第18話

~千紗サイド~


テスターが2人の死体を運び出してからどのくらい時間が経過しただろうか?



あたしはずっとひとりで椅子に座っていて、緊張と恐怖で全身に汗をかいていた。



体の中からどんどん水分が出て行って、喉が渇いて仕方がない。



声を上げようとしても喉にひっかかって出てこない。



このままテスターが戻ってこなければ、誰にも気が付かれなければ、あたしは死んでしまうだろう。



意識が朦朧としてきて視界が歪む。



無理矢理意識を保つことが困難になってきたとき、再び倉庫のドアが開かれた。



その音に反応して意識が戻ってくる。



眩しい光が差し込んできてすでに朝になっていることがわかった。



助けが来てくれた!?



と喜んだのもつかの間、倉庫に入ってきたのはテスターその人だったのだ。



一気に体が緊張に包まれる。



テスターは重たそうな麻袋を引きずり、倉庫内に入ってきた。



あれはなんだろう……?



あたしは身をよじって少しでもテスターから遠ざかろうとした。



テスターは上機嫌で、鼻歌を歌いながら麻袋を床に置いた。



ドサッと重たそうな音が聞こえてくる。



途端に麻袋がグネグネと動いたのだ。



「ヒッ」



小さく悲鳴をあげると、テスターがあたしを見て笑い声をあげた。



麻袋がまだうごめいている。



テスターが袋の口を緩めると、中から女の子が頭を除かせたのだ。



猿轡をかまされ、両手は背中で拘束されている。



「郁乃!?」



あたしは驚きのあまりその名前を叫んでいた。



麻袋の中から出てきたのは郁乃だったのだ。



郁乃の顔はひどく晴れ上がり、口の端には血がこびりついている。



それでも原型はとどめていた。



郁乃は目を見開いてあたしを見上げ、荒い呼吸を繰り返す。



そんな……!



テスターの正体が郁乃だと思っていたあたしは驚愕で言葉を失ってしまった。



「郁乃だって可愛い、郁乃だって可愛い、郁乃だって可愛い」



テスターはまた壊れた機械のように繰り返す。



その言葉にスッと血の気が引いていった。



まさか、あたしがあんなことを言ったから、次のターゲットに郁乃を選んだんじゃ……。



麻袋から出てきた郁乃は両足もロープで固定されていて、幼虫のようにしか動くことができない状態だった。



猿轡の下で必死に悲鳴を上げているが、それはすべてかき消されていく。



テスターは郁乃の両脇の下に腕を入れると、力をこめて椅子に座らせた。



郁乃はされるがままだ。



新しいロープで椅子と体を固定された郁乃は涙目をこちらへ向けた。



「郁乃、なんで……」



それ以上は言葉にならなかった。



郁乃がここに連れてこられたのは間違いなくあたしのせいだ。



その後テスターは郁乃の猿轡を外した。



ここで大声を出されたも大丈夫だと、わかっている行動だった。



郁乃は大きく息を吸い込み、そして咳き込んだ。



「ち、千紗……」



郁乃の声はかすれていて、どうにか聞き取れる程度のものだった。



これじゃ大声を上げて助けを呼ぶことも困難だろう。



「郁乃、いつから拘束されてたの?」



聞くと、郁乃は恐ろしいものを思い出したかのように強く身震いをした。



「昨日の放課後……ひとりで教室に忘れ物をとりに戻ったの。そしたら突然この人が現れて、ずっとロッカーに閉じ込められてた」



郁乃の声はひどく震えている。



相当怖い思いをしたみたいだ。



テスターは郁乃の行動を監視していたのだろうか。



倉庫にいる間もずっとスマホを見ていたけれど、もしかしたら学校内に監視カメラなどを仕掛けていて、それを確認していたのかもしれない。



そうすれば、あたしたちや郁乃を誘拐してくることは簡単だったはずだ。



テスターは郁乃顔をジッと見つめて、舌打ちをした。



晴れ上がった顔を切り取っても意味がないと判断したのかもしれない。



郁乃は体を硬直させて、必死にテスターから視線をそらせている。



テスターはカッターナイフを取り出すと、郁乃の制服を切り裂いた。



郁乃は捕まる前に相当暴れたのだろう、制服はすでにボロボロの状態だった。



「っ!」



制服を切り裂かれた郁乃が青ざめる。



テスターはそれを意に介さず、郁乃の下着も切り裂いた。



形のいいきれいな胸が露出してテスターはそこに顔を近づける。



まさか、顔以外にもパーツをほしがるんじゃ……。



そう思いテスターが最初に見せてきた動画を思い出した。



あの動画では、テスターは少女の足を切断していたのだ。



胸や腕をほしがっても不思議じゃなかった。

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