第4話 不安

ミホンは常に思っていた。

弟はこのままでは直ぐに死ぬのではないのかと。


「兄様ぁ!怖い夢を見たんです。ユエンが寝るまでここに居てくれませんか?」


一日の疲れを癒すように深い眠りに着いていたミホンは、ユエンの泣き声と、勢いよく開いたドアの音で叩き起された。


「今、何時だ?」


「今は深夜です。」


「…何時だ?」


「…兄様ぁ。」


そう、弟は時計の針すら読めない。


それを誤魔化すように自分の腕に絡みついてくる弟を見ていると、呆れ果て頭が痛くなった。


「ユエン、もう15なんだから、一人で寝なさい。」


「そんな、兄様ぁ、怖いんです。」


「夢如きで泣いていては立派な男にはなれないぞ。」


「立派じゃなくてもいいです。私はずっと兄様といますから。兄様が護ってくれるんですよね?」


全てにおいて他力本願、と言うより、兄本願な弟を見ていると、甘やかし過ぎたのではと今までのことを後悔することがたまにある。


ミホンは頭を抱えると大きなため息をひとつ落とすと、ユエンを自分の布団の中へと誘う。


「ユエン、今回だけだからな。次からは自分で対処しなさい。」


そう言うとユエンはすぐに泣きやみ満面の笑顔でミホンの布団の中へと潜った。


ミホンがユエンにそっと布団を着せるとユエンは更に嬉しそうに笑った。


「兄様、私達はずっと一緒ですよ。」


ミホンは静かに頷く。


ミホンは分かっていた。

味方が居ないこの王宮でたった1人の家族であるミホンが自分から離れないか、不安で仕方ないことを。


だからこそユエンを甘やかしてしまうのだ。


あまりにも弱く泣き虫な弟は、一人で生きていく術を全く知らない。


隣ですやすやと眠った弟は呑気にヨダレまで垂らしている。


ミホンはそれを見ると可笑しくて笑った。


「おかしな顔だ。」


ミホンは目を閉じ眠った。


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