でもおばちゃン達は強いですから。」

 朋彦達を軽く振り返りながらタリョウゴは苦笑した。

「でも・・・ちゃんとお礼を言ってもらえるのって・・・何か、いいよね。」

 ナオヨシはナギシダ村で働いていた時の事をふと思い出し、少し視線を落とした。

 村の厄介者が村人の為に働くのは当たり前だ、と、何処か余所余所しい雰囲気の中で礼も言われず働いてきたナオヨシにとって、ぞんざいではあったが明るく笑いながら礼を言われる事は心がくすぐったく温かくなる思いがしたのだった。

「ナオヨシ・・・。」

 傍らを歩くナオヨシを見上げながらも、朋彦はどんな言葉を掛けていいのか判らなかった。

「あ、ごめんね。変なコト言っちまって。」

 朋彦の少し困惑した表情に気付き、ナオヨシは慌てて謝った。

「いや、そんな事無いって。――あ、こら、そっち行くな。」

 朋彦はナオヨシにそう言って微笑んだ所で、ツルオや他の子供達が蜻蛉を追い掛けて行こうとするのが目に入り、慌てて止めに走った。

 最後のハツエという人の所の畑の大根を作業場に運び終えると、タリョウゴの今年のシモアサダ村での力仕事の手伝いは終わりだという事だった。

「やったー!遊ぼうぜ。」

「あっちの広場で相撲取ろう!」

 タリョウゴが村長の所に荷車を返しに行く後ろを付いて回りながら、男の子達が嬉しそうに騒ぎ立てていた。

 力仕事の手伝いは終わったものの、夕方まではまだ時間があり大人達もまだ仕事がある為、タリョウゴには引き続いて子守の仕事があったのだった。

 薬草採りや作物の収穫も他の雑事も大分片付いたので、もうツルオ達の様な幼い子供に手伝える仕事も無くなってしまい、同じ様に仕事を終えたタリョウゴは丁度いい子守役だった。

 タリョウゴのがっしりとした両手にぶら下がる様にしがみ付いたり、ぶんぶんと振り回したりしながら子供達とタリョウゴは集落と山の境目にある祠のある広場へと歩いていった。

「随分子供らに懐かれてますね。」

 荷車が片付いたので先刻よりは少し下心混じりに距離を詰めながら、朋彦がタリョウゴに話し掛けた。

「あー、まあ、毎年来てるから覚えられたンです。それにこの村に馴染みの相撲取りは自分くらいなンで、余計に印象が強いンでしょう。」

 両手にしがみ付く様にして子供達がもたれかかっているのに苦にした様子も無く、タリョウゴは笑いながら答えた。

「へえー。あんまりこの辺りって相撲取りは居ないんですか?」

 朋彦がふと疑問を口にすると、タリョウゴは残念そうにしながら頷いた。

「はい。田舎過ぎてこの辺りの地域は少なくて・・・。相撲取りの興行や神事も最低限しか出来ていないンです。」

「ナギシダにも相撲取りなんて来たコト無かったよ。」

 タリョウゴの言葉にナオヨシも付け足した。

 この世界での相撲は娯楽として、武道や格闘技として、神事として人々に広く親しまれているものだった。村祭り等で村人同士の素人相撲も勿論盛んではあったが、資格や職業としての相撲取りは誰にでもなれる訳ではなく、数も多いというものでもなかった。

