15歳になりました!
待ちに待った15歳。
やっと今日から自分の意思で、反乱軍の一員として活動出来る。
私の魔術はリリアが合格点を出してくれるまでに成長し、
また隠密行動に必要な技も全て教えてもらった。
中でも驚いたのが、体を気流に乗せて空を飛ぶ事と、
空気の塊を固定して風船のようにし、それに乗ったり入ったりすると完全に音が吸収される事!何て隠密向き…!
後はこっそり風の流れを変えて声や匂いを運んだり、自然のつむじ風にみせかけて砂埃で身を隠したり、とにかく風魔術は便利なの!
属性は全部で「風・火・水・土」の基本4種と、「光・闇」の特殊2種がある。
大半の人は基本の中から髪色と同じ属性を1種類だけ持っているけれど、時々「魔力の器が大きい=能力が高い」人は2属性混合とかあるみたい。
こういう人は髪色で判断出来なくて、5歳の判定を受けて分かったりするのよね。
あと髪色で現れない「光・闇」。
そもそも単独でこの属性を持ってる人はいないのでは?
特に多いのはエルフだけれど、基本属性1種+特殊属性1種というような内訳になっている事が多い。
周りには秘密だけど、エルフの血をひいてるリリアも、実は風と光の2属性持ちだったりする。
光属性は「回復」や「実態のないアンデットに攻撃」が出来るので、他の属性と違って羨ましい。
あと、本来最高に隠密向きなのは闇属性なんだよね…!
影に隠れたり、影の中を移動できるってのが凄い…!
ただし攻撃方法はないんだって。
あ、光属性もアンデット以外に攻撃出来ないから、一緒だったか。
何にせよ、基本4属性の中で一番隠密向きなのは、風に違いない。
属性は遺伝しないと言われているので、風で産まれた私はラッキーだ!
---
今日は私の誕生日なので、兄が2人とも帰ってくるらしい。
次男のキースは13歳以来会ってないし、長男のアドルフに至っては5年ぐらい会ってないんじゃないかな?
兄達も成長期で、別人のようになっているだろう。
会えるのが楽しみだわ!
と、ワクワクしていたのに…
「久しぶりね、シルフィー!んまぁ~わたくしに似て、綺麗になって!」
母には兄達が帰ってくる事、伝えていなかったのに…。
どうして帰ってきたのかしら。
「どう?ずっと家にいるのも退屈でしょう?今からでも教団学校にいらっしゃいな!お祖父様もお祖母様も、貴女があの家で暮らす事を心待にしているのですよ?」
掴まれた肩が痛い…。
口調はいつも通りだけど「はい」って言えって脅しているのね…。
「お母様、会って早々シルフィーをいじめないで下さい」
「お兄様!」
「いやぁねぇキース、可愛い我が子をいじめるわけないじゃない?こんな狭い所から、連れ出してあげようとしてるのよ?」
「話は後にして、先にお茶でも飲みませんか?お母様もお疲れでしょう?」
それもそうね、と言い残し、母はテラスへ向かったようだ。
良かった…助かった…。
「…じゃなくて!お兄様!お母様と一緒に来られたのですか?」
「しーっ!声が大きいよ、シルフィー」
はっ!と手で口を押さえる。
母は癇癪持ちなので、刺激しないに越したことはない。
「ごめん、先日侯爵家に報告に行った時、シルフィーの誕生日が近いって話になって。あの女が「当日に乗り込む」って言い張るから、止められなかったんだ。先に伝書を出そうとしたんだけど、常に教団の誰かと一緒に行動してたから、それも出来なくて」
伝書は魔道具の1つで、おそらく風属性の魔術式が組み込まれており、魔力さえあれば属性関係なく誰でも使える物。
ただ、書いた紙に魔力を流せば文字通り物理的に「飛んで」行くので、飛ばす所を誰かに見られたり、最悪捕まえて読まれたりするのだ。
教団には、実は反乱軍のスパイだって知られるとマズイもんね。仕方ないよ。
「お兄様、気にしないで下さい。それよりこの事をお父様と…もうすぐ帰られる予定のアドルフお兄様に伝えますわ。お兄様はお母様のお相手をお願いします」
