第7話 プロポーズ

 この学校に転校生が二人も同時にやってくる。


 あまりにも異質なタイミングに二人も来るとなると、学校はその話でもちきりである。


 「聞いたか?」


 「何をだ?」


 「転校生のことだよ。」


 「ああ、確か、男女一人ずつ来るんだろ。女はともかく野郎には興味ねえよ。」


 「そうじゃねえよ。何でも女の方はまれに見る天才らしい。」


 「マジかよ…。で、なんだ男の方は?」


 「魔法が一切発動できないらしい。」


 「嘘だろ、なにしにこの学校に来るんだ?」


 「だよなあ。この国一番の魔法学校クリセントリアにさ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日は俺の編入の日だ。


 クラスの人達と仲良くできるだろうか?


 「それじゃあ、入ってきて。」


 先生に呼ばれて、教室に入る。


 教室を見渡して、まずは一言。クラスの人達のやる気、希望などのそういった感情がないな。


 端的に言うなら暗い。


 「じゃあ、自己紹介して。」


 「今日からこのクラスの一人になります。ケイ キリュウです。よろしくお願いします。」


 「「「……」」」


 『状況から察するに自己紹介をしくじった模様』


 うるせえよ!俺なにもしてないよ!?


 何この空気?


 「じゃ、じゃあ、ケイ君に質問がある人はいる?クラス活動をするうえで少しでも転入生のことは知っておくべきだと思うの。」


 あまりにも無反応のクラスに、俺よりも先生がテンパってる。いや、別にそんなに必死にフォローしなくても…。


 「質問良いですか?」


 「あ、はい。ウィーナさん、どうぞ。」


 質問を名乗り出たのは、青髪で細身の女子だった。細剣レイピアとかが似合いそうだ。


 「ウィーナ・レイフィアよ。あなたに聞きたいことがあるわ。」


 「ウィーナさん。なんですか?」


 「あなたの思う魔法とは何ですか?」


 「え?」


 俺は想定外の質問に戸惑ってしまう。


 突然そんなこと言われてもなあ。魔法がどんなものか正直まだ曖昧なのに。


 まあ、でも、今現在での俺の意見を言わせてもらうか。


 「夢や願いをかなえる力。」


 「はあ…。」


 なんか溜息された。厨二病をこじらせた奴の奇行を見る目だ。


 だが、俺の話は終わっていない。


 昔から物語を読んで、率直に魔法に対して感じていたこと。それは……


 「でも、俺の思う魔法は違う。魔法とは『人を効率よく殺すための道具』だと思ってる。」


 「「「は?」」」


 やはり、この世界でも異質な考え方か?


 「それは、どういうことですか?魔法が人殺しの道具?魔法は人々の生活を豊かにしているんですよ。」


 ウィーナが何かの期待を込めて質問を続けてくる。


 「確かに、人の生活にいい影響をもたらしているのかもしれない。でも、火は人力で起こせる。水は汲んでこれる。風は仰げば無限に生み出せる。魔法が無くてもどうにでもなることは多い。

 じゃあ、何故基本三属が火、水、風なんだ?」


 「それは、より効率的に生活を豊かにするために…。」


 「考えてみろ。魔法は等級が上がるにつれて、威力が上がる。普通の生活に家が焼けるほどの火力は必要か?洪水が起きるほどの水は必要か?人が吹き飛ぶほどの暴風は必要か?」


 「「「たしかに」」」


 クラス全員がそのことに初めて気づいたかのように、俺に同意する。


 まあ、普通はこんな考え方しないわな。


 「結局は、一般人がいつでも戦争に加担できるように武器を持たせるための特権階級者たちのエゴなんだよ。人の生活を豊かにするっていうのは。結局、魔法は人は殺す道具でしかない。そんな考えに気付かずに、魔法は至高だなんて言ってるからアホなんだよ。

 本当に魔法を極めたいのなら、まずその考えに至らないと無理じゃね?

 だって、それに辿り着くような考え方や見方を持ってないアホってことだろ。」


 しまった。つい本音が…。


 「……」


 あれ?ウィーナさん怒ってる?


 俺が熱く語っていたのが癪に障ったのか、プルプル震えている。スマホのバイブだろうか?


 「あのー、出しゃばったことを言ったなら撤回しますが…。」


 「……し……わ」


 「え?」


 「素晴らしいわ!」


 何やら興奮しているようだ。俺、魔法を貶しただけだよ?


 あまりにも予想外の反応にまたもや俺は戸惑ってしまう。


 「えーと……今のどのあたりが素晴らしかったの?」


 「全部!全部よ!あなたみたいな考えの人、今までいなかったわ!私はその考え方のせいか上手く魔法が撃てないのよ。本心のどこかで魔法を嫌ってるから。

 でも、私の家系は代々魔法使いの家系だから、この学校に来るしかなかったのよ。」


 わお!最初の知的そうな部分はどこへ?


 「決めたわ!」


 「何をですかー?」


 「あなた、私と結婚しなさい!」


 「「「は?」」」


 突然の発言に、俺以外のクラスの奴らが一斉に口を開けたままフリーズする。


 結婚ていうとあれか?この人と一生一緒にいますっていう悪魔みたいな契約のことか。


 俺が、美麗ならしてもいいかなって思ってたそれか?


 は?結婚?


 「はあああああああああ!?」


 「日取りはいつにします?どのくらいの人を招待しますか?子供は何人欲しいですか?やっぱり私とあなたの子供だと、知的で優秀な子になるに違いありませんよ。あ、でも私もそういう経験はありませんから、初めては優しくしてください。」


 何言ってんだこのアマ!


 「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!頬を赤らめながら言うな!」


 俺の学校生活、まさかのプロポーズでスタートです。

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