 その鍛えた肉体一つを以って土俵の上でぶつかり合う事で神々や精霊を祭り奉る存在である相撲取りは、基本的には神社の神官という扱いになっていた。

 神々や精霊が現実に存在し人々共に在るこの世界では、相撲取りの資格も彼等から許されて初めて名乗り、振舞う事が出来るのだった。

 「相撲取り」「力士」「力師」――と、実力が上がるにつれて位も上がり、最上位の「力師」にもなると、人の身であっても神々と互角に戦い、勝つ事も有り得るのだという。

 ――と言う知識は既に朋彦はシモアサダ村に旅立つ前に参照しており、この部分だけはよく知っていた。

「じゃあタリョウゴさんも「力士」なの?」

 カミイシダ村の神社の家の次男だと言っていた事を思い出しナオヨシが尋ねると、タリョウゴは少しだけ顔を曇らせ俯いた。

「あ、いや・・・自分はまだ「相撲取り」で・・・。ウチの家族も・・・一番上の兄が近々「力士」になれるかもっていう所です。」

「タリョウゴ殿も強そうなのに。」

 朋彦が言うと、タリョウゴはまた顔を曇らせて溜息をついた。何処か、家族の事については憂う事がある様にも朋彦には思えた。

「・・・いや、自分なンてまだまだです・・・。」

「そ、そういや、カミイシダ村の祭は相撲大会とか相撲神事があるんですよね。俺・・・いや私達、それ見に今回はカミイシダ方面に旅をしてるんですけど。」

 暗くなりかけたタリョウゴの様子に朋彦は慌てて話題を変えた。

 そうする内にも家も疎らになり、祠の置かれた広場が見えてきた。

「あ、はい。後十日位で祭ですね。賑やかですよ。年によっては近くの村からも力自慢が出場しますし。上位戦は本職の相撲取り顔負けの凄い戦いですし、見応えありますよ。賞品も米俵とか上等な酒とか――ああ、室地様の売って下さった酒も賞品になると思います。」

