第8話 トカゲ拷問とお気楽王太子
「ト、トカゲ……?」
シャルルの発したその言葉に、ミゲルは硬直し、青くなった。
その様子にシャルルはは満足そうに微笑み、こう言った。
「湖ではトカゲ一匹で、貴様はずいぶんみっともなく泣き喚いていたな。あろうことか、ジュリア伯爵令嬢に抱きついて。一匹であれじゃあ、百匹ならどうなるかな……」
「み、見てたんですか……。だけど、どうやってそんな都合よくトカゲ百匹も用意したんですか」
「お前以外にも王宮に魔導師は沢山いる。魔法なら一匹を百匹に増やすことなんて簡単だ。ほら来たぞ。頭からぶちまけてやるよ」
「ええ~~!!」
ミゲルはすでに泣き声になっていた。
そんな。トカゲだけはだめなんだってば。あれがこっちに来るまでなんとか時間稼ぎしようと思ってたのに。
厳しい尋問も、どんな拷問も耐えてみせるつもりだった。なのに、ま、まさかトカゲ百匹なんて。
ジュリア様、助けて……!!
「まだ何もやってないのに、なんて顔してるんだ、貴様は。トカゲがいやなら、あのアンドロイドをさっさと元の世界に戻すと誓え。そうすれば、またジュリア伯爵令嬢が、兄上の婚約者となるだろう。私の目から見ても、ジュリア伯爵令嬢は未来の王妃にふさわしい」
「あ、あんな女狂いとジュリア様を結婚なんて、させるもんか……!」
トカゲにビビりながらも、ミゲルはそう反論せずにはいられなかった。
「なんだとー!! 兄上のことを女狂いだと? 不敬罪だ! よっぽどトカゲを被りたいみたいだな!」
兵士が持ってきた透明なケースの中に、トカゲがうようよいるのが、ミゲルの目に入った。シャルルはそのケースを受け取ると、ミゲルの顔にぶちまける姿勢をとった。
ミゲルは首がもげそうなほど頭をぶんぶん振った。
「い、嫌だ、お願いですから、やめて下さいシャルル殿下」
「だったら、アンドロイドを元の世界に戻せ! そして兄上への侮辱を取り消せ!」
「それも嫌です! シャルル殿下、貴方だって本当はお気づきになっているはずだ、兄の女癖の悪さに。見ない振りをしているだけだ。本心では、この国の未来を憂いているのではないのですか」
「し、しかし、未来の王たるもの、女遊びくらい……」
「女遊び程度じゃないんですよ、僕はジルベール様の近くに仕えていたからよく知っています。あの方はいつも女のことしか考えていない! この国のことなんてなーんにも考えてないんです」
それは本当だった。ジュリアにジルベールの本性を打ち明けたときは、かなりソフトに説明したが、本当はそんなレベルじゃないのだ。彼は王になって女性をはべらすことしか考えていない。
シャルルがトカゲケースを抱えたまま、黙ってうつむいた。分かってもらえたかと、ミゲルは安堵した。
が。
「ただの雇われ魔導師の貴様を信用できるはずないだろう! さっさとアンドロイドを元の世界に戻せ!」
シャルルがトカゲケースを持ち上げた。
「ぎゃああああああ! ジュリア様、助けて下さい~~!!」
♦♦♦
ジルベールは、自室の大きなベッドに、バスローブ一枚で寝っ転がっていた。まわりには若く美しい女が何人もいて、ジルベールの体をマッサージしたり、うちわで扇いだりしていた。
アンドロイドはというと、今、シャワーを浴びている最中だった。これからジルベールとベッドに入るためである。
(やっぱりたくさんの女に囲まれて、尽くされるのは最高だな。ゆくゆくは俺が王となり、国のすべての若い女が俺のものに……げへへへへ)
ジルベールは公の前ではあまりしゃべらず、いつも澄ました真面目な顔つきをしていたが、心の中では365日こんなことを考えていた。
アンドロイドに任せる前から公務もあんまりできてなかったが、まわりの配下が色々フォローしていたのだ。
(シャルルは本当に真面目だからなー。いい兄貴を演じるのも疲れるぜ。この前テラスではうっかりアンドロイドとデレデレしたところを見せてしまったが。俺としたことが、ここ数日はアンドロイドにばかり夢中になって、どうかしてたぜ)
ミゲルがジルベールにかけた「アンドロイド一筋にデレデレになる魔法」はすでに解けていた。
魔力を封印された今、ミゲルは「水の天馬」を維持するだけで精いっぱいなのだ。
彼はシャルルに魔力封印銃で撃たれた瞬間、呪文を唱えて封印にとっさにあらがった。そして、最後の力を振り絞り魔法を使い、湖の水から、巨大な天馬を造った。そのあとはさすがに魔力封印銃の力を抑えることができず、魔力を完全に抑えられてしまったが。
そんなことを知る由もないジルベールは、そうは言っても、アンドロイドをかなり気に入っていた。なにせ「俺の好みドストライクな女」なのだから、当然とも言えた。
これからは、そのドストライクとお楽しみの時間だ。頬がだらしなく緩み、よだれが垂れるのを抑えることができない。
(そういえば、ジュリアとは婚約破棄してしまったんだな)
ふと、頭の片隅でそんなことを考えていた。
伯爵家の一人娘のため、さすがに婚姻前に手を出せず、あまり相手にしていなかった。俺の妻になり、世継ぎを産むためにいる存在だと思っていた。父である国王も、そういう考えだった。
(相手にしていなかったとはいえ、離れられると惜しくなるな。自分の持ち物が減るのは我慢ならん。今度、側室として迎えてやろう)
相手がどう思っているかなんて一ミリも考えていない王太子は、部屋の扉が開く音ではっとした。アンドロイドがシャワーを浴び終わったのだ。
が、アンドロイドはあきらかにシャワーを浴びたふうに髪を濡らしてはいるものの、ドレスを着たままだった。
ジルベールはまわりの女たちに下がるように命じた。
「アンドロイド、なんでドレスを着たままなんだ? さては、そんな真っ黒でセクシーなドレスを着て、俺に脱がしてほしいんだな? 仕方ないやつだ」
ジルベールはアンドロイドに手を伸ばした。しかし、逆にアンドロイドに腕を掴まれ、ジルベールは宙を舞った。気がついたときには床に叩きつけられ、アンドロイドに組み敷かれていた。
「ぎゃあああああああ、う、腕が折れた!」
腕の痛みで自分がアンドロイドに投げ飛ばされたのだと、ジルベールは気がついた。自分に馬乗りになっているアンドロイドを睨みつける。
「き、貴様、一体何を……」
アンドロイドの妖艶で美しい顔は無表情だった。いや、表情がなかった。真っ赤な唇が、こう告げた。
「ジルベール……女の敵……ハイジョ、スル」
アンドロイドは機械なので、シャワーを浴びて、壊れていた。
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