宮本武蔵、龍を斬る①
アイシアがポポラ村を出てヴェリク王国首都『ヴェルカナン』に移り住んでから一年が経った。ヴェリク王国騎士団の入団試験に合格し、無事に一年の訓練期間を終えたアイシアであったが、その配属先は希望していたユトナ・フォリンが軍団長を務める第三軍ではなく、国王の五男、アーダン・ヴェリクが軍団長を務める第六軍であった。
これはアイシア本人ですら知らないことだが、彼女が持つ剣聖という類希なギフトに目を付けたアーダンが自身の軍団に箔をつけるため、職権を乱用して強引にアイシアを第六軍に所属させたのだ。
アイシアは自身の所属が第三軍にならなかったこと、それ自体は残念だが運がなかったと諦めているのだが、しかし所属先の第六軍については大いに不満があった。
その性質上、騎士団というところには家を継げない貴族の三男、四男といった者たちが数多く所属しているのだが、そういう、食っていくため仕方なしに騎士団に入ったようなやる気のない貴族の子弟たちが、この第六軍には妙に多いのだ。
実際には貴族の子弟たちがアーダンに賄賂を贈る代わりにその庇護下に入って優遇を受けているといった具合であった。賄賂を贈ってきた貴族の子弟たちには比較的楽な仕事や休暇を多く与え、そうではない者たちにその分の仕事を回す。
王国騎士団の恥さらし、腐敗の温床。騎士団内でも第六軍は明確に評判が悪いのだが、軍団長が五男とはいえ国王の息子だということで誰もまともに意見する者がいない。過去には義憤に駆られて意見した者たちもいたのだが、彼らは皆、早々に騎士団から姿を消す破目に陥っている。言うまでもなくアーダンが裏から手を回したのだ。
そんな腐った環境に身を置くアイシアは日々憤りを感じつつ、それでも貴族の子弟たちの数倍は働いていた。まだ騎士ではなく、その下の階級である兵士だが、アイシアには王国騎士団所属という誇りがある。父が未練を残しつつも仕方のない事情で退いた、その道の続きを自分が歩いているのだと。
辞めてなるものか、腐ってなるものか、楽な道を行ってなるものか、自分は、自分だけは正しい道を歩むのだと。
そういう意地のみが今のアイシアを支えている。
アイシアが第六軍に配属されてから一ヶ月が経った頃、彼女にまたしても理不尽な仕事が回ってきた。身内に不幸があり、しばらく職務には就けないという貴族の子弟に代わって遠征部隊に参加し、遠方のとある村を襲う魔物を退治するというものだ。ポポラ村のように遠方の田舎村には兵士が詰めていないこともある。そこが王家の直轄領だった場合、有事にはこうして王国騎士団から遠征部隊が送られるのだ。
さして危険な任務でもないため、部隊の人数は五十人ほどと少な目だが、約半数がやる気のない貴族の子弟で、もう半数が彼らに仕事を押し付けられる平民出身の兵士たちだ。
しかしながら、その魔物退治の任務が、後にアイシアの運命を変えることになる。期せずして現れたドラゴンの存在によって。
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