 気を取り直して説明してくれるタリョウゴの話に朋彦もナオヨシも、力自慢の若者達の取っ組み合いぶつかり合う光景を想像し心をときめかせた。

「へええ。面白そうだなー。タリョウゴさんも出るんだろ? 毎年何位くらいなの?」

 ナオヨシが何の気無しに尋ねたものの、タリョウゴはまたほんの少しだけ顔を曇らせてしまった。

「じ・・・神社の神官の家族は大会には出る事が出来ンのです・・・。あンまり・・・その、神事や試合以外で相撲は取れンので・・・。」

 素人とはみだりに相撲を取れないのか――と、朋彦は今回の村祭りでタリョウゴのマワシ姿が見られそうにない事に落胆してしまった。

「そっか・・・。残念だね・・・。」

 横を歩くナオヨシも肩を落としていた様だった。

「着いたー!!」

「俺一番~!」

「ずるいいー。」

 そんな三人の様子を気にする事も無く、子供達は広場に着くとすぐに思い思いに騒ぎ立てながら駆け出して行った。

 小さな公園程の広場は草刈りが小まめに行われている様で、芝の様な下草が広がっていた。

 広場の奥には朋彦達の背丈の半分程の高さの祠があり、その両脇には御神木として注連縄を巡らせた大きな楠が聳えていた。

 田舎の子供達が、神社や寺の敷地を公園代わりの遊び場にするのは元の世界とそう大差は無い様だった。

「あの祠は何の神様を祭ってるの?」

 大きく聳える二本の楠を眺めながら物珍しそうにナオヨシが尋ねた。

 ナギシダ村にも恐らく祠や神社に関する物はあったのだろうが、毎日忙しく村の者達に働かされていた生活だったので、ナオヨシには馴染みが薄いものだった。

「あれはカミイシダ村におられるイシダヒメ様の霊力を宿した要石を安置してます。天や地や海には生命の源となる霊力の流れがありまして、その流れを安んずる為の・・・。」

 神社の息子らしくタリョウゴは神事や神社に関するものの知識を滔々と朋彦とナオヨシ達に披露してくれた。

 説明の半分も二人は理解していなかったが、ナオヨシは素直にタリョウゴに尊敬の眼差しを向け、朋彦は生真面目に説明するタリョウゴの様子を堪能していた。

 そうして朋彦とナオヨシがタリョウゴの説明を聞き終った所で、聞き覚えのあるピイピイと小生意気そうな雀の鳴き声が聞こえてきた。

「室地殿!今日はこちらにおられたか!」

 チヅコの肩の上でぱたぱたとサダロウが機嫌良く羽ばたいていた。

 チヅコ達四、五人のやや年上の女の子達もそれぞれの手伝いが終わった様で、親の仕事が終わる時間までツルオ達と同じ様に時間を潰す様だった。

「おー・・・。」

 余り機嫌も良くなさそうに朋彦はサダロウへと片手を上げて挨拶した。

 チヅコ達の所に居るのに飽きたのか、サダロウは今度は村の男の子達と飛び跳ねて遊んでいるツルオの所へと飛んで行った。

 チヅコや他の女の子達は朋彦やナオヨシ、タリョウゴへとちょこんと頭を下げてから祠の近くに腰を下ろした。

 近くの山から飛んで来たらしい銀杏や紅葉の色付いた葉っぱを何枚か集めて遊び始めた様だった。

 そこに姉妹だったのかツルオ達と遊んでいたおかっぱの小さな女の子二人が、姉ちゃん、と言ってチヅコの隣に座っている女の子の方へと走って行った。

「タリョウゴさん、相撲相撲!」

 丸坊主の痩せた男の子達がタリョウゴの手を引いて余り草の生えていない所へと連れて行った。

 相撲とも言えない様なしがみ付きや取っ組み合いの様子を、朋彦は実に羨ましそうに眺めていた。

「むう・・・。子供達が羨ましい・・・。」

 小声ではあったが地の底から唸る様な声を出す朋彦に、ナオヨシは、

「その気持ちは判るけど、声が怖いよ。」

 呆れた様に溜息をついた。

 そのまましばらく朋彦とナオヨシは広場の隅に腰を下ろし、タリョウゴと子供達の遊ぶ様子を眺めていた。

 その内に、少し飽きたのかツルオが一人他の子供達から離れて朋彦とナオヨシの所へと歩いて来た。

「・・・ん? どうした?」

 朋彦が尋ねると、ツルオは朋彦の着物の懐を指差した。

「あの家のぴかぴか見せて。」

「あー・・・。」

 朋彦は少し返事に困ってしまった。

 ツルオの顔を見ると、単に遊びに飽きたらしく気分転換に目新しい物を見たいといった雰囲気だったので、朋彦はなるべく優しそうな声でツルオに話し掛けた。

「あー、ごめんな・・・。マジナイの道具は皆には内緒だから・・・。」

「うん。」

 案外あっさりとツルオは頷くと、胡坐をかいて座っているナオヨシの隣にちょこんと座り込んだ。

 そのまままたしばらくすると、今度は祠の近くに居たチヅコ達年上の女の子達が朋彦達の方へとやって来た。

 サダロウはまたチヅコの肩の上に戻っており、定位置で朋彦の方を見ていた。

「今度はどうした?」

 代表らしいチヅコが朋彦の前へと進み出て、少しの間、何と言ったものかと困った様に視線をあちこちに彷徨わせていた。

「あの・・・ね・・・。」

「?」

 朋彦が首をかしげると、チヅコは隣に立っていた二人へ顔を向けた。

「このハルコちゃんとハナコちゃんのお家、お昼に飴、買えなかったって・・・。それで・・・その・・・何とかならないかって思って・・・。」

「あー・・・。」

 昼間の駐在所にこのハルコやハナコの親達も買い物に来ていたのだろう。

 自分達の母親や他の者達が何を買ったとか買えなかったとかの話を聞いて、自分達のおやつを買う事が出来なかったと知ったのだろう。

 チヅコ達もまだ七、八歳位だし、他の家では買えたのに自分達の家は買えなかったのを我慢するには辛いのは朋彦にも容易に理解出来た。

「そうだなあ・・・。」

 朋彦はどうしたものかと困惑しながらそっと溜息をついた。

 ナギシダ村よりはましではある様だが、このシモアサダ村も貧しい事には変わりは無かった。

 昼間の商売は大繁盛ではあったが、相場よりかなり安く設定していた。それに滅多に行商人も来ないという事だったので、生活に必要な物は多少の無理をしてでもこの機会にと買い求めた者も多かっただろう。

