第9話

~久典サイド~


それは自宅でのんびりと夜のテレビを見ているときのことだった。



テーブルに置いてあったスマホが震えて画面を確認すると、千紗の家からの電話だった。



「なんで家からなんだ?」



俺は首を傾げて呟く。



リビングでは今日が誕生日の妹がはしゃいでいるので、廊下へ出て電話に出た。



「もしもし?」



千紗からの電話だと思っていたから、いつもの調子で声をかける。



すると電話口から聞こえてきたのは千紗の父親の声だったのだ。



『久典君かい?』



その言葉に咄嗟に背筋が伸びた。



千紗の両親とは3回ほど会ったことがあり、そのときに家の番号も教えてもらっていた。



相手の番号を教えてもらっておいて自分の番号を教えないわけにもいかないため、そこで番号交換をしたのだ。



「は、はい」



緊張で声がうわずってしまった。



『突然電話をかけてすまないね。ちょっと聞きたいことがあったんだ』



「聞きたいことですか?」



千紗の両親が俺に聞きたいことってなんだろう?



学校のことなら千紗に聞けばいいだけだし。



全く心当たりがなくてとまどうばかりだ。



『千紗がそっちにお邪魔してないかい?』



その言葉に俺は一瞬キョトンとしてしまった。



「いえ、来ていませんが……」



仮にきていたとしても、今はもう夜の10時だ。



とっくに送って帰っている時間だった。



『そうか……』



「あの、千紗がどうかしたんですか?」



『あぁ。実はまだ帰ってきてないんだ』



「え?」



『電話にも出ないし、メッセージも既読にならない。久典君、なにか知らないか?』



「いえ、特になにも……」



今日の放課後、千紗は居残りになった。



送っていくために待っているつもりだったが、千紗が先に帰っていいと言ってくれたのだ。



居残りは千紗ひとりじゃなかったし、今日は妹の誕生日だからその言葉に甘えさせ

てもらった。



『そうか……』



「あの、俺も千紗さんの連絡を取ってみます」



『あぁ、頼むよ。もしかしたら、久典君からの連絡なら返事をするかもしれない』



それには答えず、電話を切るとすぐに千紗に電話をかけた。



しかしいくら待ってみても、電話に出る気配はなく。



留守電になってしまう。



「千紗、今どこにいる? みんな心配してるから、これを聞いたら連絡して」



そう吹き込んで電話を切り、更にメッセージも送った。



これで、気がついてくれるといいけれど……。


☆☆☆


それから1時間が経過していた。



千紗から折り返しの電話もないし、メッセージに既読もつかない。



さすがにいてもたってもいられなくなってきて、俺はこっそり家を出て千紗を探し始めていた。



「一体どこに行ったんだよ……」



千紗の父親に寄れば一度も帰ってきていないそうだから、まだ制服姿のはずだ。



紺色の制服は夜の闇に溶け込んでしまう。



変な男に声をかけられる心配もあるし、探している間中気が気じゃなかった。



「久典君?」



千紗と言ったことのある公園に差し掛かったとき後ろから声をかけられて振り向いた。



「あっ」



そこにいたのは懐中電灯を持った千紗の両親だったのだ。



2人も近所や学校付近を捜していたみたいだ。



「千紗を探してくれているのかい?」



「はい。電話をしても返事がないので、気になって」



「そうか、君からの電話にも出なかったか……」



千紗の両親の表情は焦燥感で溢れている。



「学校や家の近所は探したんだが、他に行きそうな場所はないかい?」



聞かれて、俺はうなづいた。



もう閉店時間だけれど、これから千紗と行ったことのある店に行こうと思っていたところだ。



「よし、空き地に車を止めてあるから、それで移動しよう」


☆☆☆


それから俺たちは覚えのある場所をすべて見て回った。



一緒に行ったゲームセンター。



ボーリング場にカラオケ。



それにショッピングセンターや神社まで。



しかしどこにも千紗の姿はなく、気がつけば12時が回っていた。



「つき合わせてしまった悪かったね」



家まで送ってくれた千紗の父親は申し訳なさそうに言った。



「いいえ。何もできなくてすみません」



千紗からの連絡はいまだになく、不安が胸に膨らんできていた。



でも、俺よりもこの2人のほうがよほど心配しているはずだから、できるだけ顔には出さないようにした。



「いや。久典君のおかげで千紗が遊んでいた場所がわかったし、助かったよ」



「そうね。明日の昼間、また探しに行ってみましょう」



玄関に入る前にふと思い出したことがあって立ち止まった。



「実はひとつだけ気になることがあるんです」



「なんだい?」



「なにも関係ないと思うんですけど、学校でテスターっていう都市伝説を聞いたんです」



俺はおずおずとテスターについて説明した。



こんな話をしても千紗と繋がるものはないと思うが、こういう噂が立つと言うことは近所に不審者が出ているということかもしれない。



「そうか。そんな都市伝説があるんだな」



千紗の父親は顎に手を当てて考えこんだ。



「聞いたことがありますか?」



「いや、初めて聞いたよ。教えてくれてありがとう。千紗から連絡があったら、すぐに知らせてくれるかい?」



「もちろんです」



俺は大きくうなづき、2人と分かれたのだった。

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