Sの飛翔/落ちぶれた王女

第10話 投獄

 大量に集まる群衆の中に見えるのは、古式の断頭台ギロチンにつながれた、可憐な少女だ。


 だが、群衆がその者に浴びせているのは罵声以外何者でもない。


 「魔女だ!その女は魔女だ!」


 「そうだ!殺せ!」


 みんながかける声は全て批判や嫌悪の声。誰も私を救ってくれない。


 婚約者だった人も私を信じてくれなかった。


 父や母すらも何の疑いもなく私の罪を受け入れた。


 「この女、エリシリア=C=コムリニアは王女殿下を語る魔女だ!国家反逆を目論み、勇者召喚をしようとした罪、断じて許しがたい!」


 私を陥れた本人―――マルコ=シクルトは高らかにそう宣言する。


 「魔女だ!そいつのせいで家族は!」


 「俺なんか右腕を失ったんだぞ!」


 知らない!私は何も関係ない!


 ただ、勇者召喚をしてこの国を救おうと思っただけなのに…。


 牢獄の中で死を覚悟したのに、また民衆の罵声を聞くとその覚悟が揺らぐ。


 死にたくない。生きて誰かに必要とされたい。生きてこの場にいる奴らを見返したい。


 「エリシリア=C=コムリニア、何か言い残すことは?」


 「私はもうただのエリシリアです。もう王族じゃないんですよ。」


 少女―――エリシリアがそう答えると、男―――マルコはケタケタと笑う。


 「そうだったな。ならただのエリシリアよ。最後に言い残すことは?」


 「そうですね。生きて恋をして幸せになりたいですね。」


 幸せになれば皆を見返せると思うから。


 「そうか。それは叶わない夢だ。」


 「そうですか。なら、私と一緒に牢にいた少年に言ってください。こんな私を慰めてくれてありがとう、と。」


 エリシリアは願いを言うも、マルコに無視される。


 「これより、刑を執行する!」


 「「「うおおおおおおおお!」」」


 エリシリアもとい魔女が死刑になる。その宣言だけで群衆は大盛り上がりだ。


 「さあ、我々が一丸となってこの魔女を殺すのだ!いくぞ!3!」


 「「「2!」」」


 嫌だ、死にたくない。まだ、昨日の青年にお礼を言ってない。ただの虚言かもしれないけど、私の言葉を信じてくれたあの青年。


 昨晩私のことを抱いてくれた青年を思い出す。


 こんな時に思考が加速する自分が嫌になる。


 「「「1!」」」


 「0…落とせ。」


 カウントダウンの終了とともにギロチンの刃を止めていた縄が斬り落とされる。


 死にたくない…。


 死への恐怖にエリシリアは目を瞑る。


 しかし、待てど暮らせど自分が死んだ感覚がやってこない。


 「な、なんだ貴様!?」


 エリシリアが不思議に思っていると、マルコから驚きの声が上がる。


 マルコの視線の先にいたのは全身に青と銀の鎧をまとった人物がギロチンの刃を持っている姿だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 怪物騒ぎのあった日の夜。


 「ねえ、編入初日からプロポーズされたってどういうこと!?」


 「それについては俺も理解が追い付いてないんだ。俺だって驚いてるんだよ。」


 「なあ、食事中くらい静かにできないものなのか?」


 俺が使った力や怪物についての事情聴取を教師陣から受け、帰ってきたらいきなり修羅場った。


 プロポーズも理解不能だったが、こっちの状況は状況で理解が追い付かない。


 「ねえ、どういうこと!」


 「だから、わかんないんだって!」


 「ミレイ、ケイは何もしてないんだろう?なら、いいじゃないか。そもそもこの世界では重婚は認められてる。お前はその気でもほかの奴らは第二夫人を狙ったりとかはよくあることだ。」


