第11話 牢の中で
「はあ…。」
まさか、王族の少女と同衾されることになるとは思わなかったな。しかも、この少女、かなりの美人だ。
「どうされましたか?」
「いや、何でもないよ。違う牢は無かったのかよって思ってるだけ。」
「それは私と一緒にいることが嫌、という事ですか?」
なぜか心配そうに聞いてくるエリシリア。
「いや、別に一緒にいたくないとかじゃなくて、初対面の、しかもかなりの美少女と同衾されるのは精神衛生上まずいんでね。」
「そうですか…。あの……お名前をお聞きしても…。」
「鬼柳彗」
「キリュウケイ…?長い名前ですね…。」
名前は彗だけだけど…。あ、つい日本にいた時の癖で。
「ごめん。名前が彗で、苗字が鬼柳だ。」
「名前と苗字が逆なんですね。あの、どこの国出身か聞いても?」
国か…。ここはベタに答えるべきか?アニメとかでよくある感じで。
「東方の国。ずっと遠い国の出身だ。」
しかし、この発言は地雷を踏むことになった。
「この国が世界最東端の国ですよ?これ以上東の国となると魔族領域ですが?」
「ありゃ……もしかして地雷踏んだ?」
俺の言葉を聞くとエリシリアはニッコリ笑顔で質問を投げかけてくる。
「あなたは何者ですか?ただの馬鹿というわけじゃないでしょう?」
『警告。この女性は嘘を見抜く可能性が高いです。』
腕の警告に、俺は冷や汗をかく。
まずい、ここで下手な嘘をつけば、牢を出るまで俺の話を信用してもらえないかもしれない。
なら、俺の取れる選択肢は一つ。
「俺は異世界の日本の出身だ。信じられないだろうけどな。」
信じてもらえるかは別として本当のことを言う。
その回答に、向けられたのは不信の目ではなく。納得の目だった。
「そうなのですね。珍しい名前なのも得心がいきます。この世界では黒髪黒目は珍しいですしね。」
「信じるのか?」
「ええ。かくいう私も異世界から勇者を召喚しようとしましたから。まあ、失敗してここにいるんですが…。」
そういう彼女はどこか遠い目をしている。中学の頃、野球をやめていった人たちと同じ目をしている。彼女も辛いことがあったのだろうか?
「エリシリア」
「エシーでいいです。親しい人は皆エリって呼ぶんですが、その名前ではもう呼ばれたくありません。」
「なら、俺のことはケイって呼んでくれ。エシー。なんでここにいるんだ?」
エシーは俺に質問に数秒思考して、俺の目を見据える。俺の目を見た後彼女は、ゆっくりと語り始めた。
「誰も信じてくれなかったから、貴女も信じてくれないでしょうけど…。」
「大丈夫。真実と虚実を見分けるくらいできる。」
まあ、腕がだけどな。信じていいよな?
