第20話 見習い魔女と本当に脆い使い魔の絆
ジャックの放つ光は近付くにつれて強烈になっていく。
こ、これ普通の吸血鬼なら灰になってるところだぞ。ジャックのやつめ、愛しいとかほざいておきながら殺しにかかってるじゃないか。だからネクロマンサーは信用できないんだ。
「く、くそう……」
はっきり言ってどうしていいか分からない。ベリーを頼ろうにも、さっきの言動のせいかジャックに力を貸してやがる。俺の魔力を奪いジャックへ流し込んでいる。最悪だ。
シラーはシラーで苦しそうにしながらもニタニタと俺を見てくる。同じく魔力を……まったくなんて薄情なやつらなんだ。俺の使い魔のくせに信じられない。性根が腐りきってる。
「イトシイ、ミドリ……」
とかなんとか考えているうちにジャックの手が顔の前まで迫っていた。
ああ、もう駄目だ。真なる魔女になって親父に褒めてもらいたかっただけなのに、異世界に飛ばされて使い魔に裏切られたあげくネクロマンサーに殺されるなんて。
眩しさと諦めで目を閉じれば、思い出が走馬灯のように駆け抜けていき、最後にヘラヘラ笑って俺を抱き締めようとする親父と不満そうな緑色のちんちくりんの姿が浮かんだ。
短い人生だったな……
「ふはっ。目を開けろ白緑」
死を覚悟して来世はどんな種族がいいかと考えていたら ジャックが吹き出した。まともな声に戻っている。恐る恐るだが言われたとおり目を開けると、してやったりといった顔でジャックがニヤニヤしていた。
「え? は?」
「どうだ白緑? 恋に落ちたのではないか?」
はあ?
「ドキドキしたであろう? そのドキドキ、胸の高鳴りは我に恋しているからなのだぞ」
どういう思考回路してんだコイツ。今の状況でどうやったら恋に落ちるってんだ。
「これはかの有名な――」
この時代、誰でも知っているであろう吊り橋効果のことを大発見のように説明していくジャック。さっき紹介された料理人の幽霊たちが感銘を受けたよう表情でジャックを引き立てている。
わざとらしいことこの上ない。ていうかそんな説明したら無意味なのでは……
「え、なになに? もう終わりなの? なんだつまんないなぁ」
良司さんが心底つまらなそうな顔で部屋を出ていった。うむ、あの態度はなんなんだろうか。実は良司さんて性格に難ありなのかもしれない。内緒話もすぐバラすし。
「四十歳越えの未婚てやっぱり性格に問題が……」
とりあえずジャックを無視してソファに座る。
「そのとおりですね」
『自分のことよくわかってんじゃん』
安らぎをもたらすはずのソファからシラーとベリー声が聞こえた。いつの間に移動してきたんだ。というより既にシラーは改造ネイルガンを俺のこめかみに押し当てているし、ソファ一の表面に擬態していたベリーは体を茨の付いた繊維状解してがっちり拘束してくる。
ふむ、すさまじい早業じゃないか。なぜさっきジャックに仕掛けなかったんだ。
「まあ落ち着け二人とも。敵を欺くにはまず味方からって言うだろ? 俺なりに逆転の考えがあったんだよ」
まあ嘘だけど。
「ありえませんね」
『そうそう。白緑はアドリブがきくタイプじゃないもん』
まったくもって二人の言うとおりだが、ここで態度に出してしまっては罪を認めたことになる。だからどこまでもしらを切りとおさせてもらうぞ。我が身はかわいいからな。
「俺は傷付いてるんだぞ。大親友だと思ってた二人が俺の真意に気付かずジャック寝返るなんて。信じられない」
「信じられないのは白緑のよく回るその口ですね」
『まったくだよ。ボクらは使い魔でも側近なんだよ? 魔力の供給が十分なら主の思考くらい簡単に読み取れるんだからね』
……そうだった。ここ何十年も魔力が不足していたから忘れていた。
「プライバシーの侵害だ!」
「黙りなさいクソ白緑!」
『ボクたちを見捨てるなんて許さないんだからね!』
「はぁ!? 最初にシラーを見捨てようって言ったのはベリーじゃないか!」
あれよあれよと喧嘩に発展した俺たち。気が付けば、せっかく回復していた魔力のほとんど使ってしまっていた。
「であるからして、白緑は我の妃として――」
なんだか馬鹿らしくなってきて、未だに喋り続けるジャックに軽く八つ当たりをしたあと、フレンチさんにおやつのカヌレを頼んだ。例のヤマザクラくんの樹液たっぷりで。
「ククク、ざまぁみやがれ」
『魔力のない白緑なんて雑魚だよ雑魚。いつでも勝てるもんね』
はぁはぁ言いながらアホなことをほざく馬鹿ども。俺の魔力がないってことはお前たちも使い魔契約の恩恵が無に等しいってこと忘れてるのかよ。
まあ、元の力に色々上乗せされるだけだからいいのかもしれないが。
くそぅ。せっかくの俺の魔力……はぁ、カヌレ旨い。
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