第14話 Code旋風

 「神力換交。」


 『ユニットシステム【神威】プロテクト キャストオフ バイクユニットCode鎧刀との接続を開始します。』


 その表示が現れると同時に、止めてあったバイクが起動し、飛行形態で飛びながら、俺の下に飛んできた。

 鎧刀は飛行状態から、さらに変形し、ユニットが基礎部分だけになった俺に、合体してくる。


 鎧刀が、俺に合体すると、さらに変形し、背中にはブースター、腕部には主力武器となるブレードが付いている。


 『鎧刀装着 ユニットチェンジ。003【旋風】アクティブ』


 003【旋風】の使用によって、俺の体は、青と銀の配色から緑と銀の配色に変わった。さらに、神威より、明らかにスリムな体型になったことにより、通常より俊敏に行動がとれるようになった。


 「さあ、行こう。クルル。今の悪政を取り除き、俺達の生きていた、民主主義国家を作るぞ!」

 「ああ、だが、私はお前のバックアップになるだけで、政治には関与しないからな?」

 「分かってるよ。【ブースターオン】」


 俺は、さっそく飛ぶために、背中のブースターを起動する。


 『ブースターシステム アンリミット。これより飛行を開始します。』


 その文字が浮かび上がると、俺の体は宙に浮き始める。

 思ったより、安定している。やはり、物理法則は存在しなかったか。


 「お前は自力で空まで飛べるのか。もはや、何でもありだな。」

 「言ってろ。とにかく、まずは幽閉されている人たちを開放する。なんか調べた感じ、奴隷にされている人も大勢いるみたいだからな。」


 クルルは会話しながら、龍形態になり、飛行を開始し、俺がそれに並行して、付いていく。


 そこから、ものの5分ほどで、マルコの屋敷の上空600メートル地点に到達した。600メートルと言うと、八王子にある高尾山の標高と同じくらい。もっとわかりやすく言うなら、東京スカイツリーより、少し低いくらいの高さだ。


 俺はそこから、クルルに指示を出す。


 「クルルはここで待機して、俺がクルルの魔法の……【テレパシー】だっけ?それで合図を出すから、そうしたら来てほしい。」

 「分かった。この魔法は常時展開しているから、作戦変更時、連絡してくれ。あ、あとこれを。」


 その言葉とともに、クルルは綺麗な、エメラルドグリーンに発行する球を四4つ程渡してきた(念力で)。


 「これは?」

 「お前のことだから、必要ないだろうが、中の人間が無事とは限らない。もし、怪我人がいたら、それで治せ。瀕死までなら治る。」

 「瀕死の次は、もう死だよ。まあ、ありがとうな。」


 そう言って、次元のバックパックを起動して、その中に放り込む。


 「なんだそれは?次元の鞄のようなもの?お前の方が非常識で、変な魔法を使うではないか!」

 「じゃあ、行ってきまーす。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 同時刻 シクルト邸 地下一階収容所


