第31話「アルータVSヴァルガ(前編)」
闘技部門の予選大会が終わり——休憩を挟んだのち、魔法部門でのトーナメントが始まる。予選大会を生き残った八名による、勝ち残り戦。
アルータとヴァルガ以外の六名は——誠に残念な話だが——二人の足元にも及ばなかった。そもそも予選大会の時点で、ヴァルガが生徒のほとんどを吹き飛ばしてしまい、そのおこぼれに預かるように勝ち残ってしまったので、当然ともいえた。
例えば、ヴァルガの第一戦。相手はあろうことか、まともに魔法によるぶつかり合いを挑んでしまった。互いに火の
第四戦のアルータは、全方位からの雷の
準決勝戦も、ほぼ同じような結果だった。ヴァルガは圧倒的な力で相手をねじ伏せ、アルータは予測できない方向からの攻撃を仕掛ける。
結果、二人は決勝戦へと進むことになった。
『これで、これで、決勝戦の対戦カードが決まりました! 一人は優勝候補のヴァルガ・デル・ウィンザート選手! そしてもう一人は昨年の準優勝者、アルータ・ベル選手! なんと、去年とまったく同じ対戦相手となります! しかも決勝戦!! アルータ選手にとってはリベンジとなるか、ヴァルガ選手にとっては二連覇となるか、これは見逃せないぞぉ――ッッッ!!』
〇
「やったね、アルータ!」
修練場の控室にて
「さすが、アルータさんです。ここまで
「大したことじゃないわ。一年生の時と比べて、少しは経験を積んだから」
「でも、相手はあのヴァルガなんだよね……」
喜んでいたかと思えば、いきなりしょんぼりするミール。アーデルも難しい顔をしていた。
「ええ、確かに。彼はまだ上級呪文を一回も使っていません。おそらくこの決勝戦で、すべてをぶつけてくるはずです」
「……なぁ、よくわからないんだが、単純な魔気でいったらどっちが上なんだ?」
幾の問いに、二人はさらに難しい顔をした。
「ヴァルガは攻撃魔法のほとんどを極めているけど、アルータはそれ以外にも色々な魔法を習得しているの。傷を癒したり、魔法を跳ね返したり。でも、ヴァルガがそれ以上の力をぶつけてきたとしたら……」
「防ごうとしても、防ぎきれないケースもあるってことか」
「そういうことです。この勝負……力押しになってしまえば、アルータさんには不利に傾くと思います」
その時、すぱーんと小気味いい音が鳴った。ミールがアーデルの頭を叩いたのである。
「これから決勝なのに、あんたは何を言ってるのよ!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!」
「いいの、アーデル。ミールもそのぐらいにしておいて」
それまで黙って聞いていたアルータが、ベッドから立ち上がった。口にはうっすらと笑みが浮かんでいる。白杖を手にしようとしてベッドをまさぐったので——幾は彼女に、それを持たせてやった。
「ありがとう、イクツ」
「……ん」
「……イクツ、あなたはどう見てる?」
「決勝の結果か? ……アルータが勝つよ」
「どうして?」
「根拠なんてないよ。でも、勝てると思ってやらないと、勝てるものも勝てない。成功するものも成功しない。それだけの話」
「それは、あなたの世界での話?」
「そういうことにしておいてくれ」
苦笑しながら言うと、アルータはくすっと笑った。
「ありがとう。……じゃあ、行ってくるわ」
「応援してるからねー!」
「僕もです!」
「気をつけてな、アルータ」
アルータは白杖で地面を叩きながら、控室から出た。
「それにしても——」とミールは不満顔で、腰に両手をつけている。
「ゼラ、一体どこで何をしてるのかしら。アルータがこれから戦うってのに……いくらなんでも薄情すぎるわ」
「そうですね……一言ぐらいあってもよさそうなものなんですけど」
「そうだな……」
魔法部門の次——闘技部門のトーナメント表はすでに公開されていた。幾が第一戦を勝ち上がれば、準決勝戦でゼラとぶつかることになる。そして決勝戦ではキスティと。うまく出来すぎている気もするが、幾としては願ったり叶ったりだった。
キスティと戦う前に、
「今のゼラが何を考えているのかはわからないけど。それは、やり合ってみないとわからないだろうさ」
「何を、気楽に言ってんの!」
「今から気を張ってもしょうがないだろ。……とりあえず、アルータとヴァルガとの決勝戦を見届けないとな」
そう言って、布袋からリンゴを取り出す。ひと口かじると甘味が広がって、一瞬で疲労が回復したような気になる。ミールは呆れ、アーデルは半ば苦笑していた。
〇
『さぁーあ、お待たせしました!! 待望の、魔法部門決勝戦!! 今年もなんと、同じ対戦相手ときたッ! 去年は確か、ヴァルガ選手の押し勝ちだったと記憶していますが、ガンデルさん、ババルさん、いかがでしょうかッ!?』
『単純な力押しなら、ヴァルガが勝つだろうよ』
『だがね、ヴァルガが余裕ぶっこいたせいでアルータにアレを使わせてしまった。ヴァルガはそれで苦汁を舐めた。アレを使われる前にアルータを倒せるかどうか、勝負はそこにかかってるかもしれないねぇ』
『なるほど、ありがとうございます!! それでは決勝選手に挑む、未来を見据えた勇気ある若者たちをご紹介したいと思います!!』
ぱぁん、と祝砲が鳴った。さらには観客が色とりどりのテープを投げている。特にヴァルガの取り巻き——あの三人組のばらまき様は凄まじいものだった。周囲の人が迷惑そうにしているのにも構わず、「ヴァルガ様ぁ!!」と声を張り上げている。
修練場の中央に、ヴァルガが一人歩いていく。相当張り詰めている顔つきだった。初めて戦った時のような、へらへらした態度はまるで皆無だ。それほどアルータが油断ならない相手ということなのだろう。
『生まれは名門ウィンザート家!! 攻めるが勝ち、逃げるは恥! その戦意はまさしく烈火の如く!! 今度も優勝、二連覇を果たすか!? ヴァルガ・デル・ウィンザート選手の登場だァ――ッッッ!!!」
歓声が巻き起こる。空気すら震わせるほどの盛り上がりようだ。
そして——
『ありとあらゆる魔法を駆使し、ハンデなどものともしない!! 己を支える白杖は、魔法使いの杖と同義!! 舐めても甘く見てもいけないぞ!! 昨年の準優勝者——アルータ・ベル選手の登場だァ――ッッッ!!!」
またしても歓声。今度は肌が震えるほどだ。「アルータちゃーん!!」と黄色い声までもが飛んでいるので、もしかしたら隠れファンがいるのかもしれない。よく見ると、観客の中にあの店主もいた。店はどうしたのだろうか。
両者は修練場中央の、指定の位置で向かい合った。険しい顔つきのヴァルガとは対照的に、アルータはいつも通りの、涼しい顔のままだ。とんとん、と白杖を地につけて——その先端がヴァルガの方向に定まる。ヴァルガの魔気を感知して、彼がいる方向を見定めたのだろう。
ヴァルガは手を開閉しつつ、「去年のようにはいかねぇぞ」
対するアルータも、「わたしも、手加減しないから」
ぴり、と幾は静電気が走ったような感覚を覚えた。いや——これは静電気などではなく、魔気だ。この修練場そのものに漂う魔気を、二人は吸収している。
ヤカマがマイクを握り——耳をつんざくほどの声量で叫んだ。
『両者、準備は整ったとみました! それでは魔法部門決勝戦——開始ッッッ!!』
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