第4話

☆☆☆


どれだけ久典が優しくしてくれても、放課後の居残りがなくなるわけじゃない。



あたしは30点。



智恵理は41点。



栞は32点で、結局3人で居残りすることになってしまった。



他のクラスメートも自信がなさそうだったけれど、みんな平均点以上はあったようで、教室にはあたしたち3人しか残っていない。



「こうして3人でいられるなら居残りも楽しいねぇ」



のんびりとした口調で言ったのは栞だった。



「だね! 久典君は先に帰ったの?」



「うん。待ってるって言ってくれたんだけど、何時になるかわからないから先に帰ってもらったよ」



あたしは智恵理の質問にそう答えた。



今日は久典の妹さんの誕生日だから、あたしにつき合わせるのも悪いし。



「でもさぁ、本当に郁乃ってムカツクよねぇ」



智恵理はプリントそっちのけて鏡を取り出して、前髪を整え始めた。



さっきからプリントは少しも進んでいない。



教科書を取り出して調べる気もなかった。



「だよね! わざわざ98点の答案用紙見せてきて、千紗の点数大声で言うとかさぁ。性格悪すぎじゃん?」



栞もご立腹だ。



「まぁ、こんなところでしかあたしたちに勝てないからでしょ」



あたしはプリントを睨みつけて答える。



一応さっきから頑張っているつもりなのだけれど、1問も解けない。



わけのわからない数式に目が痛くなるばかりだ。



「千紗もなかなか言うじゃん」



智恵理がそういって笑ったときだった。



教室前方のドアが開いたかと思うと、顔に包帯を巻いた女性が入ってきたのだ。



スラリと背が高く、パンツスーツ姿のその人は包帯の奥から充血した両目をのぞかせている。



「だれ?」



栞が眉間にシワを寄せて聞いた。



包帯女にそれには答えず、あたしたちに近づいてくる。



スーツ姿だから先生かな?



それにしても、顔もわからないくらい包帯を巻いているなんてどうして?



疑問が先立って動けなかった。



3人とも不振なその人物に視線を釘付けにされる。



気がつけば、女はあたしたちの目の前に立っていたのだ。



あ、ヤバイかも。



そう思って腰を浮かしたのと、女があたしに何かを押し付けてくるのが同時だった。



腕に押し当てられた黒く四角いものから強い衝撃が全身へ走る。



「うっ!?」



悲鳴を上げることもできず痛みに体をそらせ、そして倒れこんだ。



ビリビリとした痛みが脳天に突きつけて、意識が遠ざかっていく。



あたしが倒れたことでようやく2人が逃げようと動いた。



それでも、女のほうが動きは早かった。



智恵理が、そして栞が次々に倒れておくのを薄れていく意識の片隅であたしは見ていたのだった。

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