 「はーあ…。なんでこんなくっさいところで見回りしなきゃいけないんだよ。」


 ここは冤罪で収容された人間達が、集まる場所。そこの見回りの雇騎士は文句をたれつつも、勤務していた。


 「クッソ…。こんな陰気臭いところで、仕事したくねえなあ。あ、そうだ。下で、一回女を犯してくるか。あいつら、無駄に体は良いからな。」

 「そうやって、生きてて楽しいか?」

 「ああ!?」


 最低な発言をする、騎士に対して、牢の中にいる一人の男が問いかける。しかし、気に入らないのか、騎士は高圧的だ。


 「だったら、牢につながれて生きているお前の人生の方が良いってか?」

 「そういうことじゃない。君は人並みに生きて、妻を娶り、子供と一緒に生活する。その生活を望んだことは無いのか?」

 「そんなのは、ガキか老害の妄言だよ。結局は、女は男に抱かれて子供を産むためだけの道具なんだよ!」

 「そんな生き方をして、他人にその考えを押し付けるなら、いつか君は殺されるよ。」

 「誰にだよ!?正義の味方か?残念だったな。この屋敷のセキュリティは万全。この屋敷にいる限り、俺は殺されねえよ!」


 ズバァン


 突然、騎士の体が真っ二つに割れ、耳をつんざくような音が聞こえる。


 「な、なんだ!?」


 騎士と話していた、男は何が起きたのか、理解できなかったが、ある人物を確認すると、少なくとも二週間前の少年がやったという事だけは、理解した。


 なぜなら、真っ二つになった騎士の後ろに、全身鎧の見覚えのある、人型の何かが、立っていたからだ。


 彗視点


 「大丈夫か?」

 「おう、あんたのおかげで大丈夫だったぜ。ありがとな。いつかの少年よ。」

 「あれ?その声……もしかして、あの時の!?」

 「おお、やっぱりか!本当に助けに来てくれたんだな!」

 「あんた、本当に牢に入れられてたのか!?元気すぎるだろ!?」


 俺が今話しているのは、牢を脱走した時、助けに行くと約束した男だ。こんなガタイが良い奴だったのか?


 「取り敢えず、早くしよう。このフロアにいる人たちは全員救出して良いのか?」

 「おうよ。こないだも言った通り、このフロアにいる奴らは、全員冤罪だ。」

 「なら、牢を全部ぶち破るから、先導を頼んでもいいか?えーと…。」

 「バルだ。ここにいる奴らは、俺が責任を持って、家に連れ帰ってやる。」

 「いや、出来れば、上の牢の管制室を制圧して、そこで待機してほしい。まあ、無理そうなら、その付近で待機しててくれ。」

 「分かった。ほら、お前ら!こいつに感謝しろよ!」

 「「「ありがとうございます!」」」


 感謝の言葉を聞いた後、俺はブレードを使って、ひとつひとつ牢の錠を破壊していった。


 全ての錠を破壊し終えると、全員が俺に感謝をしながらも、頼みごとを持ちかけてきた。


 「お願いします。下のフロアの人達も助けてあげてください。」

 「あそこの人達は、俺達よりもひどい扱いを受けてるみたいなんだ。」

 「あそこからは、毎日女性の悲痛な叫び声が木霊してるんだ。」

 「しかも、一人死にかけてるって、見回りが言ってたんだ。」


 おそらく、件の女性冒険者を誘拐して、性奴隷にしているという話だろう。これに関しては、答えるまでもないな。


 「元々、そちらも救出するつもりだ。脱走してから二週間。何も調べずにいたわけじゃないんだよ。」


 そう言って、下のフロアに向かおうとすると、バルが激励を飛ばしてきた。


 「頼むぞ。俺達と同じように―――いや、それ以上に酷い扱いを受けている。絶対に助けてやってくれ。えー…?」

 「そういや、自己紹介してなかったな。俺の名前は、鬼柳彗。ケイって呼んでくれ。」

 「おう!お前ら、ケイを応援しろっ!」

 「「「ご武運をっ!ケイさんっ!」」」


 お前らは応援団か!という言葉はしまっておくのが正解だろう。人の好意は素直に受けるべきだ。


 そう考え、俺は地下2階へと続く階段へ向かっていった。


 階段を下りていき、すぐに地下2階のフロアが見えてくる。それと同時にここ二週間で嗅ぎなれた匂いが、俺の鼻腔に侵入してくる。性交の後の匂いだ。


 誘拐された人たちは、こんな環境で生活させられていたのか?考えただけで、吐き気がしてくる。


 「あんた誰?見ない顔ね。新しい騎士かしら?」


 声のした方を見ると、服はビリビリの破かれ、ギリギリ着れるか着れないかくらいの服を着た、女性がいた。胸も大きく、スタイルが良い。言葉は悪いが、こんなことをされるだけのことはある。