『嘘の感知は98%正確です。天性の詐欺師などでない限り見破れます。』
オーケー、信じてよさそうだ。
しかし、エシーは俺のことをより信じられなくなったみたいだ。
「そう言って私の話を嘘だという人はたくさんいました。」
「あー、ごめん聞かなかったことにして。確かに今のは嘘が見破れない人が言うセリフだわ。」
確かに嘘かどうかの判断は俺じゃねえしな。ある意味、間違ってはないな。
「そうですか。じゃあ話します。私がここにいれられる理由になった罪状は、『国家反逆罪』。勇者を大量召喚し、国家の体制崩壊を狙ったとして投獄されました。
でも、そんな話はでたらめです。本当はここの地域の領主のマルコ=シクルトという人物の策略だったのです。
私が王女として行ってきた政策は亜人奴隷制撤廃。しかし、問題のマルコは奴隷制推進派の人間の第一人者で私とは対立関係にありました。
そんな中、水面下で魔族との争いが激化していったのです。所謂冷戦というものです。それのせいで亜人奴隷制が進み、私の政策が上手く回りませんでした。その状況を覆そうと、私は勇者召喚を試みたのです。しかし、結果は失敗。途中までは上手くいっていたのに、突然第三者の介入があり不完全なまま儀式が終了してしまったのです。
それだけならよかったのですが、儀式の失敗に伴い使用されるはずだったエネルギーが一気に放出され王都の一部を爆発させたんです。
マルコ達亜人奴隷制推進派は、この機に乗じて私に国家反逆の罪を問い、私を魔女として、死刑対象に仕立て上げたのです。」
『真実です』
無機質に、簡潔な言葉が、俺の視界に表示される。
取り敢えず、気になったことだけ聞いて良いか?いや、話の本題に触れる方がずっといいんだろうけどさ。
「亜人ってなに?」
俺の質問にエシーは驚いたように目を見開く。
当たり前だ。シリアスな話をしていたのにどうでもいい質問をしてきたからな。
「真面目な話をしたのに、気になったのが『亜人』ですか?」
「悪かったな。うちの世界には人間しかいなかったんだよ。」
「そうですか。簡単に言うなら、亜人は私たち人類ではない、知的生命体のことです。細かく言うなら、獣人や魔族です。」
亜人については分かった。では本題に入ろう。
「取り敢えず、エシーの話、俺は信じるよ。」
腕が真実だと、そう見抜いてくれたからというだけではない。彼女の目、表情、自分で見て、信じたいそう思えたから。
当の彼女は俯いているため表情はうかがえない。しかし、小刻みに揺れる肩から泣いているのではないかと思う。
こんな時、どうすればいいか分からない。
美麗が喜びそうなことをしてみるか?喜びそうなこと…?んー……
俺は悩んだ末に、エシーを抱き寄せる。
「え……?」
「俺が何をすればいいか分からない。でも、なんとなくこうすればいいんじゃないかって思った。」
「信じてくれるんですか?親も、婚約者も信じてくれんかったのに…。」
「信じるさ。まっすぐ俺の目を見て話してくれた君を、俺は信じるよ。」
「う……うぅ……」
しばらくの間、エシーは俺の胸の中で泣き続けた。
暫く経った後、エシーは何事もなかったかのように話し始める。
「私を抱いてください。」
「は?」
それは突拍子もなく、それでいて訳の分からない要求だった。
しかも、先ほどの
「私は生まれてこの方、男性と交わったことがありません。知りもしない罪で殺されて、一つの欲求の意味も知らないまま死にたくありません。
あいにく、婚約者に裏切られて、そんな相手がいなかったのですが……」
「その相手を俺がしろと?舐めてんのか?」
性交は、そんなに軽はずみにやるもんじゃない。ましてや俺には恋人がいる。絶対にそれは了承できない。
しかし、エシーはお構いなしに話を進めていく。
「私はあなたが良いんです。唯一、私を信じてくれた存在として。私のこの瞬間を救ってくれたあなたに。」
「いや、だからといって簡単に人と交わろうとするのは……っん!?」
俺の言葉を遮って、エシーがキスをしてくる。エシーは、頭一つ分くらい小さいため、必然的に上目遣いになる。
たっぷり二十秒、大人のキスをして一言。
「私を大人の女にして」
俺の理性は、その上目遣いと言葉で破壊された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、目が覚めると同時に、「やってしまった」と呟く。
昨日の夜、俺はエシーと体を交えてしまった。美麗にどう弁明しよう…。
どちらにせよ、エシーがいないと、話が出来ないから彼女に説明を手伝ってもらおう。
そう考えて、昨日彼女が寝たはずの位置を見る。
いない。
「あれ、エシー?」
昨日、彼女は俺の隣で寝ていたはずだ。なのに、今はどこにもいない。
「おう、昨日はお楽しみだったな。」
エシーを探していると、別の牢から声がかけられる。
「なんだよ。今はそれどころじゃねえんだ。」
「そこにいた嬢ちゃんなら、今朝連れていかれたぜ。」
え…?
「その話、詳しく!」
「そこの嬢ちゃんの死刑執行日、今日なんだよ。この時間だと、もう群衆にさらされてるんじゃないか?」
「死刑執行が今日?」
「そうだ。だから嬢ちゃんはお前に関係を迫ったんだよ。最後の夜は、誰かに信じてもらえたという希望を、幻想で終わらせたくなかったんだよ。」
そんな…。彼女は冤罪で…。
「助けて来いよ。知ってるぜ。あの嬢ちゃんは本当は、冤罪だってこと。」
「知ってたのか!?」
「当たり前だ。とある理由で、俺は長いことこの牢につながれてるからな。ここの階層の牢は、他の牢と違って、策略や罠、つまり、冤罪で投獄される奴らが集まるところだ。そこの嬢ちゃんは一切耳を貸してくれなかったけどな。」
そうか…。ここは、冤罪で繋がれた人ばかり。ん…?まてよ…。
「こうやって話が出来てるってことは…。」
「おう、昨日の会話、情事、暗がりで見えなかったけど、聞こえてたぜ。兄ちゃんやるじゃねえか!」
は、恥ずかしい…。ほとんど青姦ってことかよ。うっわ、ちょっと待って…。
「ほら、悶えてないで早く行け。処刑の準備中と執行中は、この屋敷から人がいなくなる。使用人たちも見物に行くからな。」
本当か?腕。
『真実です。嘘の痕跡はありません』
行くしかないな。
「ありがとう、おっさん。必ず、助けに来る。」
「ああ、期待しないで待ってるよ。というより、どうやって牢を破るつもりだ?」
そんなん決まってんだろ。力だよ。
「紅蓮装甲」
俺は神威を使わずに、紅蓮へ直接変身する。
「お、おい、なんだそれ…。」
「ふんっ…。」
変身後、俺は牢格子を両手でつかみ、こじ開ける。鉄製だが関係ない。
「じゃあ、行ってくる。」
「お、おう。こりゃ、期待してもいいかもな…。」
牢を破って、俺はすぐにバイクにまたがる。
なぜバイクがここにあるのかはスルーだ。俺が必要と考えたらあった。
処刑場は割とすぐに分かった。町に、張り出しがされていたからな。
俺は、バイクを走らせて、処刑場に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「わああああああああああ!」」」
処刑場に近くに来ると、観衆の声だろうか。湧き上がる声が聞こえてくる。
「これより、刑を執行する!」
執行者であろう人物が、高らかに宣言しているのが聞こえる。
急がなければ!
「止まれ!」
「邪魔だ!」
俺は、バイクの馬力にものを言わせて、検問を突破する。
目指すは、群衆の中心部。
そこに到達するためには、群衆を越えなければならない。飛べたら、この群衆を楽に超えられるんだけどな。
『バイクユニットCode
なんでもありじゃねえかよ。まあ、助かるんだけどさ!
バイクは、前輪後輪共に、展開され、四翼の状態になり、タイヤをプロペラの要領で浮遊。後部に設置されたブースターで加速という形のなっている。
何言ってんだ?
「3!」
「「「2!」」」
まずい、カウントダウンが…。
「「「1!」」」
「0…落とせ。」
執行官の声とともに、刃を支えていた縄が斬られる。
お願いだ。届いてくれ!
そんな俺の願いは届いたのか、刃はエシーに到達することなく、俺の手で止められた。
「な、なんだ貴様!?」
執行官の戸惑いの声とともに、周りの騎士たちが抜刀する。
「あなたは…?」
エシーが俺のことを見て、困惑しているが仕方がない。今のフルフェイスマスクをしているようなものだからな。
「ここで戦う必要はない。ずらかるぞ。」
そう言うと俺は、タスラムで周囲を撃ち、全員が目を離したすきに、バイク(飛行形態)で逃走した。
「追え!魔女とそれに組する物を!」
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