 子供のおやつを買う余裕がある者がそう多くはない事は容易に想像出来た。

「何とか・・・ならないかしら・・・。」

 朋彦が立派なお屋敷を山の中に出現させたり、自分達を攫った盗賊達を捕まえたりと、凄いマジナイの力を持った者だと既に知っているチヅコは、その力で何とかならないものかと幼い子供らしい憧れと期待に満ちた表情で朋彦を見ていた。

「拙者からもお願い申す。甘い物など滅多に口に出来んのだ。この子達が哀れとお思いならば。」

 チヅコの肩の上でサダロウもぴいぴいと囀った。

「マジナ・・・いやその、商いに優れた室地殿ならばた易い事であろう?」

 見かけだけは可愛らしく首を傾けた小雀の偉そうな言葉に、朋彦はまた溜息をついた。

「朋彦さん・・・。」

 朋彦の傍らでナオヨシがおろおろしながら朋彦と子供達を交互に見た。

 どんな食べ物でも作り出して子供達に与える事は勿論朋彦にとっては簡単な事ではあったが――一般論として子供の教育上は良くはないだろうと、朋彦は悩んだ。

 彼女達の親だって、子供達にせがまれたからと言って安易に施しを受けるのもよしとはしないだろうし・・・。

「室地殿、頼むでござるよ。」

 サダロウがまた可愛らしく首を傾け直した所に、いつの間にかタリョウゴが近くにやって来ていて厳しめの声を掛けてきた。

「――精霊様も、無責任な事は言わンで下さい。室地様が困ってるじゃないですか。」

「タリョウゴ殿・・・。いやしかし・・・。」

 サダロウがタリョウゴへと顔を向けるが、タリョウゴは溜息をつき、優しく言い聞かせる様にサダロウや子供達へと口を開いた。

「余り我儘な事を言って困らせてはいかンよ・・・。辛いだろうけど、我慢する事も覚えないと。」

 タリョウゴの言葉に子供達は頭では判ってはいるものの、少し泣きそうな表情で俯いた。

「あ、いや・・・その・・・。」

 子供を悲しませるのも後味が悪く、朋彦は言葉に詰まった。

 こんな辺境の貧しい田舎の村では、飴玉一つでも大した宝物だろうし。

 子供達との取っ組み合いで少し汗ばみ、浴衣の前もはだけているタリョウゴの姿にときめきながらも、朋彦は何か良い考えが無いものかと頭を悩ませた。

 タリョウゴが全裸で相撲の稽古してくれたら子供達のおやつなんて幾らでも――等と、欲に塗れた妄想に考えが逸れかけると、タリョウゴと取っ組み合って遊んでいた男の子達も何事かと朋彦達の方へと集まって来た。

「なあなあ、タリョウゴさん、まだか~!」

「早く続きしようぜ。オレ後一回タリョウゴさんに勝ったらイチョウの葉っぱ十枚で上がりだぜ。」

 そんな事を言いながら子供達はタリョウゴの浴衣の裾を引っ張った。

 裾が引っ張られ浴衣の肩や胸元がずれてしまい、タリョウゴの汗ばんだ筋肉質な胸板が少し見える事に目を輝かせつつ、朋彦が子供達の方を見るとイチョウやモミジの葉っぱを何枚か手にしているのが目に入った。