 俺は無言で錠を破壊する。


 「なんのつもり?」

 「助けに来た。取り敢えず、外に出るまでは俺についてきてもらう。」

 「今度はそういうプレイ?あたしに少しでも希望を与えて、後で絶望のどん底で犯そうっていうのね?」


 どんだけ回りくどいプレイだよ。そもそも、俺はそんなのに興奮はしない。俺は、性交を、好きな人と愛を囁き合い、育む行為だと思ってる。

 こんな相手を傷つけるだけのものに興味はない。


 「妄想がたくましいのは結構だが、俺にはちゃんと恋人がいる。―――全体的に、弱ってる人が多いな。見てるこっちまで気分が悪くなる。あのクソ領主。」

 「あんた、レジスタンスかなんか?なんのためにこんなことを?」

 「善人を助けるのに、必要な理由なんて、『傷付けられている』。ただそれだけで十分だと思うけどなあ。」


 俺は、そう言いながら次々と錠を破壊して回り、一番奥の牢の前に着く。

 そこの牢の中にいたのは、二人の女性だった。


 二人は身を寄せ合いながら、倒れ込んでいて、いかにも死にそうという感じだった。


 『警告。目の前の二名の女性の生命反応が著しく低下しています。症状は衰弱。直ちに対処をしない場合、最短で30分ほどで死亡します。』


 事態は一刻を争う状況ってやつか。クルルからもらった、治癒の玉(勝手に命名)を使えば何とかなるだろう。


 俺はすぐにでも、治療をするために二人を引き剥がして、仰向けにする。すると、先ほどの女性が突っかかってくる。


 「ちょっと!何してるわけ!?その二人は凄く弱ってるのよ!そんなに女を抱きたいなら、私を抱けばいいわ!ほらっ!――――――っ!?」


 俺がこの二人を犯そうと思ったのか、激昂して、俺の腕を自分の胸に回す女性。俺は、それを振り払って作業を再開し、その女性に伝える。


 「その自己犠牲の精神は見上げたものだが、そのせいか、視野が狭くなっている。この二人は、このままだと死ぬぞ。早いと、あと30分で。」

 「え?」

 「先ほどから言っているが、俺には恋人がいる。だからというわけじゃないが。あんた達には手を出さない。約束しよう。」

 「「「……」」」


 俺の言葉に、その場にいた全員が口を閉じる。少しは俺のことを信じてくれただろうか?


 クルルにもらった玉を2個消費し、二人の治療を終わらせる。ほどなくして、二人の女性は目を覚ました。


 「ん―――あ……れ……?体が動く?は!?ヒナ!」

 「ん……?おねえちゃん……?」

 「二人共、感動のシーンというのも見て見たいが、早くついてきてくれ。」

 「「ひっ!?」」


 目を覚ました彼女たちに、声を掛けるとあからさまに怯えられた。難しいな、人は。こっちは善意でやっても、向こうはそうだと思わないこともあるからな。思い通りにいかないもんだ。


 (すまない。失敗した。)

 「―――!?クルルか!?」

 (そうだ。屋敷の騎士たちに見つかってしまった。)

 「なんで!?このタイミングで!?」

 (本当にすまない…。)

 「あんた、どうしたの……?」


 なぜだ。なぜバレた?上空600メートルだぞ。いや、あの大きさなら見えるか?


 「クルル、なんでバレた?」

 (影だ。)

 「は?」

 (ちょうど私の影が屋敷に映ったらしく、それを不審に思った奴らが上空を見て…。)

 「バレたのか。―――なら、それでいい。予定を変更する。クルルは、そのまま地上に降りて騎士たちの制圧をしてくれ。場合によっては殺してもいい。完全に無力化してくれ。」

 (分かった。お前はどうするんだ?)

 「このまま、上の階の奴らと、今目の前にいる奴らを合流させた後、マルコ=シクルトを叩く。」

 (それなら、私はこのまま騎士たちと戯れるとしよう。お前は絶対に死ぬんじゃないぞ。)


 そこで、クルルの交信は切れた。


 「そういう事だから、今から迅速に動いてくれ。」

 「あんた何言ってるか分かってるの?」

 「分かってるよ。えっと……名前なんなんだっけ?」

 「ユナよ。それで、分かってるならなんでこんなことを?」

 「話してる暇はない。ほら、全員ついて来い。一生そこで暮らしたいなら強制はしないけどな。」

 「「「……」」」


 捕らわれていた女性たちはお互いの顔を見合わせ、意思が通じ合ったのか、頷き合った後、俺の後ろについてきた。


 そのまま、上に上がって管制室につくと、完全に制圧された状態で、バルたちが待っていた。


 「おお!助けてこれたのか!でも、外には龍が現れたって大騒ぎだ。」

 「知ってる。あいつ、派手にやってんなあ。」

 「な!?あの龍と知り合いなのか!?」

 「その話はあとで。俺はまだ急ぎの用がある。全員ここにいてくれ。」

 「「「あいあいさー!」」」


 男たちは元気だ。本当に冤罪で投獄されてたのか?


