第13話 反逆開始

 「さあ、反逆を始めよう。」


 俺が、そう高らかに宣言するも、三人には響かなかったようだ。


 「お前、何を言ってるのか分かってるのか?」

 「彗君、危ないことは……」

 「私は良いですから…。そんなことをしても悪政の頭がすげ変わるだけです。」


 三人とも俺の意見には反対のようだ。まあ、それはそうだろうな。


 「まず、クルルの質問だが、ちゃんとわかってる。重大な国家反逆だ。

 しかし、クルル、あんたは腐っても神龍だ。その立場を利用させてもらう。

 次に、エシーの意見だが、すげ変わる頭が、俺になればいいだけだ。まあ、実質的なこの領地の統治は、他の人材に任せる。」

 「ふむ、私の立場か。どのように使うつもりだ?」


 クルルの質問に、俺は不敵ににやつき、返答する。


 「さっきも言った通り、クルルの神龍としての立場を使う。相手が、領主だろうが何だろうが、不信が集まってしまった者より、崇められている神龍が選んだ者の方が、より有利だ。」

 「しかし、マルコは、あれでいて猫を被るのが上手く、民衆の不信を買うのは、難しいかと思います。」


 エシーの考えは正しい。ただ、もう少し考えてみろ。今の状況で、民衆を操るのは、難しいことじゃない。


 「エシー、今の、この領地はどんな状態だ?」

 「どんな状態と言われても…。」

 「美麗は、分かるか?」

 「私も、言いたいことがさっぱり分からない。」


 まあ、ヒントも何も出してないから、分からないか。


 「クルルはどうだ?」

 「国家反逆を企てた、人物が逃走してしまった、か?」

 「大正解だ。流石神龍。よくわかってるじゃないか。」

 「お前、キャラがおかしいぞ。」


 俺は、クルルの話を無視して続ける。


 「今は、国家反逆という、極悪な犯罪者が、この領地で逃げ回っている、という状況だ。」

 「でも、エシーは、そんなことしてないでしょ。」

 「ああ、でもそれを知っているのは、俺達だけだ。民衆は、エシーのことは犯罪者としか思っていない。」


 そんな大罪人が、うろついているかもしれない。そんな不安な気持ちそのものが、心理を操りやすくする条件だ。


 「エシーという、大罪人がいるかもしれないという不安は、単純な嘘を信じ込む餌になるんだ。」

 「もしかして、彗君…。」

 「地震の騒ぎに乗じて、行われた悪質なツイートが、業務妨害まで起こした。それの原因を使う。


 つまりだな、デマを流す。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 二週間後


 「領主様、大変です!」


 優雅にコーヒーを飲んでいるところに、領主の秘書であるギルバートが、慌てて入ってくる。


 「どうしたんだ、ギル?こっちは、魔女の対応に追われて、やっと取れた休みなのだぞ。」


 やはり、休みを邪魔されたからなのか、いら立ちを露にするマルコ。しかし、それどころではないと、ギルは一枚の紙を取り出す。


 「これを見てください!」

 「ふん!たかだか、紙切れ一枚が何というのだ!こんなもの……な、なんだこれは!?」

 「この紙が、この地域付近一帯の世帯に、一誌ずつ配られていたそうです。」


 マルコが見た紙には、自分である、領主の様々な不正についての記事が、多く取り上げられていた。


 心当たりがあることもあるのだが、身に覚えのないことまで書いてある。マルコは相当焦っている。


 「全世帯から、この紙きれを回収するんだ!今すぐに!」

 「それが……これを見た平民たちが、各地の領主様経営の施設で、暴動を起こしたり、今も屋敷の前に、真偽を問う者達が大勢、押し寄せています。

 今は、回収よりも、噂の弁明をするべきかと。」


 ギルバートの言葉に、一理あると考えたマルコは、取り敢えず、屋敷の前にいる者達だけでも帰らせるために、屋敷の外に、ゆっくりと出て行った。


 外に出てすぐに、群衆が目に入る。ざっと数えて30人程度の人間が集まって、群をなしているようだった。


 「皆の者、静粛に!ここがどこだかわかっているのかね?」

 「領主様!我々が、一生懸命働いて払った税金を横領したというのは本当なんですか?」

 「エリシリア王女が、拘束されたのは、国家反逆を企んだのではなく、貴女の思想に反対したことによる、報復というのは本当ですか?」

 「行方不明者の女冒険者達を、性奴隷にしているという話は、本当なんですか?」


 マルコに詰め寄り、質問を次々と投げつける、その様は、まるで不正をして、パパラッチに追われる政治家のようだ。


