第5話 神龍
「彗君、ここ何処かわかる?スマホも圏外で…。」
俺は彼女に真実を伝えるか悩む。
信じてくれるのだろうか?ここは異世界という事を。
一応、帰れるか確認してみるか。
『この世界は、「コロバシ」のような原理で一度入ると脱出が困難な状況にあります。事実上、帰還は不可です。』
帰れないのか…。
俺は良いけど、美麗には家族も友人もいるだろうに…。
「美麗、出来るならこの話を信じて欲しい。」
「彗君?」
俺が神妙な面持ちで話し始めたので美麗が不思議がる。
「ここは異世界。俺たちのいた世界じゃないんだ。」
「異世界ってあの物語とかに出てくる?」
「そんな認識でいいと思う。でも、問題は俺の力じゃ元の世界に帰ることが出来ないんだ。」
「本当に?もう、あの世界に戻れないの?」
「認めたくない気持ちはわかる。君には家族も、友人もいるだろう…。」
「じゃあ、彗君が支えてよ。」
「え?」
俺はあまりにも突拍子の無いことに驚いてしまう。
「この世界で彗君が私の隣にいて助けてよ。さっきみたいに。」
「でも、帰れないんだよ。」
「いいよ。なんだかんだ一番一緒にいて欲しい人はいるから。」
「いい……のか…?」
俺のことだよな?
だとしたら凄い恥ずかしいこと言われてるぞ。
「その、美麗が言うなら俺は……その……」
「彗君!彗君!あれ見て!」
俺の言葉を遮って美麗が何かに驚きながら俺の後ろを指さす。
「どうしたんだ?そんなに怯えて…。」
俺が振り返るとそこには――――――
大量の巨大な蜂がいた。
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理
「美麗、これに乗って俺に掴まれ!」
俺は思考する前にヘルメットをとって美麗にバイクに乗るように指示する。
『推定される強さから、あの虫の大群は余裕で切り抜けられると思われます。』
「だからってやれってか!?」
「どうしたの彗君?」
突然挙動不審になった俺を美麗が心配してくる。
可愛い。
「しっかりつかまれよ、美麗!」
「う、うん。」
俺はすぐさまバイクを走らせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわああああああああ!まあだ追ってくるうううううう!」
「彗君速いよ!もうちょっとスピード落としてえええええ!」
「それは無理だ!」
「なんでよ!?」
かれこれ十分くらい走ってるのにまだ追ってくる。
「彗君、洞窟だよ。取り敢えず入って中からさっきのをうてば…。」
「よし、それでいこう!」
襲ってくる方向が決まってるのならさっきので吹っ飛ばせる。
作戦が決まり、洞窟の中に入ろうとすると突然俺の視界内に文字が現れた。
『高熱の熱源反応を探知。至急、回避行動を。』
まじかよ!?
「美麗、掴まれ!」
俺は急いでバイクを洞窟の入り口の脇に退避させる。
その直後、洞窟から炎が吹き出して蜂たちを消し炭にした。
「「何今の!?」」
あれをもろに食らってたらヤバかった。
「洞窟の前にいる人間達よ。入ってこい。大丈夫だ、さっきの攻撃は撃たない。」
「彗君、洞窟が喋ってるよ…。」
「いや、どう考えても洞窟の中に何かいるだろ…。」
美麗のポンコツ発言は置いといて、俺たちはおそるおそる中に入る。
そして中にいたのは―――――
「よくぞ参った勇者よ。」
ファンタジーものでよく見るドラゴンだった。
「きゅう…。」
あ、美麗が気絶した…。
「お前は驚かないのか?」
「いや、もっと驚いてることあるんで…。」
特に俺の腕が…。
『解析完了。目の前の生物は不明要素が多いが、敵意は無いと推測される。』
なら、ある程度気を許しても大丈夫か?
「お前たち勇者は何故こんな辺境の大地に来たのだ?」
「そもそも、勇者って何?」
「お前達は勇者じゃないのか?」
え、何を根拠に言ってるんだ?
「勇者がどういう物かは知らんけど、この世界の人間じゃないのは確かだ。」
「まあ、そういう事なら勇者について教えよう。
勇者とは、世界の大いなる危機に立ち向かう異世界人のことだ。今の情勢なら【魔王】だろう。」
え?つまり、異世界召喚がある世界ってこと?
「え?俺、自主的にこの世界来たんだけど…。」
「なら、お前は勇者ではなく【来訪者】に該当するな。別に、特段問題はない。」
なんのだよ…。
「まあ、いいや。追々勇者の話は聞いておく。それより、あんた何者だ?
……者……?」
俺はそう答えると、ドラゴンは少し思考して答える。
「私は、人間に神龍と崇められている存在だ。しかし、魔族からしたら私は、魔王軍幹部高貴四天王の一人、【剣閃】のクルルだ。」
魔王軍幹部かよ!
「なに?戦えばいいの?」
「なぜ、こうも好戦的な異世界人が多いのか…。私は今の魔王に仕える気などない。」
ドラゴンが少し、呆れたように言う。
「なんで仕えたくないんだ?」
「今の魔王がふさわしい者ではないからだ。」
話を要約するとこうだ。
二代前の魔王の一族が失脚し、完全魔王族独裁制度を作り上げたことによってクルルは魔王を見限ったらしい。
二代前の魔王は、戦争のない「平和」を望んだが、現魔王は変革を許さない「独裁」を選んでしまったらしい。
しかも、悪行の限りを尽くしており人間をも隷属させようとして、いくつかの人間の村が壊滅したらしい。
クルルは元とはいえ魔王軍幹部の高貴四天王の一人、部下もおり下手に手を出せずにこの洞窟で燻ぶっていたらしい。
「―――それで、この場所に住み着いていたら私を勝手に神龍扱いし始めたのだ。」
「うわっ…。人間って勝手だな…。」
そんな雑談をしていると美麗が目を覚ました。
「ん…。彗君、私とてつもなく怖いものに遭遇する夢を見たのよ…。」
「美麗、それってあいつのことか……?」
そう言って、俺はクルルを指さす。
「きゅう…。」
「「……」」
俺の指の先を見た美麗はまたも気絶してしまった。
「なあ、姿変えられないか?」
「検討しよう…。」
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