8.暗殺 ◆日本国旧東京・台東区 NH.TK.tt3459:94949g
旧東京――影の町は、その形成段階こそ国の意図するものではなかったものの、今では日本国が意図的に、その治安を低いままに維持している。それは第二世代融合脳のプロメットが提唱した「
「そろそろ帰らねえと。明日もあるからな」
「んえ? まだ一時回ったくらいじゃんか。どうせ画像分析のバイトなんて遅刻とかもないんだろ? じゃあもう一杯くらい、いいじゃないか」
「無理だ」
そんな日本国、影の町にあるこうした酒場は、そのほぼすべてが喧騒と喧嘩にまみれていることで知名度があった。それはもちろんごろつきのたまり場であるということを意味している。喧嘩沙汰は日常茶飯、また既に先進国では宗教上の理由でなしに酒を禁じている国もあるというのに、ここにいればそうした違法な代物に難なくありつくことができる。
「んじゃまた! 今度そのマザーって
「いやだから、彼女じゃねえっての! ん、じゃあな」
乱雑な手つきで、木の机に
独り身を慰めてくれるから、夜の街はとこしえにこうあってほしかった。理由は違えど、たいていの日本人はあらかた共感をするはずだ。彼らが都市を形成するようになってからずっとその血は、夜の賑わいを存分に楽しみたがるよう意味づけられている。
「お
夜の暗さに負けず、さらに黒く空を浮く東京国を見て不意に言葉が漏れる。自分など到底辿り着けるはずのない、夢の都市。地震も犯罪も物資の不足もない
若干卑屈になって肩をすぼませながらも、男は満足のいくまで人ごみを堪能した。永い事屋外にいたせいか、夜冷えが膀胱を刺激して困る。適当な路地裏を立ち入った時だった。
「んグっ」
「はっ! 背後もよく見て歩きな、
声がした。その前に顎を強く蹴られていたと理解出来た時には、もう一打を食らう寸前だった。闇に親和する襲撃者から逃げるように、瞬発的に後ずさる。が、
「ごきげんよう」
揺らめく視界と断続的な聴覚によって、上手く足が動かない。乱れた後ずさりによって、彼は流れるようにもう一人の気配にぶつかる。そのまま何をするまでもなく重撃を食らう。徐に闇をかき分けて見せた二人の襲撃者は、巨大なブーツの女が一人と、一つ目のゴーグルが一人。ヘルメスとエリス。私の手を離れ、暴虐の限りを尽くすアルティレクトの手駒である
腰から
「これくらいで。よろしいでしょう」
「あーあ、あと何人居やがんだよアンファンってのは! かったりいな」
ヘルメスは血の付いたままの刃をしまい、暗みに行く。エリスは地面に落ちている銃のパーツを派手に蹴り飛ばして、闇と刺激的な接触音に気配を隠した。
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