第一章12『レベル100でもチートには勝てない』

「準決勝進出おめでとー!」


 控え室にセレネの声が響く。


「まさかブルー君が全く苦戦せずに敵を全員倒しちゃうなんてね。流石だよ」


 オルトーもにこやかに称賛の言葉を贈る。

怪物襲撃の件ですっかり尊敬されてしまったようだ。

結局五回戦連続でブルーが難なく全ての敵を倒してしまった。

全128チームトーナメントで、既にtop4にまで登り詰めたかと思うと不思議な気分だ。


「次の敵は、そうはいかないかもしれない」


 クァイスがボソッと呟いた。

その言葉に全員の顔が険しくなる。


 それもそのはずで、次のチームはブルー達と同様に対戦相手を全て先鋒の一人が倒している強豪だ。

それだけであればトーナメントを登るにつれ必ず現れる壁として納得出来るが、くだんのチームは魔法や武器を使った様子がなく、毎回一瞬のうちに敵が倒れていて全く手の内が読めないのが問題だ。


 何かをしようと身体が動いている様子もなく相手を倒す様はまさに超能力と言わざるを得ない。

いくらブルーといえど見えない攻撃を躱すことは出来ないだろう。

負けるにしても少しでも情報を引き出して次に繋げたいところだ。


「ま、まあブルー君ならなんとかしてくれるでしょ」


 セレネがそう言ってこちらを見てきたが、目を合わせることが出来なかった。


───どうする?作戦を練らなきゃ確実に何もせずに負ける。


 無慈悲に時間は過ぎ、問題のチームとの試合時間になった。

仲間の声援を背にブルーはゆっくりと舞台へ上がった。

一歩一歩、確かめながら舞台へ登る。

敵の前まで行って顔を上げると、敵の男性が話しかけてきた。


「あれ、なんで目を瞑ってるんだい?」


 ブルーは控え室から舞台へ向かうまで、一度も目を開かずに歩いて来ていた。


「あぁ、俺目が見えないんだ。気にしないでくれ」


 そう言ってナイフを構える。勿論ブラフだ。

 試合開始のブザーと共にブルーは大きく後ろへ飛んだ。

今まで通りの試合ならここで倒されるはずだ。

ブルーは身構えて攻撃を待ったが、何も起きることはなかった。


───やはりそうか。


 ブルーの読みは当たっていた。

 そもそも魔法も武器も使わず、触れずに相手を倒すことなど不可能だ。

そこから推察するに、試合前から何かのきっかけで発動する魔法を使っているのだろう。


 通常、事前に仕込んだ魔法を発動するには指を鳴らす等の動作を引き金にすることが多いが、今までの試合を見る限り動いているようにも見えなかった。

更に、物理的なノックバックもない点を踏まえると相手自身に直接影響を及ぼす魔法だと推察出来る。


 つまり、ノーモーションでかつ相手に影響する何かが魔法の発動条件のはずだ。

考えられるのは『五感』を刺激する何か。

味覚や触覚は関係ないと思われるため、確実に対策するためには五感のうち三つを塞ぐ必要があるが、よりモーションが少なく影響する視覚を塞ぐことを選んだ。

耳や鼻を全て塞いでしまっては対戦の仕様がない。


 ただ、視覚を塞いだハンデは相当大きい。

いくら幼少期から鍛えているとはいえブルーは目を塞いで戦った経験など存在しない。

何も見えない暗い視界に、ブルーはふとハナの顔を思い出す。

ハナと同じ魔法を使えれば、と無理な望みを抱く。


 開始と同時に大きく間合いを開いたが、むしろ飛び込んで攻撃した方が良かったのかもしれない。


───いや、今更後悔しても遅い。今出来ることを精一杯やるだけだ。


 ブルーはナイフを構え、相手が動くのを待つことにした。

すると、対戦相手の男が声をかけてきた。


「驚いた。僕の魔法が五感を使うものだって初見で見抜いたのは君くらいだ。すごいね」


 音を頼りにするしかないブルーの現状をわかっているはずなのに、堂々と自分の位置をさらけ出す。

一体何を考えているかわからない。

相手は比較的若めの雰囲気の男性で、全身が白いローブで隠れていたことだけは事前に分かっていたが、それ以外の情報は全くない。


「やっぱり視覚が当たりか。目を見たら気絶させられるとかそういう類の魔法だろ?」


 正確な位置を探るために敢えて話に乗った。


「おーすごいね。そうだよ。当たりだ」


 驚いたような口調で話す。

有難い。この一言のおかげで大体の場所が把握出来た。

相手が油断している今がチャンスだ。

ナイフに仕込んだ秘密兵器でこいつを一撃で仕留める。


 ブルーはナイフを握る手に力を込め、地面を思い切り蹴った。


「半分、ね」


 切りかかる瞬間、相手が呟いた一言にブルーは凄まじい悪寒が走った。

ブルーが切りかかるのを躊躇したと同時に相手が手を思い切り叩く。

 パン、と大きな音が響いた途端、ブルーの身体中が電撃が走ったように痺れ、そのまま勢いよく地面へ倒れてしまった。


「何…を…」


 ブルーは突然のことに何が起こったのか分からないまま地面に突っ伏す。


「残念でした。僕の魔法はそんな単純じゃないんだ」


 まるで何事もなかったかのように声のトーンを変えずに話す声を聞いて、ブルーは一つの言葉が浮かんだ。

"格上"だ。この人物には勝てないと全身で感じ取ってしまった。

この人物はきっと想像もつかない程の実力を隠し持っているのだろう。

ブルーはゆっくりと意識が遠のく中、自分の超えなければならない壁をはっきり感じ取っていた。


 試合終了のゴングが鳴り、ブルーは戦闘不能と見なされ負けとなった。

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