第6話

なにこの動画……。



普通に歩いているだけの動画にしては薄気味悪くて、身震いをする。



それでも画面から視線をそらすことができなかった。



画面の中で撮影者が何かを持っているのが見えた。



それは黒く四角いもので……。



「これ、さっきあたしたちに当てたヤツじゃない!?」



栞が青い顔になって叫んだ。



「そうだね」



あたしはうなづく。



「これってなんなの?」



智恵理に聞かれてあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



「……たぶん、スタンガン」



答えた瞬間、動画の中で包帯女が走りだした。



後ろ姿の女子生徒へ向けてスタンガンを押し付ける。



女子生徒は悲鳴も上げずに体をそらせ、そしてうつぶせに倒れこんでしまった。



包帯女は撮影を続けたまま、倒れこんだ女子生徒を仰向けにさせた。



「あっ!」



その顔には見覚えがあり、思わず声を張り上げた。



隣の高校では毎年ミスを決めるイベントがあり、この子は今年グランプリに選ばれた子だ。



とても可愛いと評判だから、雅高校でも噂になったことがあった。



包帯女は女子生徒の両足を担ぐと、引きずりながら移動を開始した。



その先にあったのは赤い車で、トランクを開けると少女の体を放り込んでしまったのだ。



「ちょっと、これも冗談だよね?」



智恵理が言うけれど、あたしも栞も返事ができなかった。



心臓がバクバクと早鐘を打ち始めていることだけは確かだった。



その後一旦動画は途切れたが、すぐに再開された。



そこは暗い倉庫の中のようだけれど、荷物はなにも置かれていないから、ここではなさそうだ。



カメラが拘束されている女子生徒の姿を映し出した。



今のあたしたちの状況と全く同じだ。



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



包帯女が少女に近づき、スカートから見えている足に触れた。



細くて長く、とても綺麗な足だ。



包帯女はしばらく品定めをするように少女の足を撫で回し、おもむろに立ち上がった。



一度フレームから外れた包帯女が再び姿を見せたとき、その手にはチェンソーが握られていた。



なれた手つきでエンジンをかけ、その音に反応して少女が目を覚ました。



少女が今の状況を把握するよりも先に、女はチェンソーの刃を少女の足に押し当てていたのだ。



あたしは咄嗟に視線をそらしていた。



チェンソーの音だけが聞こえてくる。



少女の悲鳴は簡単にかき消されてしまっているみたいだ。



「こ、この動画、本物なの?」



動画から視線を外さなかった智恵理が、荒い呼吸を繰り返しながら聞く。



「う、嘘だよこんなの。だって、人の足を切断するなんてできるわけないし」



栞の声は震えている。



その間あたしは必死に上半身を動かしてロープが緩まないか試みていた。



しかし、しっかりと結ばれているようでビクともしない。



むしろ、動けば動くほどきつく締め付けられる気がする。



「何週間か前に、噂で聞いたことがある。グランプリの女の子が突然学校に来なくなったって」



あたしの言葉に2人が同時に息を飲んだ。



「ねたみからイジメられていたんじゃないかって噂だったけど……」



あたしは途中で言葉を切った。



最後まで言う必要はない。



今目の前にいるこの女が、グランプリの少女を襲ったんだ。



だから学校にこれなくなった。



もしかしたら死んでいるかもしれない。



あたしはまたゴクリと唾を飲み込んだ。



黙っていたテスターはスマホを奥と、スーツのズボンを脱ぎ始めた。



突然のことに驚いていると足の付け根に縫い物の痕が残っているのが見えた。



縫い目を境にした下だけやけに細くて長く、そして白くつややかだ。



肌の色も質感も全く違う。



明らかに別人の足がそこに縫い付けられているのだ。



呆然としてテスターの足を見つめる。



『テスターは美少女の顔のパーツを切り取って、自分の顔に縫い付けるんだよ。そうやって、自分に合うかどうかテストしてるから、テスターって呼ばれてる』



顔のパーツだけじゃなかったんだ……。



瞬間吐き気を感じて必死で押し込めた。



気持ち悪くてうつむいてしまう。



「嘘でしょ? 全部作り物だよね!?」



栞がパニックを起こしたような声で悲鳴を上げる。



テスターはスマホを手に取り、それをあたしたちへ向けた状態で固定した。



スマホスタンドをあらかじめここに用意していたのだ。



それだけじゃない、ゴミだと思っていた袋の中からのこぎりやナイフと言った道具を次々と取り出しはじめたのだ。



用意周到なテスターに背中に冷たい汗が流れて行った。



動画の中の少女は別の場所で襲われたみたいだけれど、ここまで準備ができるということは、学校関係者かもしれない。



この倉庫のことも知っていて、あたしたち3人が今日の放課後居残りをすると知っていた人物。



そこまで考えてみるけれど、該当者が多くて絞ることは困難だ。



動画内で車を使っていたけれど、ここまでする人間なら免許がなくても車くらい運転してしまいそうだし。



考えていると、不意にテスターが近づいてきた。



あたしに視線を合わせるように中腰になる。



「な、なに?」



とまどい、テスターから視線をそらせる。



しかしテスターはあたしの頬を両手で包んで無理やり前に顔を向けさせた。



決して乱暴な扱いではなかったが、恐怖で心臓がドクンッとはねた。



テスターはまじまじとあたしの顔を見つめている。



「あなたのまつげ、とても長くて魅力的ね」



「え?」



テスターの言葉に反応できずにいると、テスターが眼前に何かを差し出してきた。



それは真新しく見えるハサミだった。



ギラリと怪しく光る刃に一瞬にして背筋が凍りつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る