 何かの遊びで葉っぱを何枚集めたら勝ちだとか負けだとかルールを決めているのだろう。勝ったら広場で見つけた色付きの小石が景品だと子供達の一人が無邪気に言っていた。

「景品・・・か・・・。」

 景品――取っ組み合い――朋彦の頭の中に閃くものがあった。

「・・・何かすっげえ悪い顔してるよ・・・?」

 横で成り行きを見守っていたナオヨシが心配そうにしつつも少し呆れた様にしていた。

 朋彦はとても良い笑顔でナオヨシに答えた。

「まあ、悪い事考えついたかもなー。――あ、みんな、ちょっと待っててくれよ。」

 朋彦は子供達にそう言い置いてナオヨシを少し離れた所へと引っ張っていった。

「?」

 訝るナオヨシの耳元へと背を伸ばし、朋彦は小声で悪巧みを囁いた。

「喜べ。合法的にタリョウゴと密着出来るぞ。」

 朋彦の言葉にナオヨシは汗ばんだタリョウゴの体とくっつき合う事を想像し、顔を赤らめた。

「い・・・嫌じゃないけど・・・。でも・・・。」

 恥ずかしさに口ごもるナオヨシをよそに朋彦は懐の道具袋に手を突っ込み、人数分の棒付き飴を作り出すと、ナオヨシの手を引いてそそくさと子供達の所へと戻った。

「よーし! 子供達よ。今から即席相撲大会だ。この中の誰か一人でも私かナオヨシに勝てばこの飴全部をくれてやろうではないか!」

 偉そうに踏ん反り返り、大袈裟に手を振ってタリョウゴから一番端に居るチヅコ達女の子まで指し示し、朋彦はそう言って懐から今さっき作り出した飴の束を取り出して掲げた。

 直径五センチくらいの色彩豊かな丸い板状の、元の世界でよくあるペロペロキャンディーの様な菓子だったが初めて見る子供達にとっては宝石の様に輝いて見えていた。

「おおー!」

「すごーい!」

「流石室地殿!」

 子供達やサダロウが口々に歓声を上げ、もう貰える物として目を輝かせた。

「――で、拙者の分は? あ、拙者、飴よりは先日の堅い茶色い菓子の方が良いのだが。」

 朋彦の手にある飴の数が子供達とタリョウゴの分しか無い事に気付き、サダロウが図々しい事を言いながらぱたぱたと小さく羽ばたいた。 

「・・・・・・・・・。」

 数秒の間、朋彦は嫌そうに口を歪めてサダロウを見下ろしていたが、仕方無しに道具袋から追加のビスケットブロックを作って取り出した。

「おお!流石でござる!」

 ビニールパックに詰められた薄茶色の塊にサダロウは嬉しそうにまた羽ばたいた。

 ビスケットを見た事も食べた事も無い子供達は、からかう様に声を上げた。

「げー、土じゃないか。」

「精霊様、こんなモン食うのか?」

「失敬な! これは異国の菓子でござる!」

 わいわいと騒ぎ立てる子供達やサダロウの様子を、タリョウゴも少しほっとした様に眺めていた。

「室地様、有難うございます。」

 即席相撲大会に出る者にはタリョウゴも含まれていた。

 タリョウゴに相撲で敵う筈もないが、村の大人達になるべく角が立たない様に子供達へ飴を贈ってくれようとする朋彦の意図を察してタリョウゴは嬉しそうにしていた。

「いやいや、まだ礼を言うのは早いですよ。」

 タリョウゴの言葉に朋彦はにやりと笑いながら答えた。 

 取り敢えず祠の近くの平らな岩の上に風呂敷を広げ、朋彦はその上に景品となる飴とビスケットを置いた。

 その間にタリョウゴが木の枝で土俵の線を引き、その木の枝を軍配代わりに持つ事にした。

 行司は取り敢えずタリョウゴがしてくれる事になった。

「よーし、来い。」

 土俵の片側に立ち、朋彦は見様見真似で仕切り線の前で腰を下ろした。

 朋彦とナオヨシに挑むのはツルオも含む男の子達五人と、先程チヅコと共に頼みに来たハルコとハナコ姉妹の計七人の子供達だった。

「手をついて待ったなし――はっけよいー。」

 行司として立つタリョウゴのがっしりとした足を横目でちらちらと見ながら、朋彦は向かってくる丸坊主の男の子の突進を苦も無く受け止めた。

 幾ら朋彦が体力が無い一般人といえども、流石に四、五歳の子供に負ける訳が無く、そのまま土俵の外へと押し出した。

 順番にツルオや他の男の子達も挑んだものの、朋彦は一切の手加減無く――勿論、投げ飛ばす等の乱暴な事はしなかったものの――子供達に勝ち続けた。

