8時限目 徹夜明けの日の出
「くそ馬鹿野郎!!!!」
「はっはっはっはっはっはっ♪♪」
事件の解決前夜、俺は馬鹿みたく笑いながらしたり顔をパソコンへ向け大量の汗をかいていた。
隣に叫ぶ旧友を他所に。
●◯○
─────時刻は未明の四時に遡る。
「だぁぁぁぁぁつっかれたぁぁぁぁ…………」
「助かったぜ……サンキューな……拓真……」
「てめぇの人使いの荒さマジで引く……今度メシ奢れよ」
「あれじゃ足りねぇのかよ」
「深夜七時間働いて給与五〇〇円はいくらなんでもふざけてるわッ!!」
俺は拓真の住んでいるカフェの二階で、パソコンを前に喉を枯らしていた。夏燐の情報をかき集めるためにだ。
なぜ拓真の所かって? もちろんウチのスペースじゃ満足に時間をとることもできなければ
「あとどれくらいだ……?」
「各所の侵入ログを全部消して
「おーけー」
だがやはり、一番の理由はこれだろう。
「流石、一流ハッカーは訳が違うな」
「おだてても情状酌量の余地はねぇ」
拓真は表向きにはカフェの経営者をしている。
だが、裏の面では世界に勝るとも劣らないトップクラスのホワイトハッカーだ。が、更に驚愕の事実としては、全世界も眼を剥くモノが隠れている。
「にしても、こんなの公的なヤツから逸脱するに決まってるだろ。…………本当はバレたかねぇからしたくねぇんだが」
「良いだろ別に。今に始まったことじゃないんだから」
「お前なぁ……。バレたら此方も一発で指名手配犯なんだからな?」
「大丈夫大丈夫。世界中の誰も、お前がかの有名なダークウェブの管理人だとは塵ほども予想してないだろうがな」
そう、コイツ─────橋木拓真は、裏社会の防衛勢力であるホワイトハッカーでありながら、裏社会の巣窟であるネットの管理者でもあった。実際、コイツの手腕次第で警察やマフィアを動かすことなんて容易いだろう。誇張抜きに国家転覆だって狙えるレベルだ。
何故そうまでコイツがイカれてるのか? そんなこと、俺ですら知らない。
当然、痕跡を残さないことから警察に世話になる可能性すら心配する必要がない。カフェ店主でホワイトな警察の味方が裏切り者のブラックハッカーなんて…………情報盛りすぎだろ。
「知。そっちはあとどのくらいだ?」
「足跡消すくらいだ。疲れたなら先寝てろ。拓真も明日仕事あるんだろ?」
「正確にはもう二時間後だがな。っふぅぅ…………」
伸びをして六畳の部屋の窓を見やる。カーテンの隙間から陽光がさしかかってるのを確認すると、彼は座椅子からすくっと立ち上がり、俺へ水分のない喉で声を出す。
「トーストでいいな」
「と、スクランブルエッグ」
「贅沢な」
扉を閉めて作りにいった拓真を放置し、眠い眼をこすりながら自身の頬を叩く。粗方の作業は終わったが、大事なことは今からだ―――――。
いい加減肩が凝るが……ここで倒れたら眠ってしまう。
姉貴が夏燐とコンタクトをとっていたと知り、良いパスになってくれたおかげで計画も順調に進んだ。
「つくづく出来の良い野郎と出くわすとロクな目に会わねぇ……」
そうぼやきながらカタカタと無彩色な電子音を狭い室内に響かせる。
通常のパソコンでは対処しきれない事態でも、拓真の自己改造したパソコンでは難なく解決できてしまう。
時計を見ると朝の四時を回ったところ。
「嗚呼。コーヒー……」
視線を向けたエナジードリンクは空っぽで転がり、手に取ろうとしたカップは底に黒い輪を作っていた。
早く拓真よ来てくれ……―――――と感じた丁度良いタイミングで。
「仕方ない野郎め……」
朝食を皿に乗せた拓真とその奥さんが、部屋へ入ってくる。
奥さんの方は苦笑気味で皿を机に置くなり「頑張ってくださいね」とだけ残し、あとは退散。
苦笑いで返すと、拓真は何も言わずコーヒーを俺へ寄越し、自身も似たようなカップで啜る。
「生き返るぅ……」
「今度はもう少し現実的な計画で物事を頼みやがれ……」
「はいよ……」
カーテンを開けて眩い光を感じながら、俺は微睡みから目覚めた。携帯へ目を向け、メールを送信したことを確認する。
トーストの上にスクランブルエッグとベーコンを乗っけ適当に食す拓真を他所に、俺はふっとつい笑い、半眼を向けられた。
「なんだよ」
「いいや何も。ただ、女ってなんであぁも面倒なのかねぇ」
「知らんわ。あんまり言ってると女性差別とか言われるぞ」
咀嚼しながら返答する拓真を置いて、すっと瞳を閉じていた。
○●●
解決した翌朝―――――私はいつものように階段を下り、居間へ入った。
「ん……おはよう」
「っお、おはよう……お父さん」
「……その……あれだ。色々と……悪かった」
「……??」
起きていきなり父親から声を掛けられるとは思っていなかったため、つい驚いてしまう。
父親はわずかにバツの悪そうな声と表情で話しかけると、朝食を勧めて席につかされた。父親の置いている手の隣には、昨日先生のバラまいた資料がたたずんでいる。
「これからは……頭ごなしに叱るのは止そう。大人なんだ、いくらかの自由は認める」
「お父さん……」
限りなく朝の忙しい時間帯にこの下りをやらないでくれと思いながらも、それは無粋故に口に出すのは止めた私は、本題に促す。
明らかにそこの書類の件だろう。私が隠れてゲームの大会に参加していた件も十中八九混じっているはずだ。きっとその件については問い質される。その覚悟を以て自ら口を開けた。
「それで話って……?」
「あぁ、これについてだ」
そうして資料の束ごと渡してきたことに違和感を感じつつも、父親の「最後のページだ」という言を受けて紙をめくる。
そこには一つだけ、手書きで書いてあった文が存在した。
「なに……これ……」
私は言うが早いが学校へ行く準備をし、速足で出かけていった。
確かに、私はこれが解決したからといって確実に着実に強くなったとは言わない。戦い方――――気持ちの持ちようの変化だ。
だから、神藤先生はこう書いたんだろう。
『だから、お前は弱いんだ』と。
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