第9話 Code紅蓮

 「神力換交!」


 『ユニットチェンジ。002【紅蓮】装備アクティブ。』


 002【紅蓮】の使用によって、俺の体は、青と銀の配色から赤と銀の配色に変わった。


 色だけでなく、心なしか胸部から腕部が少し、太くなったような気がする。


 まあ、状況から察するに――――


 『紅蓮は典型的なパワータイプです。この状態なら力負けすることは無いでしょう。』


 「そうか。よし、かかってこい!」


 俺は再度、怪物の方に視線をやる。


 「姿が変わったからって、何も変わんねえだろ!」


 怪物は拳を俺に振るってくるが、俺は難なく受け止める。


 「なっ!?」


 「姿が変わるからには、変わる意味があるんだよ。舐めんじゃねえぞ!」


 「うるさい!俺が……俺が最強の戦士だ!」


 この男は何故ここまで最強に執着しているんだ?


 ただ、俺の知ったことではない。美麗を危険にさらしたお前を許さない!


 「なら、お前の言う最強はどんなものか見せてみろ!」


 「くそがあああああ!」


 怪物の咆哮と共に、拳の乱打が始まる。


 ジャブとストレートの見分けなんかつかない。それはそうだ。実際俺は格闘経験は、皆無だ。ヤクザをシバいたのも腕のおかげという方が正しい。


 しかし、気になる。よくは分からないが、実力だけを見るなら十分拳だけで獣を殺せる。それほどの奴が何故、魔法学校にいるのか。


 現在、俺はすべての攻撃を捌いている。一応反撃には出ていない。ある程度なら相手の攻撃を予測できる。


 現に今、すべての攻撃の予測線が見えている。よっぽどのことが無い限り俺には当たらない。


 「クソ……なんで当たんねえんだ…。」


 「なあ、なんでこの学校に来たんだ?格闘術の腕は見た感じ、そこら辺の奴より強いぞ。」


 「五月蠅い!お前には関係ないだろ。」


 凄い。漢字のうるさいを初めて聞いた。


 まあ、怪物(男)の言う通りだ。


 「関係はない。確かにそうだ。でも、気になるんだよ。」


 「五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!」


 『警告。未観測のエネルギーが収束を始めています。後方に退避を。』


 挑発しすぎたか?取り敢えず後ろに。


 「グアアアアアアアア!」


 俺が後ろに下がると同時に、奴を中心に5メートルほどの範囲が爆発し始めた。


 「もう少し前にいたら、危なかったな…。」


 「お前も、俺を馬鹿にするのか。俺の好意は一方通行だったのかよ!」


 ……!何かあったんだ!


 話を聞きだして根本的に解決するのが良いと思うんだが…。


 「もう、こんな世界なんて滅んでしまえば!」


 「飛躍しすぎだ!落ち着け!」


 怪物はやけくそになって、色々なものを破壊し始めたため、俺が羽交い絞めでどうにか動きを抑える。


 「放せ!放せ!放せ!………ハナセ!」


 「グハッ…。」


 先ほどの攻撃を今度はまともに食らってしまい、俺は吹っ飛ばされる。


 やるしかないのか。こいつを殺さなきゃならないのか…。


 来い…。


 『ユニット007【紅剛斧こうごうふ】アクティブ。』


 俺が思うだけで武器が、空から飛んでくる。なんとも便利な仕様だ。突っ込みたいことは色々あるがな。


 紅剛斧は両手斧だ。パワータイプの紅蓮と中々相性がいいだろう。


 「グガアアアアアア!」


 少しづつこいつから語彙が消えている。怪物になることの副作用か?


