マキシマムアーム~俺と委員長が転移した世界はとことん俺たちに優しくない。だからって見捨てるのはお断り~

波多見錘

始まりのK/転移事件

第1話 自分語り

 俺は鬼柳彗きりゅうけい、高校二年だ。中二の頃、交通事故に遭い両腕を失ってしまった。全国までとはいかないが、一年生で野球部の都大会ベスト4のチームのエースをしていた俺は、その道もプロ野球選手になるという夢も粉々に砕かれてしまったからだ。


 別に事故を起こした人を殺したいほど憎んでるわけじゃない。


 あちらも起こそうとして起こした事故じゃないから。


 不幸な事故だった。トラックが急に飛び出してきた子供を避けた先に俺がいたなんて状況は事故を回避しようにもできない。


 そんなわけだが俺はその事故で両腕も野球の道も奪われた。


 だけど、ここで話は終わらない。


 当時俺が入院していた病院に義肢のメーカーを名乗る人たちがやってきた。


 その人たちの話によると、より完璧なより生身に近い義肢を作り出すことを目的とするメーカーらしい。


 完璧な義肢を生み出し、四肢を失った障碍者たちが少しでも社会に馴染めるようにしたいのらしい。


 そんな人が何故俺のところに来たのかというと、俺が被験者に選ばれたらしい。


 なんで俺なのかと質問すると、一番好条件らしかった。


 若く、筋力があり、なにより何かを継続できる力がある。


 その条件に当てはまる人が俺らしかった。


 しかし、このメーカーの義肢はより完璧な動きを実現するために義肢と脳をつなげる必要があるらしい。


 その副作用として、常人には考えられないほどの演算能力が与えられるらしい。


 当時の俺は気持ち悪いと感じたが、野球以外に何も考えておらず失意のどん底にいた俺は二つ返事で了解してしまった。


 今思えば少し浅はかだったと思う。


 両親は特に関心もなかった。


 元々野球以外にとりえのなかった俺は何も期待されちゃいない。


 全ての関心は容姿端麗、スタイル抜群、成績優秀の妹に向いていた。


 スタイル抜群と言ってもアニメに出てくる病的なまでの巨乳ではない。


 現在、高一の女子高生としてのスタイル抜群だ。勘違いしないでほしい。


 話は戻って、義手を付けた俺は入院から七ヵ月経ってようやく退院した。


 もちろん迎えは無しだ。


 家に帰って、俺は運動と称して近所の公園で壁当てを始めた。


 実際に、義手は性能が良く前の様にボールが投げられた。


 これで復帰できる。そう思った瞬間壁が粉砕した。


 俺は復帰を諦めた。壁を破壊できる力を出せる腕でとても野球なんてできない。


 取り敢えず俺は義手のマニュアルを事細かく読んだ。


 本の大きさは教科書並み、厚さは広辞苑並みだった。


 最後の方に不穏なことが書いてあったが見なかったことにした。


 野球を諦めた後、俺は東京を離れ福岡の高校に通った。


 退院後、数学の成績だけが異常なことになり騒がれたが他の教科がからっきしのためすぐに収まったのは別の話だ。


 これで自分語りは終わりだ。


 俺は今、放課後の教室に残っている。


 なぜならこのクラスの学級委員長に呼び出されたからだ。


 このクラスの委員長は明星美麗あきほしみれい通称:委員長がやっている。


 誰にでも優しく、自分自身にも厳しい。


 誰よりも上を目指し、数学以外の教科はすべて学年一位の高値の花だ。


 しかも、美人でスタイルも良いためうちのクラスはおろかこの学校の男子生徒の自慰ネタになっている。


 正直、気持ち悪い。


 本人はどう思っているのだろうか?


 「鬼柳君、待たせてごめんね。」


 「まあ、それなりには待ったね。別にこの後用事があるわけでもないからいいんだけど…。」


 さあ、そうこうしている内に明星がやってきた。


 とにかく要件をさっさと言ってほしい。早く帰りたい。


 「そのね……鬼柳君…。」


 心なしか彼女の顔が赤い。熱だろうか?


 「鬼柳君、いや鬼柳彗さん―――――」










 「私と付き合ってください。」

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