 子供の一人は悔しくて大泣きする者も居て、流石に皆の非難めいた視線が朋彦へと集まった。

「朋彦さん・・・。やっぱり大人げないよ・・・。」

 ナオヨシは子供達に申し訳無さそうに眉を寄せ、溜息をついた。

「全くでござる! 子供相手にひどいでござるよ!」

 サダロウも黄色い嘴を大きく開いてぴいぴいとがなり立てた。

「大丈夫よ・・・。ね、タリョウゴさんが勝つからちゃんと飴もらえるわよ。」

 朋彦に負けてしまって不満と不安に俯くハルコとハナコをチヅコが慰めた。

「室地様・・・。何も泣かせなくとも・・・。」

 サダロウ達程にはあからさまではないものの、タリョウゴも朋彦に困惑した眼差しを向けていた。

 タリョウゴからも不審の目を向けられ、朋彦は慌てて首を横に振り言い訳を口にした。

「いやいやいやいや、あのですね。幼い内から世間の厳しさをですね。知っておいた方がですね。いやその。」

 その様子に朋彦にも悪気があってやった事ではないのだろうと、タリョウゴは好意的に解釈し、まだ少しぐすぐすと泣いている男の子の頭を優しく撫でた。

「ちゃンと勝ってくるから泣きやむンだ。」

 すっかり朋彦の立ち位置が悪者の様になってしまったが、一応は朋彦の思惑通りに事は進んだのだった。

 ここまで来たのだから流石に余興でタリョウゴが負けてやるなんて事は無いだろう。タリョウゴが負けてしまえば景品の飴は台無しになるのだから。

 相撲による取っ組み合いによりタリョウゴの体に怪しまれずに密着出来るという、朋彦の下心から生まれたスバラシイ作戦はもうすぐ成就しようとしていた。

「じゃあ、取り敢えず行司はチヅコにでも。ただ立っているだけでいいから。」

 タリョウゴはそう言って持っていた木の枝をチヅコに渡した。

「あ、うん・・・。」

 戸惑いながらもタリョウゴに言われた通りに土俵の中程にチヅコが立つと、タリョウゴと朋彦はそれぞれ仕切り線の前へと足を運んだ。

 もうすぐタリョウゴの体の感触を楽しめるという喜びに朋彦の顔はにやけそうになってしまうが、何とか普通の表情を取り繕った。

 タリョウゴの方も困った様な呆れた様な、そんな何とも言い難い表情のまま仕切り線へと手をついた。

 間近に迫るきりっとしたタリョウゴの顔に朋彦はしばし見惚れていたが、

「はっけよいー。」

 チヅコの掛け声に弾かれ、すぐさまタリョウゴの胸元へと飛び込んでいった。

「――!」

 しかしほんの一瞬前までタリョウゴの体があった筈の所には何も無く、朋彦の突進をあっさりと躱したタリョウゴは朋彦の着物の腰帯の辺りへと軽く手を添えていた。

「ほい。」

 そのままタリョウゴにぽんと腰を押されて朋彦はあっさりと土俵の外へと転がり出てしまったのだった。

「ええええええええええええええーっっっ!?」

 素人相手に余興で負けてやるという事は無かったが速攻で勝負を付けられてしまい、世間の厳しさを教えられたのは朋彦の方だった。

「や、やり直しを要求する! 物言いだ物言い!」

 地面に転がった体勢のまま朋彦は拳を振り上げた。

「・・・流石に見苦しいでござるよ室地殿・・・。」

 試合とも言えない試合を離れて見ていたサダロウが呆れながら呟いた。

「やったー!!」

 泣いていた子供もタリョウゴの勝利に笑顔になり、皆の歓声が上がった。

 朋彦の要求が認められる訳も無く、次はナオヨシの番になった。

「よ・・・よろしくお願いします・・・。」

 ナオヨシは少しの緊張とときめきに頬をほんの少しだけ赤らめながら、自信無さそうに土俵の中へと進んでいった。

「みあってみあってー、はっけよーい。」

 チヅコが軍配代わりの木の枝を振り、慣れないせいで少し棒読み気味の掛け声を掛けた。

 仕切り線に手をついて向かい合うものの、タリョウゴのきりっとした顔がすぐ目の前にある事に緊張してしまいナオヨシは少し目を逸らしてしまった。

「のこったー。」

 チヅコの掛け声と共にナオヨシは立ち上がり、タリョウゴの浴衣の帯へと手を伸ばした。

 しかしナオヨシの両手はタリョウゴに掴まれて引き寄せられ、ほんの一瞬少しだけ汗ばんだタリョウゴの体の感触を感じたかと思うと――すぐに土俵の外へと押し出されてしまったのだった。

