第2話 気持ち

 「私と付き合ってください?」


 「はい…。」


 俺の質問に彼女は顔を真っ赤にして肯定する。


 付き合ってほしい……


 買い物か?


 「どこに何を買いに行くの?」


 俺は荷物持ちだろう。


 そんなことを頼めるような間柄じゃないが、この際どうでもいい。


 彼女の頼みを断っただけでいろんな人間が敵に回る。


 「買いに……?なんの話をしているんですか?」


 「あれ?荷物持ちを頼みに来たんじゃないの?」


 「いいえ、そうではなく私と恋人になってほしくて……その……私と……交際してくれませんか?」


 恋人になって欲しい?


 何言ってんだ?俺に?


 ないない


 「委員長、告白する相手間違えてますよ。」


 「間違えてません。私が好きなのは正真正銘鬼柳彗さん、あなたです。」


 告白する相手も間違えてない。


 ああ、そうか。


 俺はある真理にたどり着き、周りを見渡し始める。


 「? 何をしてるんですか?」


 「いや、他の人はどこかなって…。」


 「他の人?」


 俺が質問に答えると、委員長はきょとんとする。これも演技か…。


 「罰ゲームだろ。こんなの仕掛けるくらい嫌いなら俺に構わないでくれよ。」


 「何を言って…?」


 「だってそうだろ?俺みたいな無能が誰かに関心なんて持ってもらえないんだから。関心がないなら俺に好意も抱くはずないだろ。」


 昔からそうだ。俺は誰にも見てもらってない。誰にも興味を持ってもらえない。誰がこんな何もない俺を好きになるんだよ。


 「なんで断ってくれないの?普通に断ってください!」


 ほら本性が出た。結局俺に告白なんてしたくなかったんだろう。


 「断る断らないじゃなくて、そもそも告白が嘘なんだからこたえる意味も……」


 そう言いながら彼女の方を見て、俺は言葉を呑み込んだ。


 彼女は泣いていたのだ。


 「嘘じゃない!告白は嘘じゃない!本当なの!あなたが好き!あなたのことを考えるだけで胸が苦しいのよ!」


 委員長が俺の知ってるキャラじゃない…。


 「信じられない。そもそも俺は誰かに好意を向けられたことが無いから言葉で言われたってわからない。」


 「どうすれば分かってくれるの?」


 どうすればいいかなんて俺が知るわけないだろ。


 ああ、そういえば女性は好きな人以外とはキスを絶対にしたくないなんて話をどっかで聞いたな。


 それにかなりの難易度を付け加えれば本物か分かるんだろうか?


 「じゃあ、俺を押し倒してむさぼるようなキスをして。そうすれば……どわあ!」


 俺が言い終わる前に、明星さんが俺を押し倒してきた。


 「押し倒して、ディープキスをすれば信じてくれる?私の好きって気持ちが本物ってわかったら付き合ってくれる?」


 やばい、委員長の目が血走ってる。


 彼女に理性なんてものが無い…。


 「ちょっと待っ……んむ……」


 俺は一旦制止を掛けようとするが、彼女はお構いなしに俺の唇を強引にむさぼってきた。


 十分ほどむさぼられて、委員長がようやく離れてくれた。


 顔が真っ赤だ…。


 俺もなんだろう…、ふわふわする。


 でも悪くない…、なんだか不思議な気分だ。


 「わかってくれた?私の気持ち…。」


 「俺のことが好きってことか?」


 「うん…。」


 ここまでされたら信用して良いんだろうか?


 俺は、委員長―――――明星美麗に好かれている。


 「その……俺でいいのだったら……」


 「鬼柳君がいいんだよ…。」


 そう言う彼女は、顔が真っ赤だ。


 かくいう俺も、顔が真っ赤だろう。


 「これからよろしくお願いします。」


 俺の返事を聞いた瞬間、また彼女が俺にキスをしてきた。


 しかし、今回は軽めのキスだ。


 「鬼柳君、今日は一緒に帰りましょ。」


 「そうだね。俺たちは付き合ってるんだしね。」


 ガラガラガラ


 二人でやり取りをしていると教室の扉があけられる。


 先生が見回りに来たのだ。


 「二人とも何してるの?」


 なんだろう。先生から物凄い怒気を感じる。


 いや、俺の上に委員長が馬乗りになっている、放課後の誰もいない教室、顔が真っ赤の二人。


 大いなる誤解を受けている気がする。


 「「先生、これは違うんです!」」


 「とにかく状況を教えなさい!」

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