「分かった。父上にも謝っておいてくれ」
私は急いで父の書斎に向かった。
「お父様、失礼します」
重厚な扉をコンコンコンッと叩くと中から返事があったので、急いで入る。
「お父様、大変ですの!」
「あの女の件だろう?もう知っている」
「僭越ながら、私が先に走らせていただきました」
父の横にリリアが控えていた。
私が母に捕まっている間に、父に知らせてくれたのね。
最近は執事も家令も反乱軍の方で走り回って家にいない事が多く、リリアがその代わりをしている。
「ありがとう、リリア。お父様、アドルフお兄様には何と?」
「今日は帰ってくるなと伝書を飛ばした。あの女にとって騎士団に入ったアドルフが、一番憎いだろうからな」
一番の修羅場を見なくてすみそうで、ほっと胸を撫で下ろす。
それにしても…実の親子でいがみ合うなんて、お互い悲しくないのかな…。
「だが、問題はキースだな…。あいつが侯爵家や教団に懐柔されているとは…」
「お父様!お兄様は「教団の方と一緒に行動していたから、伝書を飛ばすのも無理だった」とおっしゃってましたわ!」
「それはもちろん分かっている。教団連中は反乱軍の事に気付いていないはずだ。が、憎い騎士団一派から来た子供を放置するはずはないしな」
私が反論しても、父の態度は変わらない。
「夜中は?トイレや風呂で一人になる時間は?あいつは土属性だから、伝書を土で隠しておいて、夜中に解除するぐらいは出来るんじゃないのか?」
「それは…」
一般的に男性は魔術を上手く使えないとされているが、キースの能力は高く、子供の頃から高度な魔術を使っていた。
ちょっと鈍臭い私でも、今では繊細な魔術が使えている。
…それぐらいの魔術、キースに出来ないはずがない。
言い淀んだ私に、父が厳しい目を向ける。
「キースには少し気を付けておけ。接し方は今までと一緒で構わないが、反乱軍に関する内容は話すな。私から情報を選別して渡す事にする」
そんなことない…と言いたいのに、父の言葉に返す材料がない。
「…分かり、ました」
「お嬢様、お部屋に戻りましょう…失礼いたします」
リリアが私の肩を抱いて、部屋まで誘導してくれる。
部屋ってことは、もう母に会わないように配慮してくれるのかな。
部屋に着き、パタンと扉が閉じたのを確認して、リリアにすがり付く。
「お兄様、私達を裏切ったりしないわよね…!?」
「もちろんです。本当に見張りが厳しくて、伝書を飛ばせなかったのでしょう」
私の背中をポンポンと叩きながら、優しい言葉をかけてくれる。
ただの慰めだと分かっているけれど、嬉しかった。
「公爵様の疑念を払うためにも、キース様に監視をつけましょう。そうすれば公爵様も分かって下さいますわ」
「…そうね、お兄様の為に、お願いよ…!」
「任せて下さい。ほら、お茶でも飲んで落ち着きましょう?」
グズグズしている私をソファーに座らせ、リリアはお茶の用意をするため退出した。
本当にキースは教団側についたのだろうか…。
私はまだ、断り続けてくれている父のおかげで王族に会った事はないし、教団の悪意のある視線に触れた事はない。
けれど、騎士団長の息子が教団に行くなんて、どれだけの侮蔑の目で見られたのだろう。
その中で教団側から手を差し伸べられたら…?
私は、溢れてくる涙を止めることが出来なかった。
---
昨日はあのまま寝てしまい、気付いたのは早朝だった。
服は夜着に変わっていたから、きっとリリアが着替えさせてくれたのね。子供みたいで恥ずかしい…。
部屋で皇太子宛に手紙を書き、軽くストレッチをしていると、朝の用意をしにリリアが来た。
「おはようございます、お嬢様。ゆっくり休まれましたか?」
「ええ、ありがとうリリア。手間をかけさせて悪かったわね…」
「いえいえ、これぐらい何でもありませんわ」
くすくすと笑われながら、リリアに着替えを手伝ってもらう。
もう、確かにリリアの方がお姉さんだけど、見た目は一緒ぐらいなんだからね!
