第5話
意識が覚醒するにつれて体の痛みを感じた。
「っ……」
目を開けるとホコリっぽさに顔をしかめる。
目の間に待っているホコリを手で払おうとして、自分のからだが椅子に拘束されていることがわかった。
両手は体の後ろで組まれ、胴体は椅子にロープで固定されている。
唯一足は自由になっているが、しっかりと座らされた状態なので立ち上がることもできない。
目が慣れてくるにつれて体の痛みも強くなり、まだ脳みそがしびれているような感覚があった。
強く左右に首を振り、その痺れを振り払う。
「ここは……?」
呟くと、隣から声が聞こえてきて視線を向けた。
そこにいたのはあたしと同じように拘束された智恵理と栞の2人だったのだ。
2人とも頭が垂れ下がり、意識が戻っていない。
「智恵理、栞! 起きて!」
大きな声で名前を呼ぶと2人のまぶたが震えた。
よかった、生きてる!
安堵して涙が出てきそうになった。
「あれ? なにここ?」
「痛っ……体が……」
目が覚めた2人は混乱したように周囲を見回し始めた。
あたしも同じようにして確認してみると、どうやらここが学校の倉庫であることがわかった。
といっても置かれているのはもう使われることのないゴミばかり。
「ここ、旧体育館倉庫だ」
智恵理が呟いた。
「そうみたいだね」
あたしはうなづく。
旧体育館倉庫はグラインドの端に立てられている木製の倉庫で、普段は誰も近づかない。
取り壊すという噂も立っていた。
誰が、どうしてこんなところにあたしたちを……?
疑問を感じていたときだった。
倉庫内の隅に置かれているゴミがゴトゴトと音を立てて動いたのだ。
3人同時に息を飲んでそちらを見つめる。
ゴミをかき分けるようにして出てきたのは、さっきの包帯女だ。
「あ、あんたあたしたちに何したの!?」
智恵理が叫ぶ。
包帯女は答えず、あたしたちに近づいてくる。
逃げ出したいが、それも叶わずただ包帯女の行動を見守るしかできない。
「私はテスター」
目の前まで来た包帯女が抑揚のない声で言った。
若いのか、それなりに年齢がいっている声なのか判断がつかない。
「テスターって、あのテスター?」
栞が震える声で言う。
女はうなづいた。
その反応にあたしと智恵理は目を見交わせる。
さっきまでの恐怖心が一気に解けていくのがわかった。
SNS上でも知られていない『テスター』。
あれを作ったのはきっと郁乃だ。
そして『テスター』の話を聞いていたのはB組のクラスメートたちだけ。
つまり、この包帯女はクラスメートの誰かということになる。
一番高い可能性は郁乃だ。
あたしは呆れて包帯女を見つめた。
あたしたちをびびらせるためにここまでするなんて、相当暇なのだろう。
「わかった。テスターは十分怖かったから、拘束を解いてくれない? 今ならまだ先生に言わないでおいてあげるから」
あたしはゆっくり包帯女へ向けて言った。
できるだけ刺激せず、優しくだ。
こんなことをしてしまうなんて、このクラスメートは相当あたしたちに僻みがあるのだろう。
「そうだよ。それに、こんなことをしたって意味ないよ。あなたの立場が悪くなるだけ」
智恵理も少し呆れ声ながらも説得を始めた。
それでも包帯女はなにも言わない。
包帯のせいで表情もわからないし、やりにくさを感じる。
「ねぇ、今何時かだけでも教えてくれない? みんな心配してるから」
あたしの言葉を最後まで聞かず、包帯女はスマホを取り出した。
画面に出ている時間は夜の10時過ぎだ。
「もうこんな時間!?」
栞が驚いて声を上げた。
両親とも絶対に心配しているに決まっている。
こんな遊びに付き合ってる暇はない。
「いい加減にしてよ。こんな時間まで人を拘束して、なに考えてんの!?」
智恵理が声を荒げたとき、包帯女が動画を再生しはじめた。
動画なんて見てる場合じゃないのに!
そう思ったが、映し出された映像にあたしは視線を向けた。
そこは暗い歩道で、時折見知った電光掲示板が移りこみ、学校付近を歩いているのだとわかった。
撮影者は包帯女だろう。
その前には隣の高校の制服を着ている女子生徒が歩いている。
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