タイトルから受ける印象はラブコメである。
まずクリックしてもらわなければ始まらないWeb小説。そのためかライトな印象を与えるものとなっている。
キャッチコピーも、ラブコメである。
変態というある意味でキャッチーな単語が繰り返し使用されている。
では、あらすじはどうか。
これもまた、ラブコメだ。神という単語は出てくるが、あやかしの要素を香らせるに留まり、ポップな印象を与えるものになっている。
このように、前もって読者に与えられる情報は、ラブコメである点で徹底している。
私はラブコメが苦手だ。
愛という普遍的なテーマを安易に扱いすぎる作品の多さに辟易としている。
しかし、物語が消費されるものに変わって久しい現在、多くのラブコメは読者に消費されるべく量産され、一大ジャンルを築いている。
本作の作者は、それを逆手に取っている。
タイトル、キャッチコピー、あらすじ。その三点はWeb小説において重要だとされる。その三点で作者は敢えてラブコメであることを徹底している。
その徹底は、仕掛けである。
物語が持つ力を、気持ちの良い裏切りという物語にしか許されない作用を、作者は信じている。
それ故、可能となった仕掛けである。
本文に入ろう。
死という元来は重く安易に用いるべきではないモチーフから、この物語は始まる。
多くのライトノベル、特に異世界転生ものにおいて多用されたが故に、軽くなってしまった感のあるWeb小説における主人公の死。
そのため多くの読者にとっては、主人公の死を匂わせる物語の始まり方は、すでにセンセーショナルなものではない。
生と死。それは普遍的なテーマである。太古から繰り返され続ける、物語が語るべきものとして不動の地位にあるテーマであった。
それが今では一大ジャンルを築いた転生ものにおいて、物語を進める道具にまで成り下がっている感がある。
本作の作者は、ここでもそれを逆手に取っている。
ラブコメというジャンルを隠れ蓑に、軽い文体で死のモチーフを用いることで、この作品は手軽に消費できる物語であると提示する。
その提示もまた、仕掛けである。
したたかにWeb小説の特性を逆手に取った作者の、物語の力を信じたが故に可能となった仕掛けは、徐々に効いてくる。
本作を読み進める読者は、徐々に違和感を覚え始めるのだ。
その違和感については、実際に読み進める中で、感じていただきたい。
私は、このレビューをネタバレなしで送りたいからである。
本作は完結している。
見事に完結している。
安心して作者の仕掛けに嵌まり、違和感を愉しみ、完結の余韻に酔って欲しいと切に願う。