第15話

~久典サイド~


「どこにもいないか……」



学校にいる間休憩時間になるたびに千紗を探したけれど、結局見つけることができずにいた。



普段使われない空き教室に、部室棟、外のトイレ。



他に調べる場所があるとも思えないから、やっぱり学校にはいないのかもしれない。



他のクラスメートたちが言っている通り、智恵理や栞と一緒に自分からどこかへ行ったのかもしれないと思い始めていた。



じゃないと、3人ともと連絡が取れなくなるなんて考えられない。



校門を出てから俺はスマホを確認した。



千紗だけじゃなく智恵理と栞にもメッセージを送っておいたのだけれど、誰も既読がついていない。



落胆してしまいそうになる心を奮い立たせて、歩き出す。



昨日は時間が遅くて店内まで見て回れなかった場所が多い。



今日はもう1度、カラオケ店やゲームセンターを中心に探しなおすつもりだった。



俺はスマホをポケットにしまって、大またで歩き出したのだった。


☆☆☆


3人がいそうな場所を探して1時間が経過していた。



やはり、どこにも3人はいない。



途中自動販売機を見つけて立ち止まり、休憩を取っていた時、スマホが震え始めた。



千紗かもしれないと期待してスマホ画面を確認すると、それは千紗の父親からの着信だった。



昨日、連絡がとりやすいようにスマホ番号を交換しておいたのだ。



「はい」



『久典君かい? もう、学校は終わったのか?』



「終わっています。今カラオケ店とゲームセンターを探しなおしたところです」



『そうか、もう動いてくれているんだね、ありがとう。これから合流できるかい?』



「もちろんです」



『じゃあ、そのあたりで待っていてくれ。車で行くから』



「わかりました」



千紗の両親が一緒なら心強い。



俺はジュースを飲み干して「よし、今日こそ絶対に千紗を探し出す」と、呟いたのだった。


☆☆☆


「毎回車を出してもらってすみません」



俺は千紗の父親が運転する車の助手席に乗り、そう言った。



「いや、久典君には迷惑と心配をかけているんだから、このくらい当然のことだ」



千紗の父親は昨日よりもやつれた顔をしている。



全然眠っていないのか目の下も濃くなっていた。



「今日は少し遠くまで探しに出てみよう。電車で移動したかもしれないから」



「そうですね。でも大丈夫ですか? 眠っていないんじゃないですか?」



「少し仮眠したから大丈夫だ」



車の中から注意深く町の様子を確認する。



今の時間帯はまだ学生服姿の人たちが多くて、探すのも大変だ。



千紗に似た後ろ姿を見つけるとそのたびに車をとめて確認に走った。



「どこにもいないな……」



隣町まで車を走らせたところで、千紗の父親がため息をはいた。



「そうですね」



俺は答えながらも外の様子を確認することを怠らない。



もしかしたら、今そこに歩いている人が千紗かもしれないのだから。



「千紗と仲のよかった友達もいなくなったんだろう?」



「はい、そうなんです」



同時に3人が行方不明になったことは、すでに連絡網で回っていた。



しかし、他の2人の両親が警察に連絡しているかどうかはわからなかった。



「学校内では、3人で遊びに出たんじゃないかって言われていますけど……」



そうじゃないと願いたい気持ちのほうが強かった。



「……それならいいんだけれどな」



千紗の父親は弱弱しい笑顔を浮かべて、言ったのだった。


☆☆☆


結局、なんの収穫もないまま夜になって家まで送ってもらっていた。



「お役に立てずにすみません」



車を降りて深くお辞儀をする。



千紗の父親は「そんなことはないよ、ありがとう」と言って車を走らせて行ってしまった。



きっと、これからまた千紗を探しに行くんだろう。



俺はスマホを取り出して千紗からの連絡がないか確認をした。



画面を見て肩を落とす。



やっぱり、返事はない……。



みんなが言っているようにただ遊びに出ただけなら、連絡くらいくれてもいいのに。



そう思い、少しだけ涙が滲んできたことに気がついた。



こんなことでなくなんてみっともない。



別に千紗が死んだわけじゃないのに。



そこまで考えて、ハッと息を飲んだ。



もしかして……と、嫌な予感が胸をよぎる。



が、強く左右に首を振ってその考えをかき消した。



そんなことありえない。



千紗が死ぬなんてこと!



「明日には、絶対に見つけ出す」



俺はそう心に決めたのだった。

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