第9話 天馬に乗ったわたくしと壊れて暴走するアンドロイド
23世紀のアンドロイドなので、もちろん防水機能はついていたが、異世界から召喚されたさいに傷がつき、不具合が生じていた。こちらの世界に来てから、ナノマシンがせっせと修復していたのだが、今回のシャワーで修復不可能となった。
「オマエ……オンナノ、テキ……、チョンギッテシマオウカ」
アンドロイドのその言葉に、ジルベールは真っ青になった。ちょん切るって、ま、まさか、俺の……。
冗談じゃないと、足をばたつかせ逃げようとするが、押さえつけるアンドロイドの力に到底敵わなかった。
「なんなんだこの怪力女め! おい、誰かいないのか、俺を助けろ! 命令だ!」
ジルベールは部屋の外に向かって叫ぶ。だが、ジルベールに仕えていた若い女たちはアンドロイドに怯えて、みな逃げてしまった。
「助けてくれ! 助けてくれ!」
叫び続けるジルベールの視界の隅に、奇妙なものが映った。窓の外から、何かがこちらに向かってくる。
(な、なんだ、敵国の魔法弾か?)
ジルベールはどうすることもできずに息をのむ。「その何か」はまっすぐにジルベールの部屋の窓に向かい、とうとう窓を突き破った。
割れても破片があまり飛び散らない魔法ガラスなので、ジルベールもアンドロイドも破片を被らずにすんだ。
窓の外には翼の生えた大きな馬がいた。馬の額には一本の角。馬の体は水でできていて、ゆらゆら波打っている。
たてがみに、女性が一人しがみついていた。
ジルベールがよく知る人物だった。
「ジュリア……? ジュリアなのか、た、助けてくれ」
ジルベールはとっさにそう叫んだが、ジュリアは水でできた馬と怒鳴り合っていた。
「ちょっと、すぐにミゲルに追いつくはずだったのに、こんなに時間かかっちゃったじゃない!」
『女、お前が何度も振り落とされそうになるから行ったり来たりで時間がかかったのだ。見捨てても良かったんだぞ』
「貴方の飛び方がなってないのよ! 淑女を乗せているんだから、もう少し気をつけなさいよ」
『なんて無茶苦茶な女だ。飛ばせ、全速力で! と言ってきたのはお前だろう』
ジュリア……? なんだか俺の知っている、素直で大人しいジュリアじゃないみたいだが……。
ジルベールは一瞬困惑したが、我に返り、ジュリアに助けを求めた。
「ジュ、ジュリア、助けてくれ。見てのとおり、俺は今、この女に殺されそうになっている!」
♦♦♦
いざミゲルを助けに行こうと水の天馬に飛び乗ったジュリアだったが、空高く駆け巡る天馬の飛び方は荒く、ジュリアは何度も馬から落ちそうになった。
「もう少し丁寧に飛べないんですの? わたくし空から真っ逆さまに落ちてしまいますわ!」
虹色の翼を羽ばたかせ、空を舞う天馬は、負けじと言い返した。
『我はすぐにでも我が
そんな感じな言い合いをしながら、ジュリアと天馬は王宮にたどり着いた。そして、手近な窓に突っ込んだら、ジルベールの部屋だったというわけだった。
「ちょっと、すぐにミゲルに追いつくはずだったのに、こんなに時間かかっちゃったじゃない!」
『女、お前が何度も振り落とされそうになるから行ったり来たりで時間がかかったのだ。見捨てても良かったんだぞ』
「貴方の飛び方がなってないのよ! 淑女を乗せているんだから、もう少し気をつけなさいよ」
『なんて無茶苦茶な女だ。飛ばせ、全速力で! と言ってきたのはお前だろう』
「だからって、窓に突っ込むなんて」
『ミゲル殿の居場所は王宮の誰かに聞いた方が早い。おい、そこの男と女。魔導師ミゲルの居場所を知らないか』
天馬はジルベールとアンドロイドに聞いた。
「ジュ、ジュリア、助けてくれ。見てのとおり、俺は今、この女に殺されそうになっている!」
男の方が叫んだ。
「ジ、ジルベール様?」
ジュリアはあっと驚く光景に声を上げた。床の上でジルベールが、バスローブ一枚で、アンドロイドに押さえつけられているのである。
「そんなあられもない姿で、一体どうしたんですか、ジルベール様」
ジュリアは天馬の上から声を掛けた。
「どうしたもこうしたも、アンドロイドが俺を……」
「ジルベール……オンナのテキ……ハイジョスル」
「頼む! 助けてくれジュリア!」
「ジルベール様!」
ジュリアはとっさに天馬から飛び降りて、アンドロイドに体当たりした。アンドロイドは不意打ちをくらって、その場に倒れた。
「ジルベール様、ミゲルの居場所をご存じないですか」
「えっ、ミ、ミゲル?」
ジルベールは肩で息をしながら、上体を起こした。
「さ、さあ、俺にはさっぱり」
「じゃあ、この王宮で、罪人を尋問する部屋はありますか」
「ち、地下室だ。王宮の西側の……」
「ジィィィルベエエエエエエエエルゥウウウウウウ」
倒れたアンドロイドが体制を立て直し、こちらに迫ってきた。
ジュリアは危険を感じ、とっさにジルベールの腕を掴むと、窓から一緒に天馬に飛び乗った。
「天馬さん! ミゲルは王宮の西側の地下室よ!」
『承知した。おい、そこの男、詳しく案内しろ』
「な、お前、馬の分際でこの俺に命令するのか! 無礼者めが! 俺を誰だと思っている!」
ジルベールは王太子の意地で叫んだが、天馬が、
『地面に叩き落とすぞ』
と低い声で凄むと、黙って大人しくなった。
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