第12話

 母さんと僕との間に、距離があると認識するようになったのは、いつからだろう。母さんの目指す道の先にあるのは、ずれた理想郷だ。その道を母さんは進み続け、僕は追い付けなくなった。


 勉強をしっかりして立派な大人になるのよ。唯一母さんから教えられた事だった。僕はその言葉を念仏のように覚えて、何かある度に繰り返し心の中で唱えた。


 


 母さんは最近深夜近くに帰ってくる事がよくある。父さんは先にリビングで寝ている。そして父さんが会社に行くと、母さんが起き出す。それが最近の二人の生活リズムだった。


 深夜2時頃、今日の事があって寝付けずにいると、物音がした。母さんが帰ってきたのだ。僕は耳を塞いだが、たまらなくなり、キッチンへと向かった。


「母さん」


「びっくりした。おどかさないでよ」母さんは、ミネラルウォーターを飲んでいる所だった。


「こんな時間まで何してたの?」と僕は聞いた。


「友達のね。相談に乗ってたのよ」


「こんな時間まで?」


「ええ、そうよ」


「俺は勉強したよ」


「そう・・・、程々にしときなさいよ。人生には勉強以外にも大事な事はあるのよ」


「何?」


「そうねえ。恋愛とか?やっぱり自分をわかってくれる存在って人生には必要なのよ」


「勉強は立派な大人になるには大事な事じゃないの?」


「そんな事ないわ。もっと大事なことはいっぱいあるのよ」


「そっか・・・、おやすみ」


「ええ、おやすみ」


 


 次の日の朝、朝食をとっている父さんのもとへ行き、僕は何かに身を委ねるように喋り出した。


「父さん、話があるんだ・・・」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る