「本日はアドルフ様がご帰宅なさるので、少し大人っぽいドレスにしましょうか?」
「そうなのね!お願いするわ!」
成長したアドルフに会えるのを楽しみにしていたので、とても嬉しい!が、
「お母様とキースお兄様は帰られたのかしら…?」
2人にとってもここは自宅なので、各々の部屋はもちろんある。
特に母はくつろぐ気だったようなので、てっきり泊まっていると思っていたのだけれど。
「奥様の無断の訪問を公爵様がお怒りになり、お2人共昨日の内にお帰りになられました」
「訪問って…一応自宅なのに、お父様もやるわねぇ…」
まぁそのおかげでアドルフが帰って来れるのだけれど。
今は喜んでおきましょう。
「シルフィー!昨日は大変だったみたいだな!」
「アドルフお兄様!」
5年振りに会う兄は筋骨隆々の大男で、頼れる騎士という雰囲気になっていた。
昔はヒョロ長だったから心配していたのだけれど、余計だったようね。
「ずいぶんと綺麗になって…!こりゃあ社交界デビューすると、周りの男達がザワつくな…!」
「そんなお世辞は結構ですわ。お兄様こそ、もう22歳なのですから、婚約者の1人や2人はいらっしゃるのではなくて?」
ちょっと意地悪な質問をしてみる。
アドルフは艶やかな赤の短髪で、こんがり焼けた肌と、私と同じ緑の瞳が美しい…のだけれど。
父に似て少し角張った頬骨や、大きな鼻、彫りが深くて少し落ち窪んでいるように見える目で、しかもガチムチ。ちょっと…いやかなり怖いかな。正直顔だけだと父より怖く見える。
ちなみに、キースは母似で、小柄で可愛いと言われている。
私は…パーツは母なんだけど彫りが深くなく、父の祖母に似ているのですって。
「おっ、俺はいいんだよ!まだまだ前線で魔物を倒すからな!うん!」
冷や汗がすごい。いじめてごめん、お兄様。
「アドルフ、お前にも見合いの話は来てるんだぞ」
「そうなんですか!?」
「お父様!」
「公爵家の長男、というネームバリューだけで寄ってくる令嬢は山程いる。シルフィーナ、お前も婚約者がいるとはいえ、甘い言葉を吐く男には気を付けるように」
王家を敵に回す覚悟のある人なんていないと思うけど…と思いながら「はい」と頷く。
「さて…積もる話は後にして、早速本題に入るぞ」
婚約話を聞きたくてウズウズしていた兄は、クギを刺されてしょんぼりしている。後でゆっくり聞いてね。
応接室の椅子に座ると、リリアがお茶を運んできた。
ハーブティーの爽やかな香りが心を落ち着かせてくれる。
「先に…アドルフ。用意は終わったか?」
「はい。メンバーの選出も場所の確保も終わりました」
「うむ。あとはいつ始めるかだが…」
アドルフが背筋を伸ばしてキビキビと答える。
ちょっと騎士っぽくてカッコいい。
「シルフィーナ、15歳になったお前の意思を、確認しておきたい」
「…はい」
「10歳の時、私の情でこちらに引き込んだ形となった。教団を選べばおまえの母親と暮らせたはずなのに。しかし王家と教団を倒すのに、そこに何も知らない娘を放り込む事はどうしても出来なかった。私の勝手でお前を巻き込み、本当にすまない」
厳格な父が、私に頭を下げている。
「やめてください、お父様!私も王家の汚いやり方を知って、あちらに行きたいとは思いませんでしたもの!むしろ事前に教えていただいて感謝していますわ!」
「…そうか、そう言ってもらえると少し心が軽くなるな」
そう言ってフッと笑った。
こんな父、初めて見た。
きっと10歳のあの時から、ずっと私に申し訳ないと思ってくれていたのでしょうね。
幼くて何も知らなかった頃ならいざ知らず、10歳の頃には家に帰らない母ではなく、ほぼ毎日帰宅してくれる父の方がずっと好きだったのに。
「…わたくしは、あの時より前からお父様が好きですわ。帰ってきて、一緒に食事をしてくれるお父様が好きです!」
「…そうか。私のエゴではなく、私を選んでくれて嬉しく思うよ」
「お父様…!」
父が優しい顔で私を見ている。
今やっと、本当の親子になれた気がした。
…ずびずび鼻を鳴らしているのはお兄様かしら?
数秒父と見つめあった後、父の表情が厳格なものに戻った。
「…泣き止め、アドルフ。シルフィーナ、本当に反乱軍として活動するのだな?国家に反逆するということは、捕まれば死刑だ。成人した今、全て自己責任となるが…覚悟はあるのか?」
…重い言葉。
でもそのために毎日魔術を練習し、技を磨いてきたのよ。
お腹に力を入れ、真っ直ぐ父を見て、言葉を返す。
「…はい。覚悟しております」
「…よし、分かった。お前も今日から正式に反乱軍の一員だ」
うぉんうぉん泣いているお兄様さえいなければ、重厚なシーンになったのに。
元々熱い人だったけれど、更に拍車がかかったようね。
リリアがお茶のおかわりを入れてくれて、アドルフも落ち着いて。
「…さて、仕事の話をしようか、シルフィーナ」
「はい!」
「昨年、お前がリリアと話していた内容は覚えているか?反乱軍から囮を出すという話だ」
ゴロツキになって、教団の接触を待つ案ね!
