第12話 最初で最後の
エシーを、処刑場から連れ出した後、俺はクルルの所有している屋敷に到着する。
バイク(飛翔型)を地面に着地させると、彼女は俺を突っぱねてきた。
「放してください!」
「エシー、落ち着け。俺はお前を助けただけだ。」
「え…?その声……もしかしてケイですか!?」
驚いたように、声を上げるエシー。そういえば、ユニットを起動したままだったな。
俺は変身を解き、顔を見せる。
「エシー、君を冤罪で死なせるわけにはいかない。それに、釈明をするには、相手もいる方が良いだろう。」
「釈明?」
「十中八九、俺が悪いんだけど、エシーにもそれなりに責任があるわけだから…。」
「だから、なんの釈明よ。」
「あ……彗君!」
エシーと言い合っていると、屋敷の方から声が聞こえる。今は、一番聞こえたくない人物の声だった。そう、美麗だ。
俺は、美麗と付き合っているのにエシーと関係を持ってしまったんだ。どんなに言い訳をしても浮気だ。許されることじゃない。
「彗君、心配したんだからっ!」
その言葉とともに美麗は勢いよく、俺に抱き着いてきた。こういう姿を見ると、どうしようもなく罪悪感に苛まれる。
美麗、俺は―――
「心配させて悪かったな。話があるから、中に入れてくれないか?」
「うん……あれ?その人は?」
「私は、エリシリア=C=コムリニアです。」
「あれ?その声、どこかで……ん?すんすん…。」
美麗が何かに気付いたように、俺の体の匂いを嗅ぎ始める。
「ど、どうしたんだ?」
ひとしきり俺の匂いを嗅いだ後、美麗は怖い目で、見てきて―――
「女の匂いがする…。」
俺が悪いんだけど、これだけは言わせてくれ。
こえーよ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で、彗君は、そこの女と肉体関係を持ったのね?」
「はい…。」
俺は、現在進行形で土下座実行中だ。弁明の余地もない、浮気をしたからだ。
「あなたもそれでいいのね?」
「は、はい…。」
俺の隣にエシーもいるわけだが、美麗の気迫に押されて、言われるがままだ。大丈夫か?王女。
「はあ…。浮気されたのは物凄く悲しいのだけれど、理由が理由だから怒るに怒りきれない…。」
「申し訳ありません…。」
「はあ……もういいよ。顔を上げて。話しづらいよ…。」
俺は美麗の言葉を聞いて、頭を上げる。俺は最低な人間だ。一瞬の情欲に負けて、エシーを抱いた。どんな言い訳もしない。
「エリシリアさん。気持ちよかったですか?」
何聞いてんの!?美麗さん!?
「えっと…その……」
「はっきり言ってください。私は良いですから。」
「気持ち……よかったです。これが男性と交わることなのかと…。」
そう、エシーは俯いて答える。絶対に恥ずかしいのだろう。
「避妊はしたんですか?」
「して……ないです…。」
何かに気付いたようにエシーの顔が青ざめていく。
「妊娠してないって言い切れますか?もし、身籠っていたら、貴女はそのお腹の中にいる命にも責任を持たなくちゃいけないの。あなたにその覚悟はあるの?」
「私は、どの道、婚約者の家のために子供を産まされる身になるんです。それくらいは……」
「あなたはそんな使命感で彗君に抱いてもらったの?」
「それは……」
「美麗、俺が全部悪いんだから、それくらいに……」
「彗君は黙ってて。」
「御意に。」
出来るだけ、エシーにヘイトが向かないようにするため、美麗の意識を俺に向けようとしたが、有無を言わさない美麗の言葉に、俺は黙り込んでしまった。
「本当のことを聞かせて。色目を使ってまで彗君に自分の事を抱かせた理由は?」
「それは……」
「良いんだよ。あなたがどんな人かはなんとなくわかった。冤罪の件もなんとなく。だから、話して。」
「わた……しは―――」
エシーは美麗を見上げて、これまで溜めてきたことを吐き出し始めた。
「ただ、冤罪をかけられて、一人になった私の話を信じてくれたケイに抱いてほしいって思った。婚約者にすらそんなこと感じてなかったのに。牢の中に入れられてから、私は誰かに愛してほしかった。愛したかった。誰かと、信じあって、愛し合える。そんな普通のことをずっと望んでた。
でも、面会に来る人達は、誰も私の話を信じてくれない。皆、罪を認めて楽になれとかしか言わない。母様は泣きながら、どうしてこんなことを。とかしか、言ってくれない。酷い奴は、性奴隷になるなら俺が話を付けてやる。とか気持ち悪いことを言う輩もいた。
正直、婚約が破棄されてよかったこともあった。でも、心に穴が開いたように、私は誰かと愛し合える関係を望んだ。
そんなところに、私の話を聞いて、無条件に信じてくれたのが、ケイだった。あなた達には何でもない事だろうけど、私は嬉しかった。だから、この人なら、私を愛してくれる。そう思った。でも、違った。抱いてもらってる間、ケイからは綺麗とか可愛いとかは言われたけど、『愛してる』その一言だけ、言ってもらえなかった。
そりゃそうよね。ケイには彼女がいたんだもの。」
彼女は泣いていた。誰にも信じてもらえず、傷付いたところにやってきた男は、彼女持ち。誰も自分を愛してくれないと、そう思ったんだろう。
俺は、どうすればいいのか分からない。俺も、状況が違うが、親からの愛情は一切受けていない。それが他人から興味を持たれないのが、言わないだけでどれだけ苦しかったか。
彼女を救いたい。でも、俺には美麗がいる。どうすれば…。
「彗君が、好きなのね。」
「自分でも……分からない…。」
「なら、傍にいて確かめてみなよ。」
「へ?で、でも……」
「ちょ、ちょっと待て、美麗!」
「彗君は黙ってて!」
「イエッサー」
またも、有無を言わさず、俺の発言権は剥奪される。本当に解せない。
「エリシリアさん。冤罪を、汚名を晴らしたい。自分を見捨てた人達を見返したい。そうは思わないんですか?」
「思い……ます。」
「なら、それは私の彼氏でもあり、貴女の彼氏でもある、鬼柳彗がやってくれます。」
は!?何言ってんの!?
