第17話
☆☆☆
ホームルームが終わるのを見計らい、俺は郁乃と中野いい前田さんに声をかけた。
「昨日の郁乃の様子を教えてくれないか?」
「うん。でも昨日は一緒に帰らなかったから、よくわからないよ?」
「どうして一緒に帰らなかったんだ?」
2人は仲がよくて、いつも一緒に登下校している。
その様子を俺も何度も見かけていた。
「昇降口までは一緒だったんだけど、郁乃は教室に忘れ物をしたって言って戻って行ったの。あたしは待ってるって言ったんだけど、すぐに追いつくから先に帰ってって言われて、それで……」
そこまで言って俯いてしまった。
郁乃の言葉通り帰ってしまったことを、後悔している様子だ。
「郁乃は教室にひとりになったってことか?」
「たぶん。あたしたち、昨日教室を出るのが遅かったから、忘れ物を取りに戻ったときは郁乃一人だったと思う」
「そうか……」
顎に指を当てて呟く。
なにかひっかかる部分があるけれど、それがなにかわからない。
なんだっけ……?
そう思ったとき不意に記憶がよみがえってきて「あっ!」と、声を上げた。
そういえば千紗たちがいなくなったときも教室には3人以外誰もいなかったはずだ。
俺は千紗の居残りが終わるまで待つつもりだったけれど、千紗が大丈夫だと言って!
あの時の状況とほとんど一致している!
「ありがとう! なにかわかった気がする!」
俺がそう言うと前田さんはキョトンとして表情を浮かべていたのだった。
☆☆☆
いなくなった4人は放課後教室にいた。
それなら、放課後教室に残っていればなにかがわかるかもしれない。
そうとわかるとはやる気持ちが抑えられない。
早く放課後になってほしくて落ち着かない気分だ。
今日が午前中授業で本当によかった。
4時間の授業は瞬く間に過ぎて行き、待ちに待った放課後がやってきた。
終わりのホームルームを終えて、みんなそれぞれ教室から出て行く。
今日は警備員の巡回も早い時間に行われるようで、教室に残る時間はごくわずかだ。
俺はみんなが教室から出て行くのを見送り、ゆっくりとカバンに教科書をつめて行った。
「守屋、早く帰れよ」
教室から出る前に先生が声をかけてきた。
「はい」
返事をして先生の後ろ姿を見送れば、完全にひとりになる。
俺は教科書をしまう手を止めて静かな教室内を見回した。
いつもと変わらない景色でも誰もいないだけで少し異様な雰囲気を感じる。
4人はここにいて、そして誰かに連れ去られたんじゃないだろうか?
美少女という共通点を見ればおそらく、テスターに……。
そこまで考えてゴクリと唾を飲み込んだ。
テスターの噂が本当なら、誘拐した少女たちの顔は切り取られているはずだ。
「そんなことない。千紗は無事だ。千紗は……」
呪文のように口の中で繰り返す。
千紗の長いまつげ、綺麗な鼻筋、ぷっくりとした唇。
それらが切り取られてしまうなんて想像するのも恐ろしい。
千紗はきっともとの姿のまま俺の元に帰ってきてくれる……!
嫌な妄想をかき消して、俺は窓の外を見つめた。
今日は部活動も停止になっているからグラウンドに人の姿は見当たらない。
校舎内からも生徒の声は聞こえてこなくなっていた。
ホームルームが終わって20分ほど経過するが、教室内に誰かが入ってくる気配だってなかった。
「ここにいても、意味がないのかな」
呟く。
俺は男だからテスターからすれば興味のない存在だ。
だから出てこないのかもしれない。
諦めかけた時だった。
グラウンドにスーツ姿の女が歩いているのを見つけて、身を乗り出した。
ここは学校だからスーツ姿の人が歩いていたって珍しくない。
それでも気になったのはその人物がやけに歩きにくそうにしていたからだ。
足を怪我でもしているのだろうか、ひきずっているように見える。
もっとよく確認しようと窓を開けると、その音に気がついてように女が立ち止まった。
咄嗟に体を低くした時、女が振り向いた。
その顔には包帯がグルグルに巻かれていたのだった。
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