「勝ったああ~!!」

「やったー!!」

 子供達は全員が嬉しそうに手を叩いたり、タリョウゴに駆け寄ったりしてタリョウゴの勝利を喜んだ。 

「おー、お疲れ。」

 土俵を出てナオヨシが朋彦の所に戻って来ると、朋彦は残念そうに肩を落としたまま地面に座り込んでいた。

「うん・・・。ちょっと勃ちそうで全然集中できなかった・・・。」

 ナオヨシは朋彦の隣に腰を下ろすと、皆には聞こえないように小声で朋彦に囁いた。

「あー、判る。チラリズムのエロリズムだからなー。」

 朋彦もナオヨシに小声で返した。

 やや厚手の布地ではあったが、子供達との遊びにより汗ばんで体に所々貼り付いた浴衣はタリョウゴの筋肉質な背中や腕等を際立たせていた。 

 ずれて前の合わせが開いてはだけ、厚めの胸板や滑らかな腹筋もちらちらと見えており、朋彦とナオヨシにとっては大変に目の保養であり目の毒でもあった。

「やれやれ。」

 朋彦は大きな溜息をつくと立ち上がり、祠の近くに置いていた飴の所へと向かった。

 その後を期待に目を輝かせた子供達がぞろぞろと付いていった。

「はい、約束の景品だ。受け取りたまへ。」

 朋彦は何処か偉そうな口調で順番に飴を手渡していった。

「ありがとう!!」

 子供達は本当に嬉しそうにそう言うと、その場で包みを剥がしぺろぺろと舐め始めた。

「あー、包みはゴミになるから回収な。」

 朋彦は子供達からプラスチックフィルムの包みを受け取り、懐の道具袋へと突っ込んだ。

「俺もいいンですか?」

 タリョウゴが戸惑い気味に尋ねたが、朋彦は頷いてイチゴ味の赤い棒付き飴を手渡した。

「ちゃんと人数分ありますから遠慮しないで下さい。」

「あ、いいな~。」

 飴が羨ましいのか、飴をタリョウゴに手渡す役が羨ましいのか、ナオヨシが朋彦の後ろで残念そうに呟いた。

 そのまま皆は飴を舐めながら思い思いに腰を下ろし、休憩の様な雰囲気になってしまっていた。

 サダロウはチヅコにビスケットの袋を開けてもらい、チヅコの足元で機嫌良く啄んでいた。

「うむ。やはり異国の菓子は美味でござるな。」

 ちゅんちゅんと機嫌良く鳴きながらサダロウはチヅコの周りを飛び跳ねた。

「毎日でも食べたいでござるな。」

 すっかりビスケットを気に入った様で、あっという間に半分に食い散らかされてしまった。

「行商人様、ずっとこの村で商売してくれたらいいのに・・・。」

 ハルコが飴を舐めながら溜息をついた。子供達も同じ思いの様で、少しの間子供達は朋彦をじっと見つめていた。

「ごめんな・・・。次はカミイシダ村に行くつもりだから・・・。」

 カミイシダ村の秋祭り――と言うよりはその中の相撲大会を観戦する為という目的だったが、流石に本音を言う訳にもいかず、朋彦は一応は申し訳無さそうに子供達に謝った。

「――そういや、この村は秋祭りとかはやらないのか?」

 無理矢理に話題を変え、朋彦は子供達やタリョウゴに問い掛けた。

「もう少ししたらこの村でも、秋のお祝いの宴会があるわ。」