突然の謎過ぎる発言に、俺は驚愕する。
「待って、美麗、どういうこと!?」
「どういうことも何も、そういうこと。彗君は、エリシリアさんと肉体関係を持った。それに対する責任感とか罪悪感とかは?」
「……もちろん、あります。」
「なに、今の間は?」
「あります!」
「彗君は、昨日、エリシリアさんにしたことを私にして。そうすれば、私はもう、この件で怒らない。」
「と、申しますと?」
「許してあげる。そもそも、私は、後二人までは良いって言ってるから。エリシリアさんのこともちゃんと愛してあげて。」
美麗の懐の広さに脱帽だ。俺の彼女はこんなに寛大だったのか。俺は、これ以上、美麗を悲しませたくもないし、失望されたくない。その一心で生きていこう。
「美麗、分かった。君の言う通りにする。」
「ほら、私は夜に構ってくれればいいから、エリシリアさんを慰めてあげて。」
そう言うと、美麗は部屋を出て行った。
「エシー…。」
「いい……んですか?私が、ケイの傍にいて…。」
「誰にも愛されずに興味を持たれないって辛いよな。」
そう言うと、エシーは俺のことをキッ!と睨みつける。
おそらく彼女は、俺が無神経にこんなことを言ってると勘違いしているのだと思う。
「あなたがそんな無神経なことを言うなんて思いませんでした。あなたのことだけは信じていたのに…。」
「最後まで話を聞いてくれ。俺は、あるスポーツ以外に才能が無かった。だから両親は俺に興味を寄せず、妹にばかり愛情を寄せた。」
俺が喋り始めると、エシーは俺の話に耳を傾け始める。
「酷いよな。才能は持って生まれるもの。俺は生まれた時から親に愛されてなかったんだ。」
「でも、あなたには彼女が……」
「それは本当に最近できた人。俺の人生で唯一、俺のことを見てくれていた人だ。それ以外の人には興味すら抱かれてなかった。まあ、これでも友達。いや、相棒はいたんだけどな。」
「あなたも、愛を受けたことは……」
「ほんの最近まで、それがどういう物かすらもわからなかった。でも、美麗がくれたんだ。愛を。心の温もりを。だから、エシー、君を救いたい。美麗が俺を救ったように。だから、エシー―――」
俺は、エシーの手を優しくとる。初めての経験で、心臓が破裂しそうだ。
エシーが、俺の心の支えに。そして俺がエシーの心の支えに―――
「俺の彼女になってくれ。」
そう言うと、エシーは、泣きながら俺の手を握り締めた。
それが俺の人生で最初で最後の告白だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝
昨日は、搾り取られた気分だった。二人いれば、性癖を二通りあるとはこのことだと、思い知らされた気分だ。簡単に言うなら、美麗は攻め。エシーは受け身。といったところか。
現在、そんな三人と、蚊帳の外だったクルルは朝食中だ。
「なぜ、一人増えているのか。なぜ、王女がここにいるのか、聞いてもいいか?」
クルルが、当然の様にしている俺たちに質問をしてくる。
「エリシリアさんは、昨日から私たちの家族になったのよ。ほら、自己紹介して。」
「お初にお目にかかります。私の名前はエリシリア=C=コムリニア改め、エリシリア=
ちなみに、説教後、エリシリアの名前を変えた。この世界は日本ほど厳格じゃないので、名前の変更に書類は要らない。個人の勝手で出来る。
「ふむ。お前は王女の名前を捨てるんだな?」
「はい。私を信じずに捨てた家に、未練はありません。」
「ならいい。相当頭のおかしいことをしない限り、私は文句は言わん。交尾でも何でも好きにするがいい。」
交尾って、言いかたよ。まあ、クルルは龍だからなあ。そこらへんは人間とは違うんだろう。
「それより、どうするんだ?」
「何をだ?」
「決まっているだろう?ケイとエシーは、脱獄犯だ。普通に生活するには、無理がある。」
「どうするもなにも、やるしかないよ。」
「何をだ?」
俺は、立ち上がって、クルルの座る席の反対側に立って、宣言する。
「俺は、これより犯罪者マルコ=シクルトを、真正面からぶっ殺す。さあ、反逆を始めよう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます