第8話 怪人

 プロポーズの件は置いといて、俺たちが受けるのは魔法の授業だ。


 俺、使えないんだけど?


 授業が始まって見た感じ、皆それなりに魔法が使えるみたいだ。


 むしろ、全く使えない人は、俺とウィーナだけだ。


 ウィーナは最初から見学していて、授業は話を聞くだけだった。


 聞くところによると、魔法宗家の娘でありながら、魔法に対する強い嫌悪感を持ち、魔法の天才と謳われながらも魔法を使えない者になってしまったそうだ。


 嫌悪感を持つようになった理由は話してくれなかった。もちろん、ウィーナがだ。


 もちろん、特に理由のない俺は、出るはずもない魔法を永遠練習させられている。


 拷問だろうか?


 「ケイさん、想像した形を魔力に込めて手の上で顕現させるんですよ。」


 「マジで何言ってるか分かんないんすけど?」


 授業の内容はぶっちゃけ理解が出来ない。


 想像…?手の上で顕現…?何もかもが意味わからん。


 他の生徒は誰も助けてくれない。誰も教えてくれない。


 先の試験で魔力自体が何か、というのはつかめている。やはり、腕に魔力が通らないのが原因かな?


 「先生、俺の腕に魔力が通らないんですけど?」


 「そんなはずはありませんよ。人は…いえ、生物は全身に魔力を通して生きているのです。あなたみたいに……あれ?」


 俺の主張を跳ね返そうとした先生が、俺の手を取って固まる。


 おそらく、俺の腕に魔力を通そうとしてるんじゃないか?


 「ね、通らないでしょう?」


 「は、はい。しかし、そんなはずは…。魔力が通らないとなると魔法が使えないのですが…。」


 まじかよ…。


 あれ?待てよ?


 魔力は全身に通ってるなら、掌から出すことに固執しなければいいんじゃないか?


 「先生、必ずしも魔法は掌から出さないといけませんか?」


 「……?どういう事でしょうか?」


 「まあ、こういう事ですね。」


 取り敢えず俺は、足の裏から水の球を作り出す。


 出来た出来た。


 「え……?」


 俺の魔法の変な使い方に先生が絶句する。


 というか、これすげえな。


 魔力で形が保たれてるからか、水の球ってよりも、サッカーボールみたいだ。


 「なんですか、その使い方…。」


 「流石、私の夫となる人ですわ!」


 なんか、ウィーナが誇らしくしているぞ…。


 「俺は結婚するなんて言ってねえぞ。そもそも、もう俺には―――」


 「はい、次の魔法に行くわよ。」


 俺の言葉は、先生の言葉に遮られる。


 「次の魔法は、実践で唯一無二の支援力を発揮する、付与魔法よ。」


 「えー、でも、先生、やる意味あるんすか?どうせ習得しても将来は俺達は使えないんだから。」


 「確かに、Fクラスの人達から、魔法士や冒険者は現れることは本当に稀ですからね。しかし、必要なものは必要なんです。この学校を卒業するためには。」


 なんか、高校数学なんて将来つかわなくね?に対する正論を聞いている気分だ。


 「だから、文句を言わずに――――」


 ドゴオオオン


 先生の言葉は爆発のせいで、俺同様に止められてしまう。


 誰かが、魔法をぶっ放したのか?


 そう、俺が楽観視しているもののほかの奴らはそうじゃないみたいだ。


 「先生、今のは!?」


 「わかりません。でも、今日の授業の申請に、あんな大規模な爆発が起こる魔法を使うなんて言われてないはずよ。」


 「しかも、あそこは…。」


 「学校の本棟ね。しかも、うちの学年だわ。」


 へー。不幸なクラスもあったもんだ。


 しかし、次の一言で俺の思考は一切が止まる。


 「あの位置は、1年B組の教室よ。」


 1年B組…。美麗のクラスだ。


 「皆、すぐに避難して。私は、対応に向かうから。ウィーナさん頼める?」


 「はい。責任を持って避難誘導に当たります。」


 美麗が…。


 こんな考え方自己中心的だ。分かってる。美麗さえ守れれば。でも、彼女に何かあったら、俺は…。


 今行くからな。美麗!


 「あ、ちょ、ケイさん!?」


 俺は大切な人の下に走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「美麗!」


 俺はそう言いながら1-Bの教室の扉を開け放つ。


 そして、全体を見回して絶句した。


 たった一人の生徒だけが教室を半壊させていたのだから。


 「お前も、俺を馬鹿にするのか?」


 「は?何言ってんだお前。」


 「お前もあいつらみたいに俺を…。」


 こいつが何を言ってるのかさっぱりわからん。


 「ならば、潰れろ!」


 「やめて、シュー君!」


 俺が対峙した男は、女生徒の制止も聞かずに懐から、銃みたいなものを取り出す。


 撃たれる!?


 そう思って身構えるも、男は先端を俺に向けずに、自身に押し当てた。


 何をしているんだ?


 「俺は、最強の戦士だ!」


 男はそう言うと、押し当てたものの引き金を引いた。


 すると、男は全身に血管ののようなもの(なんか、滅茶苦茶緑だから血とは思えない)が浮かび上がり―――


 「グアアアアアアアア!」


 怪人に変化した。


 あいつは、この世界に来て、すぐに遭遇した怪物と同種の!?


 「「「キャアアアアアアアア!」」」


 劈くような悲鳴が響き渡る。


 怪人は美麗に目を向けると、咆哮を上げながら、拳を振るってくる。


 「死ねええええ!」


 喋れるのか。


 って、考えてる場合じゃない!怪人に美麗が狙われているのだ。


 クソッ、間に合え!


 俺は、ギリギリで怪人と美麗の間に割り込み、攻撃を受け止める。


 「重いっ、クソッたれがああああ!」


 思いっきり、怪人を跳ねのける。


 こうなりゃ、つかうしかねえ!


 「神威装甲!」


 俺は前回の様に、ユニットを纏う。


 『ユニット005【武御雷】装備アクティブ。』


 「お前も、俺を!」


 「お前が何に対して怒ってるのかは知らんが、俺の大切な人に手を出したんだ。代価は払ってもらうぞ。」


 「くそ!」


 怪人は殴ってくるが、剣で受け止める。


 ここじゃ、戦いづらい。場所を変えるか。


 俺は、怪人を穴が開いた壁に放る。


 そして、それの後に俺も続く。


 外で広く戦おう。


 「オラア!」


 「ぐっ…。」


 しかし、ここで計算外なことが起こる。


 パワーの差がありすぎる。相手の力が強すぎて、反撃の姿勢を整えられないのだ。


 『パワーの差が歴然としています。』


 「んなことは分かってる!」


 「こんな時に独り言か?気でも触れたのかな!」


 「かはっ…。」


 見事に拳がクリーンヒットし、俺は吹っ飛ばされる。


 クソ、もっと俺の力が強ければ…。


 『ユニットのシステムチェンジを推奨します。力に特化した形態に移行することが、勝率を17%から76%まで引き上げられます。』


 なんだ―――


 「あんじゃねえか。」


 「ああ!?何言ってやがる!」


 「わかるわけないよな。でも、勝ちはもらってくぞ!」


 これ以上、この怪物をのさばらせない。美麗も傷付かせない!


 「神力換交!」

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