 だったら、尚更やらなくては。こいつが人でなくなる前に、殺す。


 まず、肩口から斬り落とす。そこから、横薙ぎ、縦一閃。縦横無尽に斬りつける。


 それを何回もするうちに段々と弱ってきた。きめるならここだ。


 『リミッターオフ。紅剛斧の刃にエネルギーを集中させます。充填完了まで時間を稼いでください。』


 どこかのシンゴ〇アックスみたいだ。


 取り敢えず、待ちの時間はハイキックやローキックを上手く使って時間を稼ぐ。


 『充填完了。発動可能です。』


 来た!これで終わりだ。


 「バースト・ブレイカー」


 「待ってーーーー!」


 技を発動しようとした瞬間、俺は誰かに抱き着かれ、動きを止めざるを得なくなった。


 抱き着いた何者かは、女だった。


 「なにするんだ!ここであいつを仕留めないと被害が広がるだけだ。」


 「やめて!シュー君を殺さないで!」


 シュー君…。さっきも聞いた名だ。


 「お前はあいつのなんだ?」


 「あたしはシュー君の幼馴染。だから、殺さないで!」


 「だから、何だってんだ!お前の意見よりもこれから想定される被害を考えたうえでやってるんだ。邪魔をするな!」


 俺が、彼女の拘束を振り切ろうとするも、何もしていない善良な人間を傷つけるのは気が引けるため、無理に剥がせない。


 だからって、こいつに構ってたら、逃がしてしまう。


 「何しに来たんだ、シャル!」


 「シュー君…。もう、こんなことはやめて!」


 怪物もとい、シュー君の語彙が戻った。本名を知らないから、愛称を使うのは許して欲しい。


 「何がやめてだ!結局お前も、あんなチャラ男のことが好きなんだろ!付き合ってたのに浮気するぐらいなあ!」


 「違うの、シュー君!話を聞いてよ!」


 「五月蠅い!言い訳なんか聞きたくない。どうせ俺はお前の傍にいるのが当たり前の置物くらいにしか思ってないんだろ!」


 「違う!何もかも違うの!」


 「何が違うっていうんだ!ホテルから腕を組んで出てきたのを見てるんだぞ!」


 「それは…!」


 まさか、幼馴染ざまあの現場に遭遇するとは思わなかった。ただ、この女が嘘を言っているようにも見えない。


 『必死に反論している様子、呼吸状態から怪物の主張に対する反論は正当なものの可能性が高いです。』


 やはりか、一応、話だけ聞くか…。


 「シャルとか言ったか?取り敢えず何があったか話せ。」


 「分かった。確かに私はあの男に―――」


 要約するとこうだった。


 怪物に変身した男をいじめるのをやめて欲しい。そう、いじめの加害者の中心人物に話しているとき意識が朦朧とし始め、気付いた時には、その男との情事を終え、ホテルから出た後だったらしい。


 これは完全にレイプだ。


 「こんな突拍子のない話、誰も信じてくれませんよね…。」


 『真実です。この女性は嘘をついていません。』


 「いや、信じるよ。だから、放してくれ。」


 「さっきから言ってますよね?殺さないでくださいって。」


 だから、そう言ってるんだよ。


 「分かってる。気が変わったよ。どうにかしてあいつを止める。殺す以外の方法で。」


 「何をゴタゴタ話てやがる!このクソビッチ!」


 ひどい言い様だ。あの話を聞いてからだと素直に罵倒できないな。


 「シュー君はあんなこと言ってるけど、お前はまだ好きなのか?」


 「あんなに言われるのは、あたしが悪いんです。だから、話して、理解してもらって、また一緒に過ごしたい。」


 一途なんだな。NTR見るよりずっと気分がいいけどな!


 「殺さないと言っても、攻撃はするからな。」


 「分かった。助けてくれたら、ちゃんとお礼はする。これでも侯爵家の次女だからね。」


 貴族だったんかい!


 「どうにかして、奴を救出する手段はないか?」


 「誰に聞いてるの?」


 『今までの戦闘などで得られたサンプルから、あの怪物からは観測された魔力とは大きく変質したものが確認できます。その原因を抜けば、怪物化は解けると思われます。』


 「おらあああ!」


 「くっ…。」


 作戦を立てている途中に怪物シュー君は攻めてくる。


 分析を早く!さっき、こいつは語彙を失っていた。


 この世界に来て、最初にあった奴は言葉すらなかった。つまり―――


 『警告します。先ほどの戦闘時のサンプルより人間の組成から遠ざかっています。』


 人間じゃなくなる!


 「おい!その力、自分で戻せないのか!お前このままだと人間じゃなくなるぞ!」


 「五月蠅い!恋人に裏切られたんだ!もう、どうなっても構わない!」


 「どうしてお前は話を聞いてやらないんだ!本人は違うって言ってるだろ!」


 「これ以上、裏切られて傷つきたくないんだ!」


 それだけ、好きだったってことか…。なら、なんで


 「好きな人の言葉の一つや二つ信じてやれねえんだよ!」


 『解析完了。状態は深刻ですが、ビリヤードの様に正常な魔力で原因を弾けば元に戻ります。一番成功率が高い方法のイメージを見せます。』


 そう言ってシステムに見せられたのは――――


 「本当にこれでいいのか?」


 『はい。正確に一撃で決めてください。成功するかはあなた次第です。』


 「分かった。神力換交。」


 俺は、ユニットを神威に戻し、左足に魔力を纏わせる。属性は乗せずに魔力だけを顕現させるようにだ。


 属性を乗せない魔法、仮に無属性魔法としよう。それを足に付与する。


 準備が出来たので、技の――――いや、必殺技のために構える。


 『リミッターオフ。全出力が機動力に回ります。』


 「アサルト・スマッシュ」


 空中に飛び、そのまま飛び蹴りをする。そう、ライダ〇キックだ。


 「グハッ…!」


 ドオオオン!


 アサルト・スマッシュは見事命中し、怪物シュー君が爆発する。すると、爆発の煙が消えていくと同時に人間の姿に戻ったシュー君が現れた。


 「シュー君!」


 シャルがシュー君に思いっきり抱きつく。


 あとは、二人が何とかする。


 『これにて一件落着ですね。』


 「まあ、それもそうだな。」

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