「もちろん覚えております。リリアが中々尻尾を出さないと嘆いていましたので、囮として破落戸の振りをするのはどうか?と進言しました」
「それなんだが…危険はあれど、やってみるべきだと会議で決まってな。そこでシルフィーナ、お前にも1枚噛んでもらう事にした」
「父上っ…!シルフィーに囮になれと!?」
アドルフが立ち上がって抗議する。
…この案は危な過ぎるだろうか?
「まあ待て。話は最後まで聞け。シルフィーナを直接囮にするつもりはない。そのためにアドルフ、お前に人員を集めてもらったのだ」
「…失礼しました」
兄が座ったところで、父が続きを説明する。
「シルフィーナは風魔術で常に隠密行動を取り、囮役と我々の連絡役をして欲しい。もちろん護衛はつけるし、慣れるまでリリアに同行してもらう」
連絡役…!リリアと一緒の仕事が出来るのね!
まさかこんなに早く父に頼ってもらえると思っていなかったので、怖いよりも嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「分かりました、精一杯頑張ります!」
「ただし、連絡役とは言え教団に顔を見られたら、その時は役を降りてもらう。お前の顔は騎士団長の娘として割れてしまっているだろうし、そこから反乱軍が見付かるような事になると我々全員おしまいだ。肝に銘じておくように」
…私の失敗が、皆の命を脅かすかもしれないのよね…。
正直、そこまで思い至ってなかった。
本当に気を付けて行動しよう…。
「…はい。いつも頭に入れておきます」
「よろしい。では顔合わせと説明は早い方がいいだろう。アドルフ、明日は可能か?」
「はい。囮役は全員、王都の安宿数件に分け、宿泊させております。地方から出てきたばかりの、金のない若者を装わせています。騎士団側は敷地内の宿舎に部屋がある者ばかりです」
すごい、そんなところから囮演技が始まっているんだ。
そりゃあゴロツキになるのは金のない人が殆どだものね。
普通のホテルに泊まっている人が、急にゴロツキになる事なんて稀だろうし。
「では、先ず騎士団の方から行こう。アドルフ、朝一番に私の執務室へ集まるように連絡してくれ。囮役に会うのはその後、真夜中だ」
「了解しました」
「シルフィーナ、朝から私の娘として、騎士団本部へ行くぞ。対外的には資料整理のバイトとでもしておこう。本来なら教団に見付からぬよう、夜中に風魔術で忍び込んだ方が安全だが、今後任務中に急用で本部に入る時があるだろう。前段階を作っておく」
「分かりました」
「では明日に向け、各々準備しろ」
父の言葉で私と兄は立ち上がり、応接室を後にする。
いよいよ明日から…!期待と不安が入り交じる。
「シルフィー、緊張しなくていいぞ。囮役も騎士団側も、気のいい奴らを集めておいた。それに全員強くて頼もしいから、シルフィーのフォローもしてくれるさ」
兄が肩をポンポンと叩く。
最初からこんなに御膳立てされて、何だか申し訳ない気分になってくる。
「大丈夫、最初ってのは誰にでもあるもんだ。それを経験させ、フォローして一人前に育てていくのさ!」
「…ありがとう、お兄様。明日は宜しくお願いしますわ」
「ああ!本部で待ってるぜ!」
そう言うと兄は屋敷から出ていった。
何とはなしにその後ろ姿を眺めていると…
「お嬢様、いよいよ明日ですわね」
「リリア!びっくりした!」
ぼーっとしていたところに真後ろから声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。
ん?何で明日からって知ってるの?
「…また勝手に聞いていたの?」
「公爵様に許可は取っておりますので、無断ではありませんわ」
「…あなたは私の侍女じゃなかったのかしら?」
思わずジト目になってしまう。
が、リリアに付いてきてもらわないといけないし、説明の手間が省けたと思っておきましょう。
「リリア、改めて…これからは仕事仲間として、そして同志としてもお願いね。迷惑かけると思うけれど、精一杯頑張るわ…!」
「もちろんです、お嬢様!わたくしと一緒に頑張りましょう!」
こうして、私の15歳は幕を開けた。
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