 マルコは、一瞬冷製を失いかけるが、気を取り直し、口を開く。


 「今しがた、君たちがしてきた質問は、全て、デマである!真実などどこにもない、まったくの虚実だ!皆の者、信じてはならん!」


 マルコが、必死に説得するも、集まった人たちはい、まだに釈然としない顔をしていた。


 「あんなに必死に弁明すると、かえって嘘に見える…。」

 「なら、俺の娘はどこにいるんだよ!ほかの冒険者仲間は帰って来たのに、俺の娘だけ、帰ってこないんだよ!」

 「報復は、政治界にはよくありそうなことだし…。」


 「ええい!デマはデマとしか言えん!これ以上ここでの集まりは、領主への反乱とみなすぞ!そうなりたくなければ今すぐ解散しろ!」


 そうやって、威圧を込めて癇癪を起すと、人の信頼は無くなっていくことを知ってか知らずか、マルコは強制的に、集まりを解散させた。


 その後、すぐに自室に戻り、マルコは側近たちを集めて、緊急の作戦会議を始めた。


 「ギル、あの紙切れの発信元は?」

 「現在調査中ですが、配られたのが夜中から早朝なのか、目撃者はおらず、特定は難航しています。」

 「ええい!なら、追跡魔法を使えばよいだろう!」

 「領主様、お言葉ですが、そのような特殊な魔法を使うのは、ごく稀な才能を持つ者だけです。」

 「なら、見つければよいだけだろう!シュナイゼル!お前の知り合いに、そういう者を知っているものはおらんのか?」


 マルコの質問に、シュナイゼルは首を振りながら、答える。


 「追跡魔法など、捜査に長けた魔法を持つ者は、警察組織に入ることが多く、要請は困難かと…。」

 「なら、警察に協力を要請しろ!」

 「警察に協力を要請すると、領主様が、これまでに行ってきた、横領や誘拐、さらには、先日逃亡した、エリシリア王女への報復行為が、露呈する可能性がありますが。」

 「ぐ……なら、どうしろというんだ!」


 同時刻 クルル所持の屋敷にて


 「いやー……焦ってるね。ていうか、他人の家の様子が見ることのできる、魔法ってなんだよ。」


 俺は、今までのマルコの屋敷の騒ぎを、クルルの魔法で見ていた。魔法のことは、知らないことが多いが、覗き専用の魔法があるとは…。しかも、投影式だし。

 クルル曰く、これは、龍魔法の一つで、本来は敵の偵察用に極秘開発されたものらしい。


 「龍魔法って、他にも変なものがあんの?」

 「変ではない。お前の使いかたが悪いだけだ。しかも、それを言ってしまうなら、お前の無属性魔法なるものの方が変だ。」


 ちなみにだが、クルルには、俺のことを全て話している。協力してももらうための、対価としてだ。しかし、美麗やエシーには、腕のことはいまだに話していない。余計な心配をさせたくないからな。


 「それにしても、やるのか?お前のやろうとしていることは、ある意味で、一つの国から、国として独立すると言っているのだぞ。」

 「当たり前だ。エシーのために、今回のことを計画したんだ。彼女が、望んでいなくても、彼女の汚名を晴らし、彼女の掲げた政策を支持する地へと、この領地を変えて見せる。」


 俺の彼女のためだ。少しくらい、無茶をしても良いだろう。


 「覚悟は決まったか、ケイ?」

 「何度も言うが、俺の腕は、戦争の兵器のために開発されたもの。俺は、兵器となる運命を背負っていた。もうとっくに、人を殺す覚悟はできてる。」


 俺たちは、屋敷の外に出て、庭で、もう一度、会話を始める。


 「お前は変わった。最初に会った時は、自信も何もない。そんな印象だったが。今は、自身を強く感じる。あの二人に、好かれたことで、男としての自信が出来たか?」

 「そうだな。誰からも愛されなかった俺が、二人に愛され愛す関係になったんだ。少しくらい、自信過剰になっても、いいだろ?」


 俺は、変わった。毎日のように愛を囁き合う、関係も大きな要因だが。何よりも、俺の彼女のために、決断したというのが、大きな、起点になったと思う。


 「さあ、行こう。クルル。『神威装甲』!」


 『ユニットシステム【神威】アクティブ』


 「さて、どうやって、領主の屋敷の守りを突破するつもりだ?まさか、真正面から、強行突破するとは言わないよな?」

 「真正面からは行かないけど、強行突破という点では、合ってるけどな。」

 「じゃあ、どうするんだ?」

 「決まってんだろ?空からだよ。―――



 神力換交。」

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