第7話 出発する日

綺麗に構えるだけで相手が怖気付いて逃げてくれる場合がある。


要は形だけで相手を脅せというとこ。


戦いが苦手なユエンでもこれくらいはできるだろうとミホンが出した最善の答えだった。


見本は残りの時間全てをユエンに尽くした。

教えられることは全て教え、自分の大事なもの、隠してある物の場所等ユエンに暗記させた。


時間はあっという間に過ぎミホンが戦場へ出発する日。


虫の音とフクロウの鳴き声しか聞こえない中、ミホンは1人、馬に乗っていた。


王様は見送りもしなかった。それどころか、使用人も誰1人出てこなかった。


ただユエン1人だけがミホンの無事を祈った。


「兄様…どうかご無事で。」


ユエンはミホンの手を力強く握る。


「心配するな、お前を1人にはしない。必ず帰る。それまで、この2日間で教えたことは忘れるな。」


「はい。」


「では、行ってくる。」


「行ってらっしゃい、兄様。」


涙を流しながら中々手を離さないユエンの手を、ミホンは無理やり引き剥がし、馬を走らせ消えていった。


ユエンは泣き止むべく空を仰ぐと、うっすらと月が見えた。


それは雲でおおわれ、隙間から僅かに光が漏れている。


「兄様…、私はもう寂しいです。今さっき手を握ったばかりだと言うのに…。」


ユエンはミホンが無理やり離した自分の手をぎゅっと握りしめ開くと、中には懐中時計があった。

兄が母の形見だと大事にしていた物だった。

開いてみると、秒針が止まっていた。



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泣き虫王様 橋倉 輝 @kkinko0219

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