 そんなことを考えつつ、俺はマルコの下へと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「見つけたよ。マルコ=シクルト。」

 「お、お、お前は誰だ!」

 「悪人に名乗る名などない。というやつだ。」

 「ば、バカにしやがって!俺だってやれば―――」


 そう言って、彼が胸ポケットから出したのは、学校でシュウが持っていたものに類似した、針無し注射器だった。


 なんとなく、こうなるんじゃないかとは思っていたよ。


 「―――お前をこの場で殺してやる。目に留まらぬ速さでナア!」


 マルコは変身と同時に語彙が崩壊した。シュウとは比較にならない状態だと言える。つまり、シュウの時に使った【アサルト・スマッシュ】は使っても効果を発揮しない状態だと言える。


 「キエエエエエエエエ!」


 考え事をしていると、マルコ(怪人)が奇声を上げながら、高速で襲い掛かってくる。


 速い…。【旋風】と同レベルの加速力。しかも、わしゃわしゃと動く感じ。まるで―――


 「ゴキブリだな」

 「キエエエエエエエエ!」


 『警告。敵の戦力が上昇しています。早期に決めなければ、敗北が可能性に上がります。』


 それは、まずいなー。でも、今回、俺は打開策をあらかじめ知っている。


 腕の中盤あたりから掌の方向に付いているブレードを、反転させ、肘のところまでスライドする。そうすると―――


 『【旋風】アクセルモードに移行します。実用行動可能時間は、10秒。体感時間で1分40秒です。』


 「そんだけあれば十分だ。」


 『アクセルモード スタートアップ』


 その表示が出るとともに、世界がほぼ停止した。


 さっさと終わらせる。こんなことしてなんだけど、早く帰って、美麗とエシーを愛でたい。


 『リミッターオフ。全出力が腕部に回ります。』


 「アクセル・スラスト」


 俺は、このままマルコ(怪物)に切り込み、時間の許す限り、斬り刻み続ける。ただでさえ、【旋風】の影響で速く攻撃が出来るのに、【アクセルモード】でさらに別次元の速さを生み出す。必殺の百連斬だ。


 「―――2、1、タイムアウト。アクセルフォームを強制的にシャットダウンします。」


 その表示とともに、俺の感覚は元の世界へと戻ってくる。それと同時に―――


 ドオオオン!


 安定の爆発オチだ。


 「呆気なかったな。もしかしたら、あの時のシュウの方が強かったかもな。まあいい、管制室に戻って、目的を果たさないとな。」


 俺は【旋風】の能力を全力で生かして、管制室に到着する。


 戻るや否やバルとユナに質問攻めに遭うが全て無視する。そのまま、俺は領地内放送にマイクを繋ぐ。

 この管制室は、屋敷内を見張る以外にも、役割があり、領内全体に領主様のありがたいお言葉を伝えるという使いかたもあるらしい。


 「おい、ケイ、何するつもりだ?」

 「見てればわかる。」


 これからの放送は、全て領内の人間が聞くことになる。落ち着け、俺。


 俺は、深呼吸をしてマイクをとる。


 『あー、あー。マルコ=シクルトに組する全ての者たちに警告する。降伏しろ。今しがた、悪政をひいたマルコ=シクルトは討伐された。

 重ねて言う。これからの反抗は一切認めない。投降せよ。

 領民は何が起きているのか理解できない事だろう。領民たちにはこれを知る権利がある。

 マルコ=シクルトは、悪行の限りを尽くし、神龍の怒りに触れたのだ。私は、神龍の代わりに罰を下したのだ。

 証拠に、私はマルコ=シクルトの罪の象徴である、冤罪被害者と拉致被害者を救出した。

 先の魔女と言われた、エリシリア王女の国家反逆も、マルコ=シクルトによる報復行為による冤罪だ。

 マルコ=シクルトは大きな罪を犯した。しかし、それをきちんと精査せず、冤罪を生むことを阻止できなかったのは、この国、コムリニア王国だ。

 君たちは、こんな国、大事な息子や娘の将来を託せるのか?

 君たちは、貴族が傲慢に振る舞い、権力で勝手の限りを尽くす、この国をよく思っているのか?

 私は否だ!

 故に、我々は立ち上がらなければならない!

 よって、今日この時をもって、マルコ領、コムリニア王国ガレット自治区は、コムリニア王国から独立し、民主国家、日本を建国することを此処に宣言する!』


 「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る