「カミイシダの村祭りにはかなわぬが、秋の収穫の仕事が終わったらそれを祝う宴会がある故――それが秋祭りになろうかの。」

 チヅコが答えた後にサダロウが付け足した。

 贅沢は出来ないものの、村の皆で夜通し飲み食いし、歌ったり踊ったりしながら過ごすのだという。

「へえ・・・。」

 朋彦が相槌を打つ横で、ナオヨシが誰にも気付かれない様に少しだけ目を伏せた。

 秋の祭の夜更けの、若者達の夜這い――それを思い出してしまい、ナオヨシの心に影が差した。

 


 やがて夕方になり、順番に子供達を家に送り届けながら朋彦達は駐在所へと帰る事にした。

「♪~」

 夕暮れの日の光に赤と薄紫に染まる山々を眺めながら、手を繋いだ子供達が何かの童歌を口ずさんでいた。

 太陽は山の端に沈みかけ、地面に伸びる子供達の影法師は既に薄青く消えかけていた。

 タリョウゴに手を引かれる子供達から少し後ろに下がった所を歩きながら、ナオヨシは傍らの朋彦にそっと声を掛けた。

「・・・カミイシダ村の祭も、夜這いみたいなコトあるのかな・・・?」

 ナオヨシの言葉に、ナオヨシがナギシダ村で夜這いに参加出来ずに「産めぬ民」だと疑われた事を朋彦は思い出した。

 知識の参照をざっとすると、海でも山でも辺境の田舎の村では若者達の結婚や出産の促進の為、一種の娯楽の為、村祭りの夜に夜這いを組み合わせる事は広く行われているとあった。

「そう・・・だな・・・。」

 この近辺では比較的大きな村であるカミイシダ村でもその風習は現役だと――朋彦の頭に参照された情報が浮かび上がった。

「・・・でも心配しなくても大丈夫だよ。」

「ほんと?」

 朋彦の言葉にナオヨシの曇っていた顔が幾らか和らいだ。

 旅の者に夜の接待として村の女性を勧められる事も無い訳ではなかったが、旅の途中だから、或いは余所者だからと断ったりしても角が立つ事は無い――とも、知識の参照の中にはあった。

 そうした事を簡単にナオヨシに説明すると、ナオヨシは目に見えてほっとして明るい表情に戻った。

「・・・やっぱ、行商人で余所者だと、俺達みたいなナントカの民には都合がいいみたいだな・・・。」

「そうだね・・・。」

 朋彦とナオヨシはそっと呟いた。

 根無し草で流離う身の上は寂しく頼り無くはあったものの・・・村の中で人々に「産めぬ民」だと知られる心配をしながら生きていくよりは、幾らかは生き易いと言えた。

「また明日~。」

 ハルコ達姉妹も、チヅコとツルオも帰っていき、子供達は皆家々に送り届けられ帰って行った。

「俺達も帰りましょうか。」

 最後の子供を送り終え、タリョウゴが朋彦とナオヨシを振り返った。

「あ、はい。」

 余所者とか根無し草等と考えていた所でそんな言葉を掛けられてしまい、何となく居心地の悪い様な妙な気持ちを感じながらも朋彦とナオヨシはタリョウゴの後を追った。 

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