第4話 オアシス

 「お前、いつもここで飯食っとるけどなんでなん?」


 私の唯一のオアシスをタバコを咥えただらしない男に荒らされた。


 ここは私が1ヶ月前ぐらいに偶然見つけたオアシス。多分小学生の秘密基地だったんだと思う。学校が嫌すぎて、苦しすぎて登校拒否になった私。しかし、結局家にいても親の落胆や何かしら感じる圧で潰れてしまいそうだった。安寧だと思っていた場所は安寧ではなくなってしまった。

 家にいたとしても対してやることなどない。堕落でスマホを起動し、何の役にも立たない動画を無表情で見つめ続け、時折笑いを漏らす。あ、私、まだ笑えたんだ。そう思うだけ。だからといって何かが好転するわけでもない。気が付いたら夕方になっている。親が帰宅する。親が鳴らす生活音に緊張する。息が詰まりそうになる。

 

 どこか私だけの。一人でいれる場所が欲しい。


 そうして永遠にすら感じる暇な時間を使って、勇気を出して外に出てみた。日差しが怖い。車の往来が怖い。なにより外が怖い。基本的に街や人がいる場所は避ける。こんな時間に私が出歩いているのを不思議がる人間がいるだろうし、どこかで高校の人間に目撃されるのも嫌だったから。

 そうしていたら、いつの間にか山道を登っていた。そこまで急ではない山道を汗を流しながら無心で歩いた。木々が日よけになってくれていたから幾分涼しい。人間を感じず、代わりに鳥や植物に囲まれる環境に居心地の良さを感じる。鳥の鳴き声が私を迎えてくれるような錯覚を起こす。とりあえず私は黙々と上った。そして見つけたのが、今の私のオアシス。


 ようやく見つけたのに…。


 「なんじゃあ!!」

 

 男が急に大声出すから驚いて、作ってきた弁当を落としてしまった。派手な音と共に弁当箱から食物が躍り出る。

 せっかく親が仕事に行ったことを確認して、出来るだけ物音を立てないように、痕跡を残さないように配慮しながら苦労して作ったのに…。


 「なんで落とすんじゃ!!」

 

 弁当からこぼれた食物達の残骸を指差しながら男はまた大声をあげた。

私はギュッと目を瞑ってどっかに行けと願った。


 「お前頭の中で文章作ってない?」


 男は私を見つめながら、腕組みながら短く尋ねた。


 「いや、見てもないし腕も組んでないから。」


…。


 見ていたし、組んでいたことにする。その男は土足でオアシスに踏み込ー。


 「お前も土足やないか。あと、頭の中の文章でちょっと気取ってダッシュとか使う  

 な。」


…。


 え…?


 「なんやぁ!!」


…。


 え。コレ聞こえてんの?


 「女は驚きながら俺の方を振り向いた。鼻毛が出ていた。」


 いや、やめろや。出てないし。なんやねん。


 「お前こそ普通に喋れや。」


 なんで会話できてんの?怖いねんけど?


 「お前こそいつまで脳文で乗り切ろうとしてんねん。」


 変な言葉を生むなよ。


 「お前のその卵焼き、甘いタイプ?」


…。


 「甘くない。甘いの嫌いやもん。」


あ。


 「あ。」

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