 「そうなの?」


 「そうだ。男も女も好きになれば一緒にいたいと思うものだ。たとえ、片思いでもな。」


 「確かに、私も彗君と付き合えたのはある意味奇跡だし……うーん…。」


 何が奇跡だったんだよ…。


 「あの二人共……話についていけないんだけど…。」


 「ケイ、お前は黙っているんだ。ミレイがお前の第二夫人以降を認めるかどうか考えているんだ。」


 「えぇ…。」


 なんつーことを決めさせてんだよ…。


 美麗も美麗で何真剣に悩んでんだよ。


 「決めた!」


 「うおっ!?どうした?」


 考え事をしていた美麗の顔が突然晴れ、これまた突然大声を出した美麗に俺はびっくりした。


 「3人!3人までよ!」


 「は…?」


 「私を入れて三人まで!私も想像してみたけど、うん!4ピーが限界ね!」


 「おーいー、何言ってんだよー…。」


 何言ってんのか問題だけど、考えたって何をだよ。


 「ミレイ、よく決断したな。まあ、英雄色を好むというしな。」


 「待て待て、英雄になった記憶が無いぞ!」


 「彗君は私の英雄だもん!」


 「何を競ってるんだよ…。」


 こうして俺はなぜかハーレムの許し(?)を得たのだった。


 いや、マジで訳わかんねえ。


 翌朝


 「彗君起きて―。」


 俺は美麗に揺られて目を覚ました。


 「美麗、おはよ。」


 「彗君、後五分だけ寝かせてとか無いんだね?」


 「あー、野球の朝練とかで早起きは慣れてるし、それにここ一年は規則的に起きないとうるさい奴がいたから…。」


 腕さんですね。


 「うるさい奴…。もしかして彗君って付き合ってた人がいた?」


 「え…?美麗が初めて付き合う人だけど?」


 やべ、腕のことはクルルにしか言ってねえんだわ。なんとか誤魔化さないと…。


 「わ、私が彗君の初めての彼女……初めて……筆下ろし…。」


 あ、大丈夫そうだ。最後に不穏なことは言ってたが、直感でそう思った。


 その後は特に何もなく朝食を食べ、登校した。


 登校して教室に入った瞬間、ウィーナが俺に抱き着いてくる。


 「ひどいわダーリン。昨日あんなにカッコいいことしたのに何も言わずに帰ってしまって…。」


 「誰がダーリンだよ。離れろ、暑苦しい。」


 「あら、ダーリンたらいけずぅ~。」


 お前、それ日本のしかも関西圏の言葉だぞ…。


 「わかったから席につけ。先生来るぞ。」


 「わかりましたわダーリン」


 その言葉とともにウインクしてくるウィーナ。美人だから様になってるのが腹立つ。


 ガラガラガラ


 扉を開けて人が入ってくる。


 先生かと思ったら、全身鎧のいかにも騎士です風の人達数人だった。


 「ケイ キリュウはどいつだ。」


 一斉にクラスの視線が俺に集まる。


 仕方ないので名乗り出よう。


 「俺ですけど…。」


 「お前か…。こちらに来てもらえるだろうか。」


 「はあ…?」


 俺は言われるがまま騎士たちに近づく。


 『警告。明確な敵意を感知。』


 は!?ちょっと待て!?


 しかし、俺の反応は数舜遅く、騎士たちに取り押さえられる。


 「ケイ キリュウを確保。これより屋敷に向かう。」


 「ちょ、ちょっと待ちなさい!これはなんのつもりですか!」


 「ウィーナ、いい!こいつらに噛みつくな!」


 少なくともこいつらは教室にいる奴らが束になっても勝てやしない。


 「ケイ キリュウ、なぜこうなったかわかるな?」


 「少しもわからん。」


 「なら、教えてやる。お前が昨日見せた力で国家転覆を目論んでいるだろう?」


 はあ!?知らねえよそんなこと!


 「なんの話だよ!」


 「これ以上話すことは無い!連れていけ!」


 「「「了解しました。」」」


 俺と会話していた奴とは違う奴らが俺を抱えて学校の外に出る。


 こうして俺は訳もわからずに連行されてしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「痛いっ!そんなことしなくても歩くから!」


 「うるさい!さっさと歩け。」


 ちっ……この騎士、機会があったら殺してやる。顔憶えたかんな?


 俺が連れられてきたのはどこかの屋敷の地下のいかにも牢屋です、みたいなところだ。


 俺は一つの牢の前まで来させられ、告げられる。


 「ほら、ここがお前の牢だ。中にもう一人いるが問題を起こすなよ。問題を起こさなきゃ何をしてもいいがな。」


 「ハイハイ。わかりましたよ。」


 もう、俺は半ばやけくそになって入る。


 「お前は明日の朝の処刑が終わってから尋問を始める。それまでこの中で大人しくしてろ。」


 そう言うと、騎士は牢の扉と鍵を閉める。


 「はー……何が起こってんだか。」


 「あなたは何をして此処に投獄されたんですか?」


 いきなり声を掛けられてギョッとするが、もう一人いるのを思い出して声の主の方を向く。


 暗くて顔がよく見えない。


 俺は顔を確認するため少しずつ近づく。


 「よくわかんないんだよね。国家転覆とか言われたけど、そんな記憶ねえし。」


 「あなたも冤罪でここにいれられたんですね。」


 「まあ、そうなるのかな?」


 近づくことによってもう一人の顔が見える様になる。


 「私の名前はエリシリア=C=コムリニア。この国、コムリニア王国の王女ですが、今となっては国家転覆を目論んだ魔女です。」


 牢にいたもう一人とは、まさかのこの国の王女だった。


 おい、マジで一緒にしたやつ出てこい!